快楽殺人3
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それからというものの2人の間に会話は無かった。
数少ない会話の中ではあったが小さな違和感を感じる。
「(どうしてホテルに泊まったと思ったのだろう)」
彼女とは確かにホテルの前ですれ違った。だけども泊まったとは限らない。
そう。桜は知っていたのだ。クラスで渦巻く噂のことを。
「柊 楓は金を払えば誰とでも寝る」
誰が流したのかも分からず、真偽も定かではない。
それでも、その噂は蛇のように這いずり回り確かにクラスを絞めつけている。
「もしかして誰とでも寝るっていうやつ?」
結果は知っていた。それでも彼女真っ直ぐにこちらを見るだけで答えなかった。
電車が楓の長い髪を揺らし、黒く艶のある髪が光で反射する。通り抜けた冷たい風が目に障り思わず目を瞑る。
「血のすごくいい匂いがするね…君…」
声が耳元で聞こえる。びっくりして目を開くと顔と顔が近付きすぎてお互いの体温が分かってしまうような距離にいる。
髪が鼻に触れて洗髪料のいい匂いがする。
心臓が大きく脈を打つ。女性が至近距離にいることが理由でもあるが言葉の内容にも心臓が動かされた。
「(バレた?バレたばれたばれたはれたれた?!?!??)」
頭の中が真っ白になるのが自分でもわかるようだった。
偽装はいつも通りしていた。一般人なら分かるはずもない。それでもいつかはバレるものでもあるほど雑ではあった。
しかし、よりにもよって同じ高校の同じクラスの彼女が分かってしまった。
世界が遅れて見える。いつの間にか止まっていた電車の扉がゆっくり開く。
それに合わせるかのように彼女の顔が離れていく。
楓は口元を手で上品に隠しつつも恍惚とした顔でこちらを見つめていた。
真っ白になった頭に恍惚とした顔の楓が映る。
それはもう間違いがなかった。
「(ああ…この人は同族だ…)」