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11、この世界の未来を奪う

 科学準備室のある別館三号棟は周りを他の校舎に囲まれていて、外に出たところで、空しか見えない。けれども、空を見上げれば、その空の明るさが不自然だということに気付く。


 青く、赤く、黒いのだ。


 別館三号棟と本館の校舎に挟まれた細い通路の、向こうから青、そして真上が赤、反対側が黒色の、グラデーションのようになっている。


 とにかく、きちんと空が見たくて、アリサは校門前に向かう。そこならば、少し開けていて、空ももっと見えるはずだ。


 そして、校門前の広場に抜けて広い空を見て、アリサは言葉を失い、息も忘れて、呆けるしかできなかった。


 そこには、太陽と、太陽と、そして月が浮かんでいた。


 空に光源が三つ。それはまるで、映画に出てくる異星の景色のように見えた。空の明るさは朝、夕、夜のように分かれていて、一日の空をぎゅっとひとまとめにしたような、この地球上には決してあり得ない、滅茶苦茶な空の色だ。


「これは……なんだ?」


 マクスウェルは白衣のポケットから、見慣れない端末を取り出して、その画面を見た後、アリサの方を見る。


 その素振りだけで、わかる。きっと、あの端末は彼の言っていた魔力の源、プラナを計測する機械なのだろう。そしておそらく、その装置には今、アリサのものと同じようなパターンのグラフが表示されているに違いない。


 アリサはマクスウェルの顔を見ながら、両手を挙げて首を振る。

 私は魔法を使っていませんよ、とアピールするように。


 それを見て、マクスウェルは眉を寄せる。


「じゃあ、コレは本当にキミ以外の魔女が起こしているっていうのか」


「だから、私じゃないって言ってたでしょ」


「いや、しかし……でも……うん、そうか。まあ、目の前で実際に起こっているのなら、そういうことなんだろう」


 と、納得したのか、してないのか、よくわからないようなことをつぶやいて、マクスウェルはくしゃくしゃと頭を掻く。


「で、どうするの?」


 腕を組み、空を眺めながら、アリサはマクスウェルに訊ねる。


 意地悪な質問だ、とアリサは内心苦笑する。


 どうするもなにも、元凶がわからない以上、どうすることもできない。原因はわかっている。マクスウェルの言った通り、これは魔法なのだろう。それはアリサもそう思う。こんな不可思議な現象を説明しようと思えば、それ以外にはありえない。けれども、その魔法を行使している魔女が一体誰なのかがわからないのだから、手の打ちようがない。そもそも、この魔女が誰なのかを突き止めたところで、こんな途方もない大規模な魔法を行使するような魔女に対抗し得る策なんて、思いつきもしないけれども。


 やっぱり、どう考えてもどうしようもない。


「そりゃ、どうにかするしかないだろう」


 けれども、そんなアリサの考えを否定するようにマクスウェルは言い放つ。


 もしかして、自分には思いつきもしなかった斬新なアイデア、気付かなかった落とし穴、もしくはとっておきの秘策を隠し持っているのだろうか。普段は飄々(ひょうひょう)とした風な空気でフラフラしているのに。とはいえ、彼は魔女研究の最先端にいるわけだし、それなりに対処するためのノウハウは持っているのかもしれない。やっぱりなんだかんだで大人っていうものはすごいのだろう。


 と、アリサは感心して、マクスウェルの方を向く。


「なにか策があるんだ?」


「いや、ない」


 即答だった。さっきまでの、彼を少し尊敬しかけた気持ちを返してほしい。


「じゃあ、どうやって、アレをどうにかするのよ?」


「さあね。でも、どうにかしなきゃいけない事態だ」


 と、マクスウェルは手に持ったプラナの計測器を操作する。二、三回液晶にタッチしてから、ゆっくりと顔を上げる。


「反応は近いな」


 そう言って、駆け出す。


「え、ちょっと、待ってよ」


 アリサもマクスウェルを追いかけて走る。校門を抜けてすぐ右に折れ、校舎の裏手に回り込み、河川敷の土手の階段を上る。名前も知らない雑草と土の匂いがした。土手の上から、河原に一人の男が立っているのが見える。同じ久島高校の制服を着た、同じ学年の、この春に転校してきた男子生徒、桐宮(きりみや)拓光(たくみ)の姿が。


