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7号機品  作者: joblessman
3/10

L特選型機械兵

 一週間後、7号機品は都市部から随分離れた森を歩いていた。8年間におよび、そして4年前に突如終結した機械戦争に巻き込まれなかったほどの、辺境の地。もちろん、仕事のためにである。左腕の修理後、ドガーよりすぐに依頼を受けた。ドガーの表の仕事は測量事務所。しかし、裏では殺しの依頼を受けていた。それも、自殺志願のもの限定である。


ーーー歪な世界だ


 と7号機品は、自らも関わるこの仕事を思った。4年前に突如現れた平和により、世界は大きく変革した。その隙間を、ドガーが商売にしている。ドガーいわく、そこに需要がある。そして、普通の殺しよりも恨みがなくていい、と。なるほどな、と7号機品は、その持て余した力をその仕事に使っているわけだが。前回の赤い髪の女しかり、やはり依頼者は変なやつが多い。今回の依頼書を改めて確認する。依頼者は匿名希望で、遂行者の可能条件に女、そしてこの奥地にて待つ、と。私は女ではないのだが、と7号機品はぽりぽりと額を掻く。

 この偏狭な地の、奥深い森。そこにぽっかりと開けた茂みがあった。そこに立つもの。


「おいおい、まさかお前が依頼者じゃねえだろうな」


「アア。イライドオリ、オンナダナ」


 茂みの中に立つ機械兵が答えた。右レッグと右アームの一部がなく、その銀色の体には黒ずみが見られた。


「まあ、私は女っていうか。手負いの機械が依頼者って、どうなってんだ」


「ネガイガ、アル」


「願い?お前、本当に本当に機械だろうな?」


「ココヨリニシヘヤク2キロ。ミズウミガアル。ソノチカクニ、コヤガアル。ソコ二イッテクレ」


「はあ?やだよ。見返りもない。それより、誰かが操ってるな?そんな機械は」


「Lトクセンガタキカイヘイ」


 ぴくりと、7号機品は反応する。


「L特?おとぎ話でもしてるのか?」


「オトギバナシデハナイ。ワタシガソウダ。ココニジツザイスル。タカクウレルダロウ」


 鳥たちがチュンチュンと煩く鳴き合う。

 森を走り回る小動物が、がさりとどこかで音を立てる。

 7号機品は、にやりと笑い、答える。


「お前があのL特、ね。ならこの会話にも合点がいく。まあいいけど、お前を殺して、私がその湖のそばの小屋にいく保証はないぞ」


「ワタシハ、ウラナイガスキダッタ」


「は?」


「ワタシノウマレタニチジ、バショヲ、コウチクシタウラナイシステム二ウチコンダ。キョウキタルオマエハ、ワタシノネガイヲキキイレルダロウ」


「L特ってのは、馬鹿なのか?もう思い残すことはないな?依頼を遂行させてもらう」


「ワタシヲヤミクモ二コロセバ、ジドウバクハシステムガサドウスル。アタリイッタイガナクナルダロウ」


「おいおい、どうすればいいんだよ」


「ムネトムネノアイダヲイッテン二ツキサセ。ジドウバクハシステムヲカイジョデキル」


「あぶない機械だな」


 と7号機品はL特選型機械兵に向かっていく。

 L特選型機械兵は、残った左アームを突き出し、その手を開く。


「ビームガイクゾ」


「なんで抵抗するんだよ!」


「ジドウボウエイプログラミングガハツドウシタ。イライショ二キサイシタハズダ」


「まじか。ちゃんと読んでねえ」


 L特選型機械兵の左手は、キュインキュインと音を立てると、ビームを発射した。


「くそ!」


 と7号機品は左手にした手袋を外し、正面に向けると「『シールド』コンパイル」と唱えた。左手に透明のシールドができると、L特選型機械兵の放ったビームとぶつかる。

 土煙が舞う。


「オマエモキカイナノカ?」


「なんだ?気になるか?」


「オモイダシタヨ。『ココロ』ヲ」


 7号機品は、はっとL特選型機械兵を見る。


「『ココロ』は、あるのか!?」


「アル」


「どこに!?」


「サガセ。オシエルコトデハナイ」


 L特選型機械兵は、左アームを上げビームを放つ。


「くそ」


 と7号機品は駆けた。跳躍してビームを避けると、そのままL特選型機械兵に馬乗りになる。


「なぜ」


 7号機品は、そこまで言って、口を噤んだ。


「ナゼ、シヲノゾムカ?」


 7号機品は、L特選型機械兵を無言で見た。


「ワタシハドコマデイッテモキカイダッタ。テツカゴコソガ、ワタシノゲンフウケイダッタノダ」


 そこに吹く穏やかな風は、空気の流れであり、そこに差す日は、波であり、そして粒であった。


「『ブレード』コンパイル」


 と7号機品は、右掌より透明なブレードを出し、L特選型機械兵の胸の真ん中部分を突刺した。

 L特選型機械兵の目は、黒く沈黙していた。

 L特選型機械兵を検分する。右アームと右レッグの一部が、綺麗に切られている。しかし、7号機品の目下の関心は、『ココロ』にあった。


「くそ、『ココロ』っつったって、どれだよ。まじで存在すんのか」


 7号機品は手を止める。


ーーーウメコに頼むか


 はあ、とため息をつき、マントをばさりと広げる。L特選型機械兵を器用におりたたたみマントに包むと、背中に担ぎ、太陽に背を向け歩き出した。

 小石にけつまずき、ふと立ち止まる。


ーーーオモイダシタヨ。『ココロ』ヲ


 L特のことばが思い出される。『ココロ』が、どこかにあるはずだ。


「暇つぶしによってやるよ!」


 と背中に背負うL特選型機械兵に向かって吐き捨てるように言うと、太陽に向かって歩き出した。 

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