快楽殺人5
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鉄格子風の門が音を立てて開く。
中は外部とは違い、花が植えられ手入りされているようだった。
昔ここを通ったことがある。その時は、手入りされず草が生い茂っていたはずであり、小学生たちの間では幽霊屋敷と呼ばれていた気がする。
「どうぞ」
玄関の灯りが逆光となり楓の顔に影を落とす。
「いつからここに?」
幽霊屋敷がいつから人の住む豪邸に成り上がったのか記憶になかった。
「高校を入る直前だから9ヶ月ほど前よ」
今は11月だ。息が白くなり始め、空気が肌を突き刺す時期であり、ポケットに雑に隠した包丁が冷える。
ふと自動的に玄関が開く。
そこで待ち構えていたのは、アニメで着るようなメイド服を着た綺麗な女性だった。
「おかえりなさいませ。お嬢様」
メイド服の女性が軽く頭を下げる。
広い豪邸に綺麗な使用人。まるで夢のような感覚だった。
楓は学校の鞄と着ていた上着を渡す。
「こちらへどうぞ」
落ち着いた口調に一気に変わった。
メイドさんに軽く会釈して靴を脱ぐ。
制服姿の楓が髪を靡かせ向かった先は1つ部屋の前だった。
「この中で少し寛いでて。私は着替えてくるわ」
話したことの無いクラスメイトとはいえ女性の家で寛げる訳が無い。
「分かった。だけど早めに帰ってきてくれよ」
楓は聞き届けるとどこか違うところに行ってしまった。
1人取り残されて桜は目の前の扉を恐る恐る開く。
その部屋を形容するには難しいという他なかった。
年頃の女性ならば色が使われ華やかな部屋をイメージしていた。外観が豪華なのだからという気持ちも少しあった。しかしこれは質素というレベルではなかった。ベットに立ち鏡、何も置かれていない机と椅子という必要最小限のものしか無かった。
部屋の中に入ると物の少なさから部屋の大きさが分かる。
それでも女性のいい匂いがすると落ち着かなくなってしまう。
部屋の中をウロウロしていると扉が開く。
「お茶をお持ちしました」
メイド服の女性がトレイを持って部屋に入る。
「貴方は使用人か何かなんですか?」
それは姿から分かりきったことだった。
「はい。楓お嬢様にお仕えしている橘 菫といいます」
また少しお辞儀をする。
「お嬢様の事よろしくお願いします」
その言葉がどういった意味かは分からなかった。
菫が立ち去ろうと後ろに下がると入れ替わりで楓が入ってくる。
「お茶ありがとう」
どういたしましてと告げるとそのままどこかに行ってしまった。
楓は駅で見た美しく凛とした立ち振る舞いを更に強調させるような紺色の着物を身にまとっていた。