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僕が告白すると君は苦笑いをした

学校のマドンナに恋をするも見事に撃沈。

告白から半年。

届くはずないと思っていたのある日。

下駄箱には彼女からの手紙。

そこにはどんな思惑があるのか。

二転三転する展開に青春とはこういうものだったと思い出せる。

「好きです!付き合ってください!」




彼女は苦笑いしたままなにも答えてはくれなかった。




「ならせめて!好きでいてもいいですか?」




それでもなお彼女はなにも言ってはくれなかった。




 高校2年 2019年 春 


あの告白から約半年が過ぎていた。


入学式を終え4月24日。なんてことない日であった。


 僕は告白をたまたま見ていたクラスメイトが半年たった今でもそのことをいじっていた。




「あ、ごめん。ユウリ。そのノート取ってもらってもいいですか?」


とか


「ユウリくん。今日掃除当番代わってもいいですか?」




とか何かにつけてなになにしてもらってもいいですか?みたいなことを言われる。


 正直うんざりしているだが「自分でやってもらってもいいですか?」ぐらいの返しはできるようになっていた。





 僕、佐竹サタケ 友里ユウリは


 身長167cm 体重50kg (公式)


 出来るだけ平穏に平均に平凡にということを意識していたはずなのにいつの間にかいじられキャラという位置を確立してしまったのだ。


 けど、自分の中でどうせうまくいかないことも手が届かないことだっていうのも、分かっていたからいじられる方が良かったのかもしれないと思うようになっていた。





 真澄マスミ 恋花レンカ


 僕が惚れた女の子はあまりにも遠い存在であった。


容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能


身長165cm 体重53kg (非公式)


まさしくマドンナ的存在であった。


モデルをやりながら模試では常に上位。


陸上では全国大会に出るほどであった。


 彼女のはっきりとした目鼻立ちと長く綺麗な黒髪を見てときめかない男はいないだろう。


 陸上大会の映像はネットの動画サイトに上がっており際どい服装の彼女を見ながら何度お世話になったことか…。





 そんなことしている僕はというと


典型的メガネオタク。頭は中の下。スポーツは全くできなかった。


彼女との接点は一年の時一緒のクラスだったというだけで話したのも1.2回程度だった。


 僕じゃなくても惚れるような完璧な存在であった彼女に告る人も多いらしい。


きっと僕のことなんて覚えてはいないだろう。


結局その後一度も話すこともなければ、2年になりいよいよクラスまで別になったとなればもう二度と話す機会なんてないんだろうな。


 


 そんなことを窓際の1番後ろの席でゆっくりと舞う桜と一緒に落ちていく自分の気持ちに嫌気がさしていた。


分かっていたことなのに半年過ぎてもまだ胸に刺さったガラスの破片が大から中になった程度にしか変わず、相変わらず痛かった。




 何もかも新鮮だった一年生の頃とは違い勝手がわかってくると、学校生活にはなんの興味も新しみもなくただつまらなかった。


そんな当たり前の1日。


チャイムがなり下校の時間となり階段を降りて下駄箱に向かう。


そして下駄箱を開けるとそこには一枚の紙が入っていた。




「視聴覚室で待ってます。真澄 レンカ」


と、書いてあった。




 おれはその紙をくしゃくしゃにしながら


クラスのやつのいつものニヤケ顔がチラついた。


自分はこんなことには引っかからないし少しも期待していない。


「いや自分の名前漢字で書けないやつ居るか!」というツッコミを準備して視聴覚室に向かう。


 着いたところでドアの前で一度深呼吸。期待なんてしてない期待していない。


「き、期待なんか微塵も....」


と思っていたことを言いかけてしまったところで僕の心臓が止まった。




 そこにいたのは全く知らない女の子であった。


 少し赤みがかった茶色の髪の毛。身長155cm 46kg (推定)


スカートは校則ギリギリの短さでワイシャツの前は少しはだけていた。


目は少し青く見えもしかしたらハーフなのではないかと思うほど綺麗な目だった。


僕が現状を理解できず口をあわあわさせていると彼女は一言。


「きてくれると思っていました。会いたかったです。ずっと。」


 そういい僕に抱きついてきたのだった。


抱きついてきた彼女にさらに戸惑っていると


抱きついたまま顔を上げ僕の頬にキスをした。


彼女に押されるがままであったためドアの半分に寄りかかるようにしていると、なんとなく視線を感じて後ろを振り返るとそこに真澄恋花さんがいた。


 優しく微笑むと彼女はそそくさとその場を去った。




 僕は彼女に誤解であることを言おうとしたところで目の前の少女がそうはさせてくれなかった。


僕の顔を両手で押さえて正面をまかせようとするのだ。


 そうしてもう一度彼女に向き合うと、真澄恋花の可憐さ大人の魅力のようなものはなくあどけなさが残るものの彼女もまさしく美人であった。


 びっくりしたせいで気づかなかったが体をギリギリまで近づけているせいで、彼女の慎ましくも魅力たっぷりのちいさな胸が当たっていることとなんとも言えない女の子香りに僕の脳は完璧にシャットダウンしていた。


「一年の三上ミカミ 千尋チトセです。あなたの彼女にしてください。」


 僕は思わずにやけながら黙ってしまった。


自分のコミュ力の低さを痛感した。


「と、と、とりあえず落ち着くこう↑」


いつもおり半音上がった声でそういうと彼女は僕から少し離れた。




「すぐに答えがもらえるとは思ってません。私が好きでいるだけなので先輩が好きになってくれたら付き合うってことで大丈夫ですから。」


先ほどまでの少し甘えた感じは消えて彼女は素っ気なくそう言った。


その言葉に僕は少し違和感を感じた。


「ではこれで。」


 戸惑う僕を他所に彼女は入ってきたドアとは反対のドアから出て行ってしまった。


僕はというと


 まるで無人の島に突然送られた、そんな孤独感と現状の理解できない状況に困惑していた。


 ここでやっと落ち着きを取り戻し僕の頭は再起動した。


ただ言えることはこの一言であろう。


「モテ期きたこれ。」


 そういい僕も視聴覚室を後にした。


 この私立七星高校しりつしちせいこうこうは偏差値60とここらへんの地域一帯で有名な進学校であった。


 そのおかげもあってか所謂いじめというのも今のところ見たことがない。


(見えないところでしているだけなのかもしれないが・・・。特に女子なんて陰で悪口の言い合いしているところを何度もクラスで見たことがある)





生徒数は670名とこの数字は全国の高校の平均生徒数とほぼ一緒らしい。


そんなどこの地域でもありそうなこの学校だが一つだけ特殊なことがあった。


それが討論会ディベートが試験の一つしてあった。


コミュニケーション能力を高めるためにあるらしいのだが僕にとってはどの試験よりも苦手であった。


そもそもコミュニケーション能力なんて養おうとして養えるものなのだろうか。





 そんなことを考えながら今日も登校していたわけだが、学校につき下駄箱前に立ったところで昨日のことが頭をよぎる。





 改めて深いため息をしたところで下駄箱を開けるとそこには手紙が入っていた。


「放課後 今日も視聴覚室で待っています。 千尋 」


 昨日の自分の推理からすると告白のメールor詐欺メール並みにどちらにしてもある意味心が揺さぶられる展開であることは間違いなかった。




 普段通りの日常を終え放課後。昼休み等に彼女が来ることもなかった。


あくまで放課後ということなのだろうと考えながら今日も視聴覚に向かう。


 そして再び視聴覚室のドアの前で深呼吸をする。


ある偉人の名言でこんな言葉がある。


≪人の行為にはポジティブに。投資はネガティブに捉えよ。≫


 そんな偉人はいない。僕の言葉であった。ちょっとリラックスをしてドアを開けた。


 




