表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7号機品  作者: joblessman
6/10

ぬくもり

 晴天だった。

 泊まりか。連日になるし、大家さんに頼むのもな。ドガーは、うーん。

 7号機品の足取りは重かった。ルッタは無言で後ろをついてくる。大家さんにもらった麦わら帽子をかぶり、日差しから目元を隠している。

 7号機品は、なんとなくルッタとの会話がはばかられ、どこへ向かうかも伝えずに家を出た。妙な気まずさを感じながらも市場を歩く。物売りが商品を広げている。いくつもの露天が並び、人通りも多い。ルッタは大丈夫か、と7号機品がちらりと後ろを見たその時、


「あっ」


 と行き交う人の肩にぶつかり、ルッタがよろける。7号機品は、なんとか手を差し出し、ルッタを支える。ルッタと7号機品の手が、重なる。


「大丈夫か」


「う、うん」


 とルッタは、体勢を直しながらも、ずっと7号機品の手を離そうとしなかった。

 人ごみで見失うよりはいいが、と7号機品は、自身の手を思う。


「わ、私の手は、ごつごつしているから、マントを掴んでもいいぞ」


 7号機品のことばにルッタはこくりと頷くが、しかし手を離すことはなかった。

 市場を抜け、市街へと歩く。 

 相変わらず無言であった。しかし、先ほどまでの気まずさはなかった。ただ、手を繋いでいる。その一点のみが、違うだけであった。

 ウメコの工場は変わらずにそこにあった。工場の前で陽光に照らされ、伸びをしているウメコが見えた。7号機品は、咄嗟に、ルッタと繋いだ手を離す。


「い、いや、違うんだ。ここが目的地で」


 と7号機品が何かもやもやとルッタに言い訳をしていると、


「あ!」


 とウメコが二人に気づいた。

 ぎくりと、7号機品はウメコを見た。


「なになに、どういう風の吹き回しよ!連日の訪問じゃない!って、ちょっと、ナナちゃん、この子なにさ、ええ!?」


 と寝ぼけ眼を擦ると、ウメコは近づいてくる。


「そういうんじゃない」


「どうしたのその子は?」


「依頼で明日の夜まで帰れない。すまんが、一日預かってほしい。足が機械体になっている。頼れる人が限られる」


 ルッタは、はっと7号機品を見た。

 ウメコは、ルッタが7号機品を見たのを、そのルッタの潤いに満ちた瞳を、繁々と見た。そして


「頼れる人が限られるって、まあそうなんだろうけど。ちょいとごめんね」とルッタのオーバーオールの足下をめくり上げる。


「なるほどね。L特の欠損部分はこの子に使われてんだね」


「ダメか?」


「ああ、いや、ダメってことはないけどさ。名前はなんての?」


 とウメコは腰を屈め、ルッタを優しく見た。


「ル、ルッタ、です」


 ルッタの声は、幾分暗い。


「ルッタね。いい名前だ」


 とウメコは今度は7号機品を見て訊ねる。


「今度の依頼はどこだい?」


「ベリアト平原だ」


「ベリアト平原?あの辺りは機械戦争の激戦地だったとこでしょ?どんな依頼主よ」


「教えるわけないだろ」


「まあいいわ。ベリアトなら、手前に町があるでしょ。で、ルッタはどうしたい?私と過ごすか、ななちゃんと行くか」


「ウ、ウメコ、な、なにを」


「手前の町までなら危険はないでしょう」


 鋭く言うウメコに、7号機品は口を紡ぐ。 

 ルッタは、ちらりと7号機品を見ると、目を伏せる。


「気にしなくていいよ。自分のしたい方をいえばいい。無理に大人になる必要はないよ」


 ウメコのことばに、ルッタはぎゅっと袖を握り、言う。


「い、一緒に、い、行きたい」


「ようし、よく行った!連れてってやんな!」


「はあ!?おい!」


「なにさ!なら他を当たりな」


 とウメコは背中を向け歩き出した。

 7号機品は、工場に戻るウメコを追いかけると、小声で言う。


「あ、あの子は火事で周りの人たちに死なれ、孤独なんだ。私なんかじゃなく、もっと、お前のような人と」


「あの子は大丈夫さ。温もりをちゃんと知ってるし、覚えてる。それより」


「な、なんだ」


「あんただよ」


「わ、私?なんで」


「はい、さようなら」


 ウメコは、シャッターを閉めた。


「こ、こら」


 7号機品のことばが、虚しく散る。

 振り返ると、道の真ん中でルッタが所在なく立っていた。


「ご、ごめんなさい」


「いや、違う。私のほうこそ、すまん。えっと、なんだ、まあ、明日の夜には戻れると思うが」


「う、うん」


「う、うむ。よし、行こう」


 と7号機品は目を合わせずにゆっくりと歩き出すと、ルッタも歩き出した。




 ロンド駅から汽車に乗り込む。窓際の席に向かい合って座る。

 汽車が動き出す。


「4時間以上かかる」


「うん」


 とルッタは、窓の外を興味津々で見ている。

 7号機品も、窓の外を見てみた。高層ビルから、雑居ビルへ。かと思えば、トタン屋根の続く古びた建物が並ぶ。川を渡る。河川敷で走る人々。少しづつ木々が増えていく。田畑も増え、その向こうには山々があった。7号機品は、無感情にただただその視覚情報を追っていた。ふと、前に座るルッタを見た。いつのまにか、こくりこくりと眠っている。麦わら帽子を大事そうに膝の上に置き、口をぽかんと開けて。7号機品は、飽きることなくルッタを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