表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7号機品  作者: joblessman
2/10

ドガーとウメコ

 ロンド市の雑居ビルの一室。マントを着た7号機品が、その扉を開けた。

 小さな部屋である。頭髪の薄い男が一人、デスクのパソコンから視線だけを上げ、老眼鏡の上から7号機品を見た。


「殺しちまったか?」


 男の問いに、7号機品はマントをはだけ、そのとけた左腕を見せ


「寸でのところで逃げられた。なんだ、殺してくれって依頼だったんだろう、ドガー」


 とソファーに腰を下ろした。

 ドガーと呼ばれた男は、紙を投げるように置いた。7号機品は、右手でそれを掴み開き見る。


「捜索願か。あの赤い髪の女、魔法貴族の娘だったのか」


「魔法貴族らしからぬ破天荒な放蕩娘だったらしい。魔法貴族の面子もある。秘密裏に探してたようだが、とうとう見つからず昨日平民にも顔写真がばらまかれたよ」


「あの女、今までもうちに何度か依頼してきてたんだろ?」


「ああ。これで3回目だ。強いものをよこせ、私を殺せ、ってな。うちの武闘派を送ったが、二回とも病院送りにあった。依頼金がやたらと良かったが、魔法貴族の娘なら合点がいく。しかし、さすがにこれ以上やられてもうちの商売に関わるんでな。お前を送ったわけだが」


 とドガーは7号機品の左手と、その破れた衣服をじろりと見た。


「なんだよ、負けたわけじゃない。最後の最後に逃げられたんだ。しかし、あの赤い髪、平時には過ぎた力だ」


「お前もな。まあ、その女が死んでないならいい。上の階級に睨まれちゃあ商売にならんからな」


「で、報酬は」


「ほら」


 7号機品は、ドガーから渡された紙袋を開く。


「こんだけだと!?修理費でマイナスだ!」


「そんだけ出しただけありがたいと思え。お前、そもそも今回は依頼に失敗してるだろう。殺せてねえじゃねえか」


「な、殺したらまずかったんじゃないのかよ!」


「それとこれとは別問題だ。依頼失敗は8割返金ってことになってる。お前の報酬ももちろん減る」


「貴族が女にかけてる懸賞金だ!その女の口座でも国に教えてやれば足跡を辿れる!それでいくらかもらえるだろう!」


「客の情報は絶対にリークしねえよ。それに、こんな商売、国にどうどうと言えるか」


 ドガーは、話は終わりだと言わんばかりにパソコン画面に視線を下げ、かたかたと打込み始めた。7号機品は、そのとけた左腕で頭を抱えるしかできなかった。




 ロンド市中心街から少し離れる。川沿いにある森のなかに、トタン屋根の四角い建物があった。シャッターが開いている。野良犬にも見える小汚い犬が、シャッターのそばで眠っている。7号機品はそこまでやってくると、マントを無防備に広げ、「いるか」と入っていく。日当りが悪く、建物のなかは、天井より吊るされたランプのみで薄暗い。スクラップになった機械が右手に乱雑にある。


「ウメコ」


 7号機品の呼び声に、つなぎをきた女が現れた。長い黒髪を一本にしばり、口にはタバコを咥えている。


「久しぶりじゃん、ナナちゃん。寂しかったよ」


 とウメコは、そのオイルのついた手で、おかまいなしに首をぽりぽりと掻いた。


「修理依頼だ」


「ほいよ。下においで」


 とウメコは奥へと歩いていく。

 奥の一室。よりさらに奥に小さな部屋があった。ウメコが、高いのか安いのか分からないなぞの青い壷をずらし、壁を小さく叩く。そのそばより、地下への階段が現れる。こつんこつんと、階段を下りる音が響く。真っ暗な地下。オイルの匂いと、ウメコのタバコの匂いが充満している。ウメコがランプをつけると、薄暗い地下室がそこにあった。機械部品が綺麗に整頓されていたり、乱雑に置かれていたり。奥にある手術台へと向かう。

 ウメコは、手術台の上につるされたランプをつける。

 7号機品は、マントを脱ぎ、手術台に仰向けになる。


「久しぶりにきたと思ったら、さーて、今回は派手にやられたね。左腕は取り替えだね」


 とウメコはにたりと笑い、上唇をなめずる。


「おい、左腕だけだぞ。他はいじるなよ!」


「わかってるっての、ふふふ」


 7号機品は、観念したように目を瞑る。


「痛くもないのに目を閉じて。かわいいんだから」


「うるさい!左腕だけだぞ!」


「はいはい」とウメコは電動ドライバーを持った。


 その音に、7号機品は、右手で目を覆った。

ーーー


「おい、4万リラって」


 7号機品は、ウメコに渡された紙を見て立ち尽くす。


「これでも良心的さ。あんたの部品は裏でしか手に入んないのよ。文句ある?」


「う、いや、ないけど」


「よしよし。また傷ついたらお姉さんのところにおいで。そうだ、どっか出かける?ランチでも」


「、、、人間といけ」


 と7号機品はウメコの手を払う。


「素直じゃないんだから」


 にたりと笑うウメコを背に、7号機品は無言で地下を出ると、薄暗い機械工場をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