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14、もうひとりの純血の魔女

 長い物語を語り終え、ザ・ブックは一息つくような仕草を見せて、にっこりと笑う。


 それは、あまりに途方もない話だった。


 三年後の未来でさえうまく想像もできないアリサには、数万、数十万年後の未来だなんて言われても、まったくピンとこない。それこそ、映画やゲーム、小説の設定です、と言われた方がまだ納得できる。


 けれども、実際に街は切り取られ、空には太陽が二つと、月が同時に浮かんでいる。もうすでにこの街は時間の流れから取り残されつつあるように見える。この状況をこうして体験してしまっている以上、ザ・ブックの話したことには一定の信頼度はあるように思う。それに、そもそもこのザ・ブックの存在そのものが、今のこの時代から見れば、オーバーテクノロジーだ。少なくとも、彼が未来から来たという話は信憑性が高いように思える。


「つまり、貴方は魔女の、この街を切り取るという計画に賛成し、協力しているというわけね?」


 ザ・ブックは、ずっとあの魔女と寄り添ってきていたのだから、当然だろう。さっきの話の中でも、街を切り取っていく魔女を見守っていたと言っていた。けれども、返ってきたのは想定外の言葉だった。


『いえ。まったく』


「は?」


『確かに、私は彼女と共に長い時を過ごしてきました。彼女の気持ちが少しわかったというのも、本当です。ですが、私は彼女の計画を手伝ってなどいません。すべては彼女が独断で行っているのです。私には、彼女がしようとしていることが正解かどうかなんて、わかりません。だから、見守ることを決めたのです』


「じゃあ、貴方は彼女の計画には関与していないということ?」


『そうですね。私が彼女の側にいたのも、ただ単に話し相手として、です。この計画に関しては、彼女に対しての私の協力は一切ありません』


 あまりにあっけらかんと、さも当然であるかのようにザ・ブックは言う。そんな様子に、拍子抜けしてしまうアリサだったけれども、彼が彼女の側ではないのならば、その方がいい。


「じゃあ、私たちが彼女の計画を止めるのも、問題はないってこと?」


『ええ、まあそうですね。そもそも、私にできることなんてありませんよ。私にはこの結末を見守ることしか、できない。所詮はただの利用者支援用自立AI搭載本型ツールですよ』


 なんだか少し自虐的(じぎゃくてき)にさえ聞こえるように言って、ザ・ブックは肩をすくめる。


「なあ、ザ・ブック。聞きたいことがあるんだが」


 と、マクスウェルはザ・ブックが話している間、ずっと組んでいた腕を解いて、顔を上げる。


『はい、なんでしょう』


「キミはあの青の魔女のパーソナルな情報はなにも知らない、と言ってたよね?」


『ええ、そうですね』


「でも、あの魔女はこの時代に来る前に、キミに語ったんだろう? 自らの過去を。ならやっぱりあの魔女の詳しいことを知っているんじゃないのか?」


 確かに、そういえばザ・ブックはそんなことを言っていた。ならば、もしかしてこのAIは嘘をついているのかもしれない、とアリサも少し不安になる。


『ああ、確かに彼女は過去を語りましたが、肝心なことは伏せたままでした。自らの出自も、氏名さえも。かつて好きだった人がいた、というのは別に特別なことではないでしょう。学校に通い、友達と一緒に帰り道にクレープを買って食べた、というのも、いたって平凡な出来事でしょう。彼女はただ、普通に暮らした幸せな日々を語っただけでした。そんな日々を彼女は残したいと言っていたのです』


「へぇ、そうか。なるほど」


 理解はしたけれども、納得はしていない、というような表情でマクスウェルは頷く。


「まあ、でもわかったこともあるか」


「なにがわかったっていうの?」


 アリサは首を傾げながら、マクスウェルに訊ねる。


「あの魔女が残したいと思った幸せな時代。それが今の、この(あき)()市だということならば、それはすなわち、この時代を幸せだと感じている、この街に暮らす若い頃の魔女が今、この街にいる、ということだろう」


「ああ、そっか。なるほど」


「あの未来から来た魔女を止める術は今のところ、まったく無いけれども、この時代の青の魔女と接触できれば、なんらかの策が見つかるかもしれない。策が見つからなくても、最悪、なんらかのヒントにはなるかもしれない」


「じゃあ、その魔女を見つけるのが、とりあえずの目標ってことだね」


「ああ、そういうことだ」


 この時代に存在する、アリサ以外のもうひとりの純血の魔女。


 魔女同盟にさえ見つかっておらず、ひっそりと暮らす彼女を見つけるのは決して容易ではないだろうけれども、今はそれしか希望の道筋はない。ならば、なんとしてでも彼女を見つけ出すしかないのだろう。

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