 そこにいたのは三上さんではなく、恋花さんであった。


あまりのことに表情が引きずる僕。驚きということでは恋花さんも同じようで驚いたようだった。


窓際にたたずみ夕日があたり彼女の顔は普段とは違い紅く照らされた。


その表情に心臓が加速した。


 「どうして・・・」という彼女の言葉を同時にドアの後ろからいきなり抱きつかれた。三上さんである。


 ただでさえ理解できない状況にもはやwindows99並みのスペックの僕の脳は再びシャットダウン寸前であった。


そんな1秒の出来事が走馬灯の如くゆっくり流れていき状況に何一つ理解できなかった。




 「あ、ごめんなさい。真澄先輩。この人私の彼氏なんです。」


 その一言で場は一気に氷河期タイムスリップしたようであった。


僕の表情はまるで氷像。ゆさぶる感情お値段以上これ以上は気分上々。


脳内ラップで韻を踏むことしか僕には出来なかった。


 その一言を受けた彼女は驚いた表情からどこかさみしい表情を刹那見せたあと真顔に戻っていた。


「そうなんだね。千尋もそういう年頃だもんね。あと、携帯電話拾ってくれてありがとうね。」


そう言い残し彼女は僕の顔を一切見ることなく昨日の三上さんがしたように反対側のドアから出て行った。


 出て行って数秒後もういいかと言わんばかりにあっさりと僕の体から離れて彼女は指で視聴覚室内の椅子を指さし案に座るように指示した。


 コクリと頷き僕は席に座る。


「どういうことか分かった?」


 その言葉で僕の推理は確信に変わった。名刑事の気分である。


そこで僕は昨日調べた内容から推測を話した。




――― 昨晩の記憶に戻る。




 先ほどの告白について考えてながら下校しているとまるでどこでもドアの如くもう自室についていたのだ。


 ただ、少し引っかかったのは彼女が告白の後。任務を終えたとばかりに冷たい態度をとっていたこと。


そして恋花さんが通り過ぎたこと。はたして偶然だったのだろうか。




 そんなことで陰キャな僕は三上 千都世について調べることにした。


インターネットは個人情報の宝庫である。


SMSをやっていれば早かったのだが彼女のアカウントを発見できなかった。


しかし、興味深い内容のサイトを見つけた。




「日本ピアノ研究会 2016 中学生部門で優勝。その前は2年連続準優勝。


全日本中学校陸上競技選手権大会 中学生部門で優勝。その前は2年連続準優勝。」


 つまり3年生の際にどちらも優勝しておりその前は2年連続準優勝であったのだ。


じゃあこの2年の優勝者はだれなのか。なんとなくそれは分かっていた。


先ほど人のことをインターネットで調べる僕だ。当然、恋花さんについては死ぬほど調べていた。




 だから大会名を見た時点で気づいていた。おそらく彼女がしたかったのはそういうことなのだろう。


 ただだとしても理解ができなかった。仮に恋花さんにそれを見せつけたところで何かそれが彼女に勝ったということになるのだろか。


 つまり実は真澄さんは僕のことを好きだという場合にしか成立しえないと思った。




 ただそんな理想に期待するほど馬鹿ではない。現実的な推理をしてみよう。


状況を鑑みて考えられる可能性は三上さんが冷たいと感じたのは気のせいでツンデレさんなのだ。


そして真澄さんが通りかがったのはただの偶然。


もしくは真澄さんにはいない彼氏が自分にはいるということを見せつけるためのその一つ目の作戦なのかもしれない。


 マイナスなことを考えるとどうしてもしっくり来てしまうのは根がネガティブ。


つまり根ガティブなのかもしれない。




 これ以上考えても答えが出ないことが分かった僕はそのままベットに入り、沈むように吸い込まれ深い眠りについた。





―――― そして現在に戻る。




 「つまり君は真澄恋花さんにあこがれていた。そして高校も同じところに進学し彼女を追いかけていた。それは執念にも似た何かだったんじゃないかな。そして、いつの間にか憧れは妬みに変っていた。


だから彼女にはないものを手にいれて自慢しようと思った。」


 そう言い終えると彼女は少し眉が動き驚いたような表情をしたまま少しクスっと笑った。


 その表情に引っかかたがそのまま続けた。


 「けど、ひとつだけ分からないことがある。学校のイケメンならいくらでもいるし、きっと君なら時間をかければそんな理想の彼氏を恋花さんに見せることができたはず。なぜ焦って僕みたいな人間を選んだのかは最後まで分からなかったよ。」


