第2話 勇者探し1
勇者の住う都市ザナル、100年前もこの都市から勇者が生まれた。
俺はザナルの上空を旋回して、とある街の近くにある森へと姿を消した。
今度は木々を破壊しない様に、落下途中で(龍人化)を使い、着地した地面が数メートル陥没する程度で済んだ。
━━ザナルは広いからな。まずはこの街の集会所にでも顔を出して、勇者の情報を集めるか。
街へ向かいながら森を散策していると、1つの視線が俺に向けられた事に気付いた。
その場で立ち止まり、後ろへ振り返る。
すると、草木を嗅ぎ分けてそれは現れた。
「なんだ、唯の犬か」
推定3メートル程の犬族が雄叫びを上げて、こちらを睨んでいた。
だが、犬族とは本来もっと可愛い生き物の筈。
俺は(魔眼)を使い、魔力の性質を確かめる。
唯の犬ならば魔力など宿ってはいないのだが、
「魔力があるか。それも、この魔力は魔族と同じ醜悪なものだな」
魔犬は、グルルッと唸りを上げて威嚇を始める。
「悪いな。今急いでいる。許せ」
俺は魔犬の可愛い威嚇を無視して、人差し指に小さな蒼炎の球を作りポイッと投げる。
魔犬に着弾した途端━━
一撃で、蒼炎に焼き尽くされて灰となった。
魔犬には遠吠えを上げる時間すらも許さなかった。
「火葬も同時に済んだな」
一応、死体跡に両手を合わせて供養してやり、再び歩き始めた。
暫く歩くと、街の入り口らしき場所に辿り着いた。
そこにはアーチ状に作られた門があり《ようこそ!クロイツへ》と書かれていた。
━━クロイツという街なのか。100年前にはなかったな。
街の名前は、初めて知ったものだが、特に興味もなかったので先を急いだ。
中央通りは店がズラっと並び、活気に溢れている。左右の通りには、人族が住う家が建ち並んでいる。
1歩踏み出すと地面からはコツッと音が鳴る。
俺は何かを踏んでしまったのかと足元を見ると、石畳が街全体に敷かれていた。
「ほぉ、これは良いな。正直、土や原っぱばかりを歩いていたから、足が汚れなくて済む」
俺は、コツッ、コツッ、と鳴り響く石畳の道を軽快に歩いた。少し気分は高揚した。
それから1時間。
何処を見渡しても、集会所がなかった。街中の人族も武装している者もおらず、まるで平和そのものだった。
━━そりゃあ、魔族がいなくなってから100年も経つわけだから、人族達が武装を辞めて平穏に過ごしているのは分かるが、これでは魔王が復活すれば、一瞬で消し炭にされてしまうじゃないか!
頭を抱えて悩ませていると、俺の肩をポンポンと何かが触れた。
俺は上体だけを少し捻り、後ろを見ると、1人の中年女性がこちらを見ていた。
「何か?」
俺は身体全体を女性の方に向けて首を傾げた。
「いやね、お兄ちゃんが道の真ん中で頭を抱えていたからね、どうしたのか気になってね。大丈夫かい?」
「あぁ、それはすまない。実は、集会所を探しているんだがこの街にはないみたいでな。どうしようか考えていたんだ」
すると女性は首を傾げて、眼を丸くしている。
「集会所?集まってパーティでもする場所かい?」
━━こいつ、人族の癖に集会所を知らないのか?お前達が100年前に作り上げた、魔族討伐に関する情報を共有し合う場だろうが。
「いや、知らないならいい。先程、森で魔犬を見かけたから報告してやろうと思っただけだ。それでは」
俺は女性に背を向けてそのまま立ち去ろうとした時。
「あー!!」
っと、女性が大声を上げた。
「集会所なんてものは知らないけど、それなら冒険者ギルドに報告すれば良いよ」
「冒険者ギルド?なんだ、それは?」
「何って、魔物を討伐してくれる人達だよ。この世界に蔓延る魔物達の討伐は、冒険者達がやってくれるのさ」
「で、その冒険者ギルド?とやらは何処にある?」
女性は「ちょっと待ってな」と言い、買い物袋から食材の書かれた紙を取り出し、裏返しにして何やら書き始めた。
「はいよ。お兄ちゃん、この辺り詳しくなさそうだから地図を書いてやったよ。この通り進めば、冒険者ギルドがあるよ」
そう言って俺の掌に1枚の紙切れを置いた。
確認してみると、街から1度出て南に向かって歩くと、(アルヴ)という街があり、そこに冒険者ギルドがあると書かれていた。
「人族の女よ。助かった、礼を言う」
俺は女性に軽く会釈をしてその場から離れた。
「人族の女って、貴方も同じ人間でしょーに」
女性は首を傾げて、俺を見ていた。