 椅子を前後に揺らしながら彼女は言った。


「それはね。あなたじゃなきゃだめだったからだよ。」


 彼女の言っていることが僕には理解できなかった。


けど、その表情は小悪魔というより悪魔に近くただ怖かった。


 その翌日以降三上さんは僕のクラスにも来るようになり前よりいっそう僕にアピールを始めた。


 勿論かわいい女の子に言い寄られことは嬉しかったし、今までの僕のいじりは少なくなりあんなに可愛い彼女どこで見つけたんだという話題で持ちきりであった。


 ここまで計算していたのであればやはり僕は彼女に少なからず恐怖を感じていた。




 そんなある日いつも通りの帰ろうとしたところで下駄箱にまた手紙が入っていた。




「5/3日 午後2時に駅の北口で待っています。三上 」




 デートのお誘いであった。


こんなことは生まれて初めてであるから胸のドキドキが抑えられなかった。


しかしながら少なくてもそのドキドキの中には恐怖も混じっていたと思う。




 5/3  PM1:30 札幌駅北口


デートには遅刻してはいけないという気持ちが先走りあらゆる可能性を考えて30分前行動をしていた。


 早くついてしまったこととに少し自分に対して引いている気持ちもありながら僕はベンチに座っていた。


 当然彼女はまだ来ずなにもせずぼーっと待っていると近づく時間とともに緊張とドキドキで心臓の鼓動が早まるのを感じる。


そしてあっという間に時間は過ぎPM2:10を過ぎていた。


時計を見て2時を回っているいことに驚く。


 しかし彼女の姿はまだなかった。




 南口と間違えているかもしれないと思い僕は北口と南口を往復していた。


そうして時間は過ぎPM4:00を過ぎていた。


なんとなく日付そのものを間違えていしまったのではと思っていた。


ここで今更彼女と連絡先の交換を行わなかったことにたいして後悔を抱いていた。




 そうこうしていると彼女らしき人影を見つけた。


 普段の彼女の少し軽薄そうな格好とは違い白いワンピースに黒のスカート。ハーフに見えた彼女の外見をさらに強調させてその空間だけ外国を思わせる雰囲気が漂っていた。


 気持ちを切り替えて気づいていない彼女に向かって、おーいと手を振るも彼女は焦っており周りが見えていない様子であった。


 そして、ゆっくり近づいていき


「日付間違えちゃったかと思ってびっくりしたよー。大丈夫だった?」と、


時間があったおかげで僕もドキドキは収まっており普通に会話することができた。


 びっくりしたかのように反応した彼女は振り向き僕の顔を見るなり謝った。


「本当にごめんなさい!連休だからって面白い番組深夜まで見てたら寝坊しちゃって。。」


 そういった彼女の表情は今までに見せた冷たい表情でも小悪魔的なしぐさもない、ただの女の子という感じで僕は思わずドキッとしてしまった。


 「大丈夫だよ。僕も実は遅刻しちゃってさ!お互い様だね」というと


 彼女は安心したかと思うと遅刻したこと偉そうにしないでください!と言わんばかりの態度であった。女の子は難しい。




 デートなんてしたことない僕に対して彼女は慣れているように服屋や楽器屋などいろんなところを回りながら遅めの昼食を食べた。


今までの彼女とは違い本当に楽しそうにする彼女に初めてかわいいと感じた。


そうしてあっという間に時間は過ぎて6時を回ったところで解散ということになった。


 こういうのは付き合ってはいないものの礼儀として大切であろうと思い僕は彼女を送ることにした。


地下鉄を降り帰っている最中も彼女が興味ある事や僕の好きなことを話しながら歩いていると彼女は公園を指さし二人でブランコに乗ることにした。


特になにを話すわけでもなかったけれど決して居心地は悪くなかった。




 そうこうしていると彼女はこちらを向いて


「好きです。付き合ってください。」と言った。


僕はおもわずはいっと言ってしまいそうだったがその瞬間、恋花さんの顔が浮かぶ。


はっまでいいかけたその口をゆっくりと閉ざし僕は


「ごめん。僕には好きな人がいるんだ。きっと君は知っているだろうけど。」


「そっかー。意外に頑固なんだねー。どっちも。」




そういうと彼女はブランコを漕ぎ始めた。


 「少し昔話をしていいかな?」




そういうと彼女は中学生時代の話を始めた。




2018年


 恋花先輩がいなくなった私はスポーツや音楽において右に出るものはいなかった。


あらゆる賞を獲得して自信にあふれていた一方、これは一生恋花先輩には届かない気もしていた。


 そしてなにより私は勉学や見た目に関していえば全く勝てていなかったことも自分が一番分かっていた。


 だけどいつかは越えたい。そんな思いから恋花先輩の通う高校に受かるため勉学に勤しんだ。


 だって、すべてにおいて完璧な彼女が私の理想だったのだ。だから苦手なんて言葉では逃げちゃいけないって思った。




 見た目もいろんなファッション雑誌を読んで形からはいり眼鏡をコンタクトに変えて努力を重ねた結果、今まで以上にいろんな方面から注目集めてそんな私はまるでかつての恋花先輩のようだと自信に満ち溢れていた。


 そんなある日先輩がモデルをやっているという話を聞きその雑誌をみると私なんかでは届かない大人な彼女がそこにいた。


 また、そこで心にぽっかりと穴が開いてしまった。縮まるどころかその差は開く一方だった。


 そして一つだけ疑問があった。


彼女はなぜ有名な進学校ではなく近くのそこそこ頭の良い学校に通っていたのか。


特にスポーツが強いわけでもなく彼女であればもっと上を目指すはずなのにと思っていた。けどそれでもめげずに私は私なりのやり方で先輩に追いつくんだと頑張りそして入学式を迎えた。




2019年 春


 入学式の内容なんて頭に入らなかった。


早く先輩に会いたいと思って私は入学式後すぐに先輩のクラスに向かった。


階段をあがるにつれて私の気持ちがどんどん高まり、教室につくとクラスの中心の輪に先輩はいた。


 私はいろんな感情ががごちゃ混ぜになり大きい声で


「先輩!お久しぶりです!今度こそ私は先輩に負けませんから!」


そういうとクラス中の人が私に注目したところで


不思議な顔をした先輩が私に近づいてきた。


 そして一言


「誰かに用事があるの?その人の名前は分かる?」と聞かれた。


 覚えてすらいなかったのだ。確かに昔に比べれば容姿に違いはあれど向こうを私を知っている。ライバル視しているはずだと勝手に思い込んでいた。


 私は悔しくて悔しくて泣くのを我慢して教室から走り出した。


先輩がそのあと何かを言っているようだったが私の耳にはもう届かなかった。




 家に帰ってもなお涙は止まらなかった。だけど私は思った。


覚えていないならもう一度私という存在。今の変わった私という存在で勝負してやると思った。


そうして私は気持ちを切り替えた。


 そんなある日先輩についての情報がまことしやかに囁かれていた。




 「真澄先輩っているじゃん?あんだけかわいいのに彼氏いないんだって?」


「やばくね?それまじ?」


「てかいたことすらないらしいよ。そもそも高嶺の花すぎてほとんど告白すらされないらしいよ。告白するやつは大抵罰ゲームで撃沈覚悟でやるらしいとか。」


「へぇー。今までにその罰ゲームやった人でどんな人なの?」


「俺は一人しか知らないけどさすがにこれは言えないかなー。」


「もったいつけんなよー!それぐらいいいだろう。」


  そんなうわさ話に私は興味を持った。




 「ねぇ。その人の名前教えてほしいな。♡」


甘えた声で上目遣いでいうとあっさりその男子は名前を教えてくれた。


佐竹 悠里


そして名前を頼りにその人がいるクラスにいくとなんとさえない男子なのだろうと思いすぐにクラスを出た。


 そして自分のクラスに戻ろうとしたところで廊下に携帯電話が落ちているのを発見した。


誰のだろうと何の気なしに背面を見てみると小さくプリクラが貼ってあった。


そこには真澄先輩が中心にいた。


 私は好奇心に勝てずその携帯を操作しようとすると画面にロックがかかっていた。


しかし彼女の誕生日を入力するとあっという間に解除された。


 その中でいろいろ見ていると写真のフォルダーの中のお気に入りという欄があった。


開くと小学生・中学生・高校生からイベントごとの修学旅行やら運動会やらにかなり細分化されていた。


 そこで高校生のイベントの球技大会をタップするとそこに現れたのは


佐竹 悠里であった。


驚きのあまりいろんな写真を見ていると後ろから担任の先生に話しかけられて慌てて携帯電話を落としてしまった。


 「今何か落としたようですけど。携帯電話ですか。これはあなたのですか?」


と聞かれ嘘をつく余裕はなかったため正直に恋花先輩のものではないかと伝えた。




 そして私は家に帰りどうするべきかと考えた。


完璧だと思っていた恋花先輩の弱点。


私の心の中に悪魔が現れた。


 この佐竹 悠里を攻略さえできれば私は名実ともに恋花先輩を超えられると思った。


 だから、私はそのあと佐竹悠里の告白は罰ゲームなんかじゃなくたまたまクラスメイトが聞いていたということを知ったときに心が躍った。


 おそらく恋花先輩はそのクラスメイトが見えたからイタズラではないかと思ったからその告白に答えを出さなかった。


 多分そのことに気づいてもなければそして私にその分のチャンスが来たと思った。




――――




「だから私は告白したの。でもダメだった。ずるしても結局私は先輩には勝てなかった。なんとも思ってなかったはずなのに私も...」


そういうと彼女の表情は今までのあざとらしさは消えていた。


 「いつの間にか本当に悠里くんが好きになった。」


 僕も彼女が好きじゃないかといえば決してそんなことはなかった。少なくても今の彼女はすごく魅力的であると感じた。それでも僕は


「ごめん。僕は恋花さんが好きなんだ。一生叶わなくたって。それでも僕は好きなんだ。でもね、君が恋花さんになれないように恋花さんも君にはなれないんだよ。」


 そういうと彼女は少しだけうつむいてすぐに前を向いて大きな声で


「恋花先輩のバカヤローーーーー!」




と言った。


 そして彼女はよい笑顔で


「恋花先輩はきっと待ってます!だからもう一度告白してみてください!絶対成功します!」




 彼女はそう言い終えると走っていなくなってしまった。


 嵐のような女の子であった。




そして僕も一言


「僕のバカヤローーーーーーー!」


そう言い決意をした。


 私、真澄恋花は恋をしていた。


 小学生の頃の私は眼鏡で地味でスポーツも勉強も苦手だった。


 クラスの女の子からいじめられ、男の子ともうまくいかず一人だった。


 そんなある日だった。


いつも通り一人窓際からグラウンドで遊ぶ人たちを見ていると声をかけられた。


 「ますみちゃん。いつもなにを見ているの?」




 男の子にはあんまり女の子のいじめに詳しくはないのだろう。


 表面上は仲良くしているから私がいじめられているとは知らずに話しかけてきた。


向こうから女子の笑う声が聞こえた。


 私が返事に困っていると彼は続けた。


 「ますみちゃんも一緒に遊ぼうよ!」




 そんな彼がわたしには眩しかった。


遊んだのはその日一回きりだった。


昔のわたしとの記憶をきっと彼は覚えていない。


 その時に彼が言ってくれた一言もきっと覚えてはいない。


自信のなかったわたしは常に俯いていて、そんなわたしを見て彼は


 「ポジティブって言葉知ってる?聞いたんだけど全部プラスだって思うことなんだって!だから下を向かず上を向こう!後ろを見ずに前を見よう!そのほうがきっと良いよ!」




 そこからは私はひたすら努力をした。


勉強もスポーツも習い事も見た目もそうやって努力していくうちに、私の努力は才能と言われるようになった。


 中学に入ると環境が変わったこともあり昔の私のことを言う人は居なくなり、誰からも好かれている自信があった。


 けど、誰から告白されても心は動かなかった。見た目や中身が変わっても気持ちは変わらなかった。


 そんなある日私は告白された。


私の好きな彼に。告白されるまでもなく「はい。」と返事するつもりだったのに彼の後ろには彼のクラスメイトがいた。


 小学生の頃もこういったことがあった。


罰ゲームとかで女の子に告白するみたいなノリだ。


 私は後ろの彼らに気を取られてせっかくの告白の言葉が聞こえなかった。


 たまたま通りすがっただけだ。偶然だ。これは杞憂なんだ。


そんなことを考えようとしても彼の前では昔の私に戻ってしまった。


 マイナス思考が頭をよぎり私はなにも言えず不細工な笑顔しかできなかった。




 その日、魂が抜けたぐらいの勢いで下校しそうして中身のない数日が過ぎたところで彼の告白が広まっていた。


 聞いた話によるとやはり罰ゲームみたいなノリだったらしいと。周りの女子はその人最低だねと言っていた。


 でも、私にはあの表情は決して嘘ではないと思った。仮に罰ゲームでやらされたとしてと気持ちは本物だったんだ。


 


 いつもの私ならこう思ったはずだ。


だけど、やっぱり思えなかった。


素のわたしは何一つ変わっていなかった。


 でも、これで良かったと思った。




 それから半年、彼からの接触はなかった。


入学式が終わった。その時である。


 私のクラスに一年の女の子が息を荒げたクラスに来た。


 ネクタイを見れば学年は分かったが入学式早々上級生のクラスに何の用なのかと思った。


 すごく綺麗な顔立ちの彼女にわたしは話しかけて見た。


誰かを探しているようだったので、その事を女の子に尋ねると彼女は唖然とした顔をしてすぐに目に涙を浮かべた。


 そんな表情に見覚えがあった。中学生の頃。いろんな大会でよく見かけており話すことはなかったが、1位の私の横で悔しそうな顔で見ていた女の子。


 


 確か名前は三上 千尋


 


 ハッとなったときにはもう遅く彼女に声をかけるもその声は届かなかった。


 後悔しつつ今度謝りいこうと思っていたが、なかなかその機会が作れずにいた頃下駄箱に彼女からの手紙が入っていた。


 内容は視聴覚室に来てくださいという内容であった。


 気まずい気持ちを抱えつつも良い機会だと思い視聴覚室に向かう。


階段を上がり視聴覚室のドアが見えたところでいたのは彼女と友里君だった。


 


私の心臓は爆発しそうなほど心拍数を早めた。


 そして、彼と目があったところでキスをされていた。


 私にはとてもそこに留まることは出来なかった。


 そんな私を見てか彼が何かを言っていたが何も耳に入らなかった。


悔しかった。ただ悔しかった。


私がしたくてしたくて仕方ない事を当たり前にしていた彼女に嫉妬した。


 けど仕方なかったんだ。きっと私の方から歩み寄っていれば、彼とそうなれたかもしれなかったのにそうしなかったのは私自身だった。


 一晩泣きはらして私は悠里君への気持ちを断つことに決めた。そうするしかないと。


出来なくても徐々にでもそう思おうと。




 それから数日、いつも通り登校してクラスに入ろうとしたところでざわついていることに気づいた。


 何があったのかと聞くと前クラスに来ていた可愛い一年生と冴えない男が一緒にいたという話だった。


 わたしは眉がぴくっと動く自分に嫌気がさした。


 でも気にせず私は自分の席に着くと話は続いた。


 同じ日に3回目にしたらしいのだけれど


彼のことは2時くらいに見たその時はキョロキョロしており怪しいやつだなと思ったらしい。


 それからしばらく遊んで4時くらいに見たときまだウロウロキョロキョロしてる彼を見たとのこと。


 そして最後6時くらいに会ったときにあの可愛い女の子と歩いていたということだった。


 つづけてその男子は言った。


「まぁ、多分金づるなんだろうよ!笑


普通デートで2時間遅れるなんてありえないから!待ってる方はもっとあり得ないけどな!笑 気づくだろ普通。」


 そんな彼の言葉に私は机を強く叩いた。


教室が鎮まり返っていた。


 私は自分の心に嘘をつくのを諦めてこう言った。




「その男の子は私の彼氏です!」




クラスには静かさだけが残った。


 三上さんとのデートをした翌日。


他クラスの人が僕と可愛い子がデートしていたことが噂になっていた。


 いつも通りいじってくるクラスメイトにそれは自分ではないと適当にあしらっていると廊下の騒がしさに気付いた。


 なにやらぞろぞろと移動する足音。だんだん大きくなっていくのを感じた。


そして、その足音は僕のクラスの前で止まった。




 そこに立っていたのは恋花さんであった。


ここ数日の出来事によってすこしの気まずさを抱いていた僕は目を見ることさえ出来なかった。


 彼女から視線を外しその大群がいなくなるのを待っていると彼女が言った。


「悠里くん。放課後一緒に帰りましょう。」そういうとクラスと廊下から割れんばかりの絶叫にも似た声が響き渡る。


 それを言い終えると彼女は顔を真っ赤にしたまま教室から居なくなった。


 クラスのやつからは先ほどのレベルでないほどに男女問わず僕のところにきて質問攻め。


廊下では悠里とはどいつだっていうのでカオスな状態であった。




 その直後キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り、担任が来たことにより少しの静かさが戻ったもののすこしのそわそわ感は抑えられていなかった。


 僕自身のそわそわしていたのだ。


なぜこのタイミングで彼女が僕に…


 三上さんが言っていたことが過る。


本当だったんだ。僕のことを本当は。


 そんなことを考えているとすでに1限目が終わっていた。少ない休憩の間も質問攻めとすこしな休みも僕にはなかった。


 心当たり自体はあるものの複雑なため自分もよくわからないと逃しつつその日はなんとか凌いだものの、噂は学校中に広まっており玄関の前にはとてつもない人の数になっていた。


 こんななか二人でなんか帰れないだろう。と思っていながら下駄箱を開けると、小さく丸められた紙が入っていることに気づいた。


「これ私の番号です。こんなことになってしまって本当にごめんなさい。良ければ電話でお話ししたいです。」


 そして下の方に電話番号が書いてあった。


こないだのこともあり最初は悪戯を予想したがその字を見て確信した。


 とても美しい字であった。




 僕は誰にも見つからないようにこっそりと教室に戻り放課後は誰も使うことのない視聴覚室に向かう。


 向かいながら番号を入力するも緊張のあまり震えているためなかなかうまくいかない。


 そうこうしてる間に視聴覚室についてしまったため一度落ち着くためにも入ってから番号を入れようと思い扉を開けると、そこには恋花さんがあの日の告白のように窓際に立って開いた窓の風に当たっていた。その風に長く綺麗な黒髪が靡いていた。


 僕はそんな綺麗な彼女に見惚れていると彼女もこちらを向いた。


 


 「ご、ごめんなさい。いきなりあんなこといってしまちゅて…」




 噛んでいた。すごく可愛い噛みかたであった。ただでさえ赤くなっていった顔がさらに赤くなっていった。もはやタコのようだった。


 そんな彼女を見ているとなんだか少し緊張がとれたようだった。


顔を赤くしたまま


「違うの違うの今のはしてしまってっていうのを噛んだだけで…」




 今度は僕の方から話しかけた。


「あのありがとうね。すごく嬉しかったか。でも…どうして急に一緒に帰ろうって誘ってくれたの?」


 「本当のことを知りたくて…。本当の気持ちを伝えたくて…。千尋とは本当に付き合ってるのかな。昨日デートしてるの見たってクラスの人が言ってて…それにこないだキスしたけどなんか無理やりされてたように感じて…私にそんなこと聞く権利ないことは分かってるけど知りたくて…」




 普段クールで物怖じせず自信に満ち溢れてる彼女からは想像できないほど、恥ずかしそうにモジモジしていた。


 そんな彼女が尊く感じた。


「僕は三上さんとはそういう関係じゃないよ。」


 そういうと彼女はぱっと明るい笑顔になって一言。


「だよね!彼女なのに連絡先交換してないなんておかしいもんね!」


ん?連絡先?あぁそうか三上さんから聞いたのか。ゆっくり顔をあげるとさらに続けた。


 「そうだよね。デートに遅れてる彼女なんて彼女じゃないし公園であんな状況で告白するなんて卑怯な女好きになるわけないもんね!」




 見上げた彼女の目の奥に光が見えなかった。


 あまりの出来事に耳を疑った。


三上さんが遅れてきたことも公園での告白も知っていた?


 てことはあの場にいたということ。


偶然?いや、そんな偶然はありえない。


僕は人との関係は出来るだけポジティブに考えてきた。


であればこれは偶然などではないと考えるべきである。




 「なんでその事を知ってるの?」


「なんでって勿論私もあの場にいたから。」


「悠里君が2時に待ち合わせしていた事も全部知っていたよ。だって好きなんだもん!


当たり前だよね?」




 そういうと彼女はおもむろに携帯を取り出した。


携帯の液晶に映し出されたのは上から下まで僕の画像。


 僕の運動会の写真や修学旅行の写真。


イベントごとに区切られていろんな写真が写っていた。


しかし、写っていたのはそれだけではなかった。


 お風呂の中や僕の部屋の写真などどうやって撮ったか不明な写真も山のようにあった。


 不敵な笑みを浮かべながらスクロールし続ける彼女に僕が一歩後退りすると彼女は一歩前に出た。




「本当は私から告白するつもりだったの。


だけど、悠里君から告白されて…内心すごく嬉しかった。でもその後ろには悠里君のクラスメイトが見えたからさ。私はどうしたらいいか分からなくて…。」




 そう言い終えると彼女の目には涙が溜まっていた。




 すごく可愛かった。


一瞬引いてしまったけども目の前にいるのは紛れもなく僕の好きな女の子だ。


愛し方が少し特殊なだけでそれだけだと思いこもうと思ったところで彼女は続けた。




「こんな私ですけど…ずっとずっと悠里君のことが好きでした。付き合ってください!」




 僕は少しだけ迷ったけれどもしかしたら付き合いたいという願望が彼女をそうさせただけで付き合えばそんなことも無くなるかと思った。


 だから僕ははい。と答えようとした。


しかし彼女は続けて言った。




「あ、ごめんなさい!こんなの告白した側が言う権利ないのはわかってるけども…」




モジモジした彼女は可愛かった。




「もし返事がYESなら…これをつけて欲しいの。」




と彼女は言った。


手には首輪が握られていた。




「もうこれでずっーと一緒だよ」




 僕の気持ちは1歩どころか100歩は引いていた。


 五十歩百歩なんてことわざがあるが一歩と百歩は天と地の差であった。




 彼女の告白に僕は苦笑いをした。


そして僕はその告白を丁重に断った。


そのまま下駄箱に向かうとまだ多くの人が待っていた。


 そんな中僕が一人きりで帰ると


あれは冗談だったんじゃないかとか、


誰かの聞き間違いなのではないかとか、


色んなことが口々に聞こえてきた。


 僕はそのまま帰路に着いた。




 家で今日会った事をいろいろ思い出しながら、時計の秒針が1度また1度傾いていく様子をただ眺めていたその時。


 外はザーザーと雨が降っているのが音だけでわかった。




ピーンポーン




 インターホンが鳴った。


すると、母さんが出て何やら話している声が聞こえてきた。


「折角きたなら上がっていってよ!悠里もきっと喜ぶわ!」


俺は嫌な予感がした。


 一歩また一歩と近づく足音に、冷や汗が一粒また一粒と額から頬を辿り落ちる様子がゆっくりと流れる。


 そして、ゆっくりドアの扉が開くようすが走馬灯のように流れる。


そこにいたのは三上さんだった。




 「大丈夫?振られたとか呼び出されたのは冗談だったとか色んな話聞いていても立ってもいれなくて…」




 内心すごくほっとした。あんなに好きだった彼女が僕の中で恐怖に変わっていることにここでようやく確信した。


 そして今日会ったことの全てを涙を流しながら話すと三上さんはゆっくりと僕をそっと抱きしめくれた。けれど、僕の心はギュッと強く抱かれているように感じた。


 僕の言うことにゆっくりとうん。うん。と聞いてくれたおかげで少しずつ落ち着きを取り戻した。


 そして話終えると彼女は




「大変だったね…。私に出来ることがあればなんでも言って欲しい。」




 そう言ってくれた。


その温かい言葉にまた涙が出そうになっていると、俺の泣いた声がリビングにも聞こえたのだろう。母親が部屋をノックをせずにドアを開けた。




 「ちょっと大丈夫?!」と言いながらドアを開けると泣いてる僕をぎゅっと抱きしめている三上さんの構図が母さんの目には映った。


 最初は驚いたようだったがすぐに


 「なーんだ。そういうことなの。もうお邪魔しちゃったかしら。」と余計な事を考えてそうな顔をしたままドアを閉じようとしたところで「あっ」と思い出したように言った。




 「けど女の子二人を弄ぶなんてあんた駄目だからね!恋花ちゃん泣いてたわよ。今お風呂に入ってもらってるんだから。ちゃんとあとで話すんだよ。」


 その言葉にあっ、あっ、と言葉にならなかった。


 その後はただ処刑を待つ死刑囚かのような気持ちでその瞬間を待っていた。


空気すら不味く感じた。




 そしてその時はきた。


 ノックの後に「入ってもいい?」


「いいよ。」そう伝えると普段姉が着ているパジャマを着た美澄さんがいた。


 そして部屋には僕と美澄さんと三上さんという謎の構図が展開された。


部屋に入っても彼女はまだ俯いたままであった。


 その空気に耐えかねたのか三上さんが話し始めた。




「私達付き合うことになりました。」




単刀直入、一刀両断。


ばっさりと切り捨てる名刀のような一言。


数秒後、彼女がやっと顔を上げて一言。




「またそんな嘘つくの?」




 さながら大奥でも見せられているような女の戦いに男の僕が入る隙はなかった。




 「本当のことですよ。さっきの見たでしょ?先輩。ラブラブなんですよ私達。」


 「あなたヤンデレってやつね。男の子は思い女が嫌いなんだよ。」




『あんたがいうな』と、二人で心の中で突っ込んだ。


 そのあとも言い合いは続いたものの終わりが見えなかった三上さんが動いた。




「キスもハグもそれ以上のことだってしちゃってるんですよ?私たち。ね?悠里?」




 節々に嘘を混ぜたくれたおかげで俺もなんとなく察した。




「うん。俺は千尋と付き合ってるんだ。だからごめんね。半年前は確かに好きだったけど今は…」




と、言いかけたところで




「騙されないで!その女は嘘つき!悠里君を騙してるだけ!すぐに捨てられるんだよ!」




 頭には血管が浮き出るほどピキピキと音が出そうなほど怒っていた。


その様子に怯えていると




「先輩そういうところですよ。だから嫌われるんですよ。気づかないですか?」




 そういうと美澄さんはさらに切れると思ったらそそくさと帰宅の準備してパジャマのまま帰っていった。




 「大丈夫かな…」と不安を漏らすと千尋が手を繋いでくれた。そして「私が守りますから。」と言うその手は震えていた。


 「おはよう。」


目を開けると千尋がいた。


 僕はうつろな頭で昨日ことの思い出す。




美澄さんが帰ったあと母さんが来て外の雨の酷いから泊まって行きなさいと言った。


 その言葉に千尋は目を伏せて照れているようだった。可愛かった。


 そしてご飯を一緒に食べて風呂に入りあれよあれよという間に時間が過き二人きりで部屋にいた。


 ドライヤーで乾かしたもののまだ少し濡れた髪。姉のパジャマを借りたがサイズは合わず隙間から見える肌。女の子特有のいい匂いとシャンプーの香り。


 あの時の彼女の告白を思い出す。


いきなりキスをされて初めてのことで理解が追いつかなかったあの時とは違った。




 「あ、あんまりジロジロ見ないでください!」


「ご、ごめんなさい…。」




 その言葉に僕も思わず目を逸らした。


「あ…」


 明日からどうしようそんな言葉のひとかけらが漏れてしまったがそれ以上は言葉にしなかった。


 そんな言葉は言っても仕方ない。なら今はその事を忘れていたかった。


 僕は布団で千尋はベッドで寝ながらたわいのない話をした。僕の中学生の頃の話や千尋の初恋についてなど話は尽きなかった。


 そして、いつの間にか朝を迎えていた。




 -冒頭に戻る




 何故か僕の布団に千尋もいた。


彼女の顔は僕の目の前にあり息遣いまで聞こえてきた。もはや心臓の音すら聞こえそうだった。


 すると彼女は更に体を近づけて僕に抱きついた。


 「改めて言わせてもらうね。悠里先輩。私は先輩が好きです。付き合ってください。


もし答えがノーでも私はもう諦めませんけどね。」




 僕は「不束者ですがよろしくお願いします。」といい僕は身支度を初めて彼女の家によってそのまま学校に登校した。




 校門の正面に立つと改めて深呼吸してこれからのことを覚悟して千尋と一緒に一歩を踏み出した。


 しかし、その日一日何も起こることはなかった。千尋に聞いても特に何もないということだった。もしかしたら諦めたのかのかもしれない。そんなことを考えるほどに一日、そして一日と過ぎていきなんでもない日が流れ彼女のことなんて忘れかけていた。


反対に僕と千尋の関係はどんどん深くなっていった。




 そして2か月が経ち夏休みを迎えた。


終業式を終えて成績表が渡された。


クラスメイトの各々がなんでこんな評価なんだよと口々に漏らしていた。


 千尋と付き合い始めた以降はクラスメイトもあの告白の一件でいじってくることはなかった。複雑な事情があったことを察しているのだろうか。なんとなくクラスメイトとの距離を感じるようになっていた。


 そんな思いを巡らしながら僕の名前が呼ばれ成績表を見る。期末の試験も平均点よりやや上であった僕はおそらく10段階評価の6or7が無数に並ぶことを予想していたが。




 ほとんどの評価が4もしくは3であった。




 唖然としているとその中身は授業態度や提出物に関する項目がマイナスの評価になっていた。


 僕は授業中に寝たこともなければましてや提出物を忘れたことは一度もなかった。


この事態に何が起こっているか分からずにいた。


 まさかこの成績に真澄 恋花が関わっているなど少しもよぎらなかった。


 この成績ではへたしたら進級すら怪しかった。僕は千尋と一緒に帰りながらどうしようと今日の方を千尋に話すと不思議がってはいたがなんらかの間違いなのではないかと言っていた。


 確かに言われてみればそうだ。提出物やノートの評価に関しては返却されるから物的証拠として残っているのだ。夏休みに入っても教師が職員室にいることがわかっていたので後日行こうと思いこの日は帰った。




 思えばすぐにこの時行動するべきだと後悔することになる。


 いや、既にこの時にはもう間に合ってはなかったのだろうけども。




 千尋を家まで送り僕も家に着いた。


 そして玄関を開けると母さんにただいまと言うと青ざめた顔をしていた。




 「あ!悠里!母さんもさっき帰ってきて…どうしよう!こういう時って何番だっけ!?」




 よく見るとありとあらゆるところが荒らされていた。リビングから姉の部屋。両親の寝室に僕の部屋も荒らされていたのだ。すぐに警察を呼んで現場検証が行われた。しかし、派手に荒らされた割には金目のものは何も盗まれてないどころか何がとられたかもすぐには分からなかった。


 僕はこの時不覚にも安堵してしまった。


あの成績を母さんに見せずに済むと思ったからだ。


 しかし甘い考えであった。落ち着くと成績表を見せなさいと言われ鉄拳が飛んできた。


言い訳というか本当に間違いだということを説明するも耳を傾けない母さん。


 なので僕は自室に行き宿題を見せようと荒れた部屋で提出物を探すと一向に見つからなかった。それどころかノートもなかった。




 そう盗まれたのは僕のものだった。


 「なぜ僕の宿題を盗んだの?真澄さん。」


 


 あれから数日経って僕は彼女の家に行った。学校の中でも人気の高い真澄さんだ。家を探すのはそこまで大変ではなかった。


 まるで昔の貴族の如く玄関には大きな門。


入ると日本庭園が広がっておりそこを更に歩くとやっと玄関についた。


 インターホンを押すと名前を言うまでもなく扉が開いた。恋花様から聞いていますと執事のような方に案内されて彼女の部屋に行く。


 ドアを開けると彼女がいた。そして先ほどの質問を投げかけた。




「この2ヶ月悠里君と千尋を影から見ていたの。最初は本当に嫉妬心でどうにかなってしまうかと思ったけど。今はそれほど憎んだり恨んだりはしてないの。だって仕方ないじゃない。嫌われてしまったのだから。けど、理由も分からないままこんな形で終わらすなんて嫌だった。だから、宿題にいたずらをしたの。」




「あんなに荒らせばそりゃ反応せざる終えないよ。君は何が望み?留年させたいってことなの?」




「そうね。千尋の同じ学年になればきっともっと一緒にいられると思ってね。私の精一杯の優しさだよ?でもねなんであそこまでできたと思う?先生にも協力してもらったの。」




 そういうと彼女はおもむろにカバンの明後日一枚の紙を出した。僕の提出したはずの宿題であった。


 


「ここにはノートもそれ以外の全てもある。


ねぇ。どうしてほしい?返してほしい?」


「勿論返してほしいよ。でも、ただってわけではないでしょう?」




「うん!簡単に答えを言っちゃうとつまらないからさ?悠里君が考えてみてよ。何をするべきなのか。」




 僕は必死に考えた。そして僕は




「千尋と別れればいいの?」


最低の答えだった。


 正直今の彼女の心理状態が読めなかった。だから何をするべきなのかも分からなかった。


すると彼女は首を横に振った。


「分かってないなー。悠里君。もう恨んだりしてないの。だからそんなことしても意味はないんだよ。」


 その後も思いつく限りのことを言ったが彼女は首を横に振り続けるだけだった。




「はぁ…ガッカリだよ。悠里君には。


じゃあもう答えるね?私と付き合って。拒否権はないわ。」


「だから千尋と別れろってことでしょ?最初に言ったと思うけど。」


「だから違うのよ。分からなくていい。けど私と付き合って。」


「つまり二股をしろってこと?」




 そういうと彼女はゆっくりと首を縦に振った。


 「千尋と付き合いながら私と付き合うの。そしたら悠里君はずっと罪悪感に苛まれながら千尋と付き合っていくの。影では私ともいろんなことをしているのにそれを続けなければならない。それって別れるより辛いことだと思うの。いつかそれをバラして私と悠里君が結ばれる。彼女にとってもそれがベストだと思うし!」




僕に拒否権はなかった。


ただとりあえず頷いて後から千尋に説明するつもりだった。が、それを許しはしなかった。




「あー。悠里君そういえばいい忘れた。今日から私の家で暮らすのよ。部屋も一緒だよ。


家があんなになったからってこれなら安心できるって言っていたよ?ご両親。


よかったね。これでずっーと一緒だよ。 」




 すると後ろからキャリーバックを持った執事が来た。その中には僕の部屋にあるもの。着替えを含めてすべて入っていた。


そしてそこには一緒に宿題とノートもあった。


「約束だからこれらは返すよ。明日にでも先生のところにこれを持っていけばきっと間違えたということで再評価もらえるから。」




そういうと彼女は執事がいる前なのに関係なく僕を押し倒して馬乗りになった。


 そして僕の体をゆっくり舐めるように触って太もも。お尻。お腹。胸。ゆっくりと手が上がっていきそして顔に来た。




 頬を優しく触りながら彼女は僕にキスをした。


そして僕も彼女にキスをした。 


 僕は最低な人間だった。


この罪悪感によって僕はこの事を千尋に言うことはできなかった。




 そんなある日僕は千尋の家に呼び出された。


何度も行ったその家であったがこの日は少し様子が異なっていた。


 ドアを開けると何も言わずに椅子に座る彼女。そしてゆっくりと立ち上がり


 「もう悠里君とは付き合っていけない。別れようと。」そう言われた。


言われた僕より彼女のほうが悲しい表情をしていた。




 理由を聞いても何を答えてはくれなかった。失意の中僕は家に帰った。


家と言っても真澄家の家であった。


食事も喉を通らず風呂にも入らずにボーっとしていると真澄さんが来た。




「悲しいことでもあったの?大丈夫?」


 僕の頭を優しく抱きかかえて彼女の肩に僕の頭が乗っかっていた。


 しばらくたわいのない話をしていたものの彼女も察してから何も聞かずにいてくれた。


 そして僕はゆっくりそのまま寝た。




 僕はなんて最低な人間なんだ。そう思ってしまっているものの真澄さんとの関係は切れずにいた。


 それから数日経つと千尋が引っ越しした事を知った。もう僕には何もなかった。


そこからは味のない生活をひたすらに続けた。半年経っても千尋への気持ちはありながらも真澄さんとは付き合い続けた。


やり場のない気持ちを抱えていた。




 そんなある日僕は近くの駅で飲み物を買いに出て信号待ちしていた。すると反対側の信号待ちのところに千尋がいた。僕が驚いていると彼女も驚いているようだった。


 小さく手を振ってくる彼女に声をかけようとしたところ彼女はすぐに隣の男になにやら楽しそうに話していた。




 よく見てみると彼女とその男の子は手を繋いでいた。


 彼女は学校にいるときはすごく明るく誰が見ても羨ましい限りの理想の女の子を演じていた。


 どんな噂が流れてもどんな嫌がらせをされてもそれで怒ることもなくただ笑って流すのだ。何て理想の女の子なのだろう。


 それでも僕は知っている。彼女がどんな人間なのか。そして、僕自身がどんな人間なのか。


 朝起きて学校に行き勉強をして帰宅して宿題を済ませて風呂に入り寝る。この一連の流れをすべて管理される恐怖。もはや抵抗すらむなしくなるほどの。




 それでもそんな生活に慣れて来たある時僕が家に帰るとなにやら知らない声が聞こえて来た。


 「いいじゃん。ちょっとぐらい。そういうつもりで家に連れて来たんだろ?」


 


 聞き覚えのない男の声だった。


それは美澄さんの部屋から聞こえておりドアは少しだけ開いていた。すると、僕は思わずそこから覗くと美澄さんの上に男が馬乗りになっていた。


 言葉も出ずただその隙間から眺めていると彼女の服が少しずつ流されていくそんな服の擦れるようなヒュルヒュルという音だけが聞こえた。


 僕はどうすればいいか分からなかった。


こんなに監視されて好きなんて気持ちはとうになくなったと思ったが、まだ僕にこんな感情が残っていたのかという驚きと警察を呼べばいいのか執事の人を呼べばいいのか彼が誰なのかどういう関係なのか。


 頭はすでにキャパオーバーであった。




 こんな話を聞いたことがあった。


束縛する人間はそうされるのが怖くて自分がした経験や自分にそういった考えがあるから相手を縛ると。


 まさに現在の状況であった。


つまりは僕以外でも良かったのだ。そう思っていると僕は胸が苦しくなり我慢しようとするとシクシクという声と涙が自然に出て来た。




 するとドアにもたれかかってしまい前のめりになりながら部屋に入ってしまった。


そこには上半身裸のイケメンと乱れた服と腕を拘束されて制服ははだけてブラジャーが顕になった美澄さんがいた。


 僕はその姿に余計に涙が出そうになったがそこで気づいた。彼女の口にはガムテープが貼られていた。


 そう先ほどから聞こえて来たのは男の声だけ。彼女の声は一度も聞こえなかった。


 彼女の顔を改めて見ると目には大粒の涙が表面張力によりギリギリ保っていた。すると瞬きをするとその涙が頬を伝い布団に落ちた。


 その瞬間おれは大声を出しながらその男に突進した。その後の記憶はあまりない。




 ボーッとしたまま自室にいるといつものパジャマ姿の彼女がいた。警察なども駆けつけて男は捕らえられた。彼はなんと小学生の頃から美澄さんを好きだったとのことだった。


 その名前を聞いて驚いた。クラスでも目立たない僕と似たような男の子だったからだ。


 彼は彼なりに努力してあぁなったらしい。


それで変わった自分を見てくれればきっと振り向いてくれると思ったが好きな人がいると伝えると乱暴されたという流れだった。




 そんな経緯を振り返っていると彼女はゆっくりと僕に近づいてきて言った。


 「本当にごめんなさい。」




 そういうとベッドの上に座っている僕に対して両膝をつけて手を前に土下座のようにして謝っていた。


 そう言った彼女はここ数ヶ月の狂ったような束縛をする彼女ではなく、昔の僕が好きだった頃の彼女そのものだった。


 


「謝ることないよ。僕こそごめん。何もできなくて。顔をあげてほしいな。」




「ううん。そんなことない。悠里君が入って来た時すごく嬉しかった。あれは怖くて流した涙だけじゃなくて嬉し涙でもあったの。


それに謝らなきゃいけないのは私の方。


今まで私は悠里君にあれ近いことをしていたって気づいたの。悠里君の立場で考えたことなんて無かったのかもしれない。本当に今までごめんなさい。私も好きで振り向いて欲しくて…でもどうしたらいいか分からなくて、千尋が現れたときにそこからもう分からなくなっちゃったの。」




 そういう声は震えていた。見なくても泣いていることがわかった。


 僕も床に膝をつけて泣いている彼女の背中を子供をあやすようにそっと撫でた。


 するとようやくと落ちついてきて彼女は顔をあげてこう言った。


 「私と別れてください。」


僕はただ静かに頷いた。






 心が通り魔にさされた気分であった。


 2021年 3月1日


 僕は高校を無事に卒業することができた。


あれから猛勉強して日本でも有数の名門大学への進学も決まった。


 見た目もあの頃とは違ってメガネはコンタクトして髪の毛も少し遊ぶようになり、女子と全く話せなかったのに今では遊んだりもしていた。




 そして僕は卒業式を終え誰一人居なくなった校舎の中で女の子を待っていた。


この卒業のタイミングで告白しようとずっと思っていたのだ。


 告白のスポットとして有名な放課後の視聴覚室。そこでおれはただ待っていた。


もしかしたら来ないかと思っていた。


それでも待ち続けた。昼には終わっていた卒業式であったが、現時刻はすでに4時を回っており春になったとはいえまだ日は浅く、教室は紅く照らされていた。


 


 すると扉がガラッと開いた。


そこにいたのは千尋であった。


あの頃と比べると身長は大きくなり160cm近くはあった。顔を凛として大人に見えた。純粋に綺麗だと思った。


 「卒業おめでとうございます。」


「ありがとう。千尋は転校してからどう?学校生活は。」


「まぁまぁですかね。彼氏ともうまく行ってますし。けどあれですね。先輩変わりましたね。中身も見た目も。」


「そうだね。努力して振り向いてもらえるようにって思ってね。」


「今のは少しドキッとしましたよ。笑本当に変わりましたね。」




 そういうと彼女はゆっくりと教室の中を歩いた。


「懐かしいですね。ここにはいっぱい思い出があります。いい思い出も悪い思い出も。やっぱり最後はここだよね。」


「うん。決めていた。この日。この卒業式を迎えるまでは一切関わらないって。」


「ちゃんと決心がついたんですね。」


 そう彼女が告げると反対側のドアがガラガラっと開いた。


 そこには美澄 恋花が居た。


「じゃあ私はこれで」と言って千尋は出て行った。




 恋花と千尋はお互いに小さく腕を振ってバイバイとジェスチャーをしていた。




「久しぶりだね。悠里君。話すのはあの時以来になるのかな。見た目も少し変わったよね。勉強もすごく頑張って3年最後の期末試験でまさか1位を奪われるなんてね。クラスでも人気だったよ。かっこいいよね悠里君って」




「そうだね。昔の俺とは違うかも。俺はあの日決めたからさ。ちゃんと変わろうって。恋花を好きでいるだけじゃダメだって。恋花に好かれているだけではだめだって。」




「うん。きっとそうなんじゃないかなってなんか期待してた。それであったら嬉しいななんて。」




「ちゃんと自分を磨いてそしてちゃんと告白しようと思った。俺はありのままの自分を受け止めてくれる人に好きになってもらえればいいって思ってたけどそうじゃなかった。努力しない人間を誰が好きで居続けるかって。だから見た目も中身も勉強も運動も全部がんばって、同じ大学にも合格できた。これが今できる俺の精一杯だ。」




 俺はこの数年の思い出を一つ一つ思い出していた。告白して振られて千尋が現れて千尋と付き合って家が荒らされたりとか一緒に生活したりとか、山のように膨大な記憶が脳内を駆け巡った。


 けど、結局最後にいうことなんて決まっていた。僕がどんだけ考えて変わってもこの言葉は変わらなかった。


僕は彼女を真っ直ぐに見据えて目を見てこう言った。




「俺と付き合ってほしい。今度は恋花を幸せにする。」




彼女は優しく微笑んで はい。 と返事をした。



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