「桐宮くん……?」


 まさか、彼が元凶なのか。


 いや、違う。拓光はその場から動かない。魔法を行使しているような素振りは一切見えない。そもそも、魔女ではなく、男の魔法使いというものが存在するのだろうか。アリサはずっと魔女として生きてきたけれども、魔法使いが実在するだなんて話は聞いたことがない。もちろん、魔女が存在するのだから、魔法使いが存在するとしても不自然ではないけれども、それでも、拓光が魔法を使っているということはないだろう。初めて出会ったあの春の日、彼はアリサの魔法に対して、あんなにも目を輝かせていたのだから。


「上だ」


 と、マクスウェルが指をさす。その先に、一人の女性が宙に浮いていた。


 太陽と、太陽と、月。その三つの光に照らされて、虚ろな表情で。青いワンピースの裾が風に揺れて、まるで空中を漂うクラゲのようにも見える。


 その女性に、アリサは見覚えがあった。


 予感はあった。学校の屋上から、ぽっかりと宙に浮かぶようなこの街の全景を見たその瞬間から、この現象にあの人がかかわっているのではないか、という漠然とした予感が。そして、彼女の姿を見て、アリサはむしろ納得したのだ。今あるこの光景がストンと胸に落ちる。


 ――ああ、やっぱり。


 と。

 それは、一週間前にアリサの目の前で雨雲を消し去った、あの青い女の人だった。


 とても寂しげで、(はかな)げで、美しい、月下美人のようなその人のことを、忘れられるはずもない。


 雨雲を消し飛ばした彼女ならば、こんな途方もない魔法も成し得てしまってもおかしくはないだろう、と素直に認めてしまえる。それと同時に、あんなにも素敵な魔法の使い方をしていた彼女が、なぜこんなことをするのだろうか、という疑問も浮かぶ。


 確かに、街が一つ、ぽっかりと浮かぶ光景というのは、それはそれでとても幻想的で美しい。寓話(ぐうわ)や神話を思い起こさせる。けれども、突然、なんの前触れもなく、なんの説明もないままにこんなことをされてしまっては、この街の住人たちも困ってしまう。


 彼女がいったいなにを望んでいるのかはわからない。ただ、まずは彼女がなにを思ってこんなことをしたのかを知らなければいけない。


「おはよう」


 と、宙に浮かぶ彼女に届くように、大きな声でアリサは叫ぶ。なぜ、おはよう、と言ってしまったのかはわからない。もしかしたら、こんにちはが正解だったのかもしれないし、こんばんはが正解だったのかもしれない。貴方は誰、が正解だったのかもしれない。けれども、今のこの状況で最善の言葉なんてわからない。


「キミは彼女を知っているのか?」


 マクスウェルは視線を宙に浮かぶ彼女から目を離さずに、アリサに訊ねる。


「うーん、まあ、一度だけ会ったことはあるけど、知っているわけじゃない。ただ、あの人がこの状況を作り出したというのならば、納得できる」


「彼女はいったい何者なんだ?」


「わからないわ。でも、あなたの持っているその機械が反応しているということは、魔女なんでしょう?」


「ああ、彼女からプラナの反応がある。間違いなく彼女は魔女だ」


 空中に浮かぶ青い女性はゆっくりと目をアリサに向ける。そして、ゆっくりと高度を下げる。まるで綿のようにふわり、と柔らかく着地する。そのすぐそばに拓光は立ち尽くしたまま、何も反応を示さない。


「桐宮くん!」


 アリサは叫ぶものの、それでも拓光はその場から動かない。声が聞こえていない、ということもないだろうに、一体どうしたのだろうか。


 そんな拓光の鼻先をかすめるようにして、その女性は歩いてアリサに近付く。そして、河川敷の土手の階段の真ん中あたりで足を止めた。そこから、アリサとマクスウェルの立っている土手の上を見上げて、口を開いた。


「ごきげんよう」


 その声は、少し掠れていて、女性にしてはやや低い声だった。特徴的ではないものの、なぜか耳に残る声質だ。


「キミがこれをやったのか?」


 と、マクスウェルが問いかける。


「ええ、そうね」


 彼女はシンプルに答える。綺麗な長い髪がさらり、と揺れる。


「キミはいったい何者なんだ?」


「私は魔女よ」


「それはわかってる。いったい、どこからやってきた、どんな魔女なんだ、ということを訊いているんだ。キミのような魔女は、魔女同盟のリストの中にはいなかった。これまでどこにその身を隠していたんだ?」


 魔女は、無知なものを見下すような(あざけ)りの笑みを浮かべる。


「貴方は魔女同盟を信用し過ぎよ。魔女同盟といえど、万能ではないのだから、見落としもあるわ。まあ、私は魔女同盟にとってはイレギュラーな存在といえるから、知られていなくても当然だけれども」


「イレギュラー……それはいったいどういう意味だ?」


「私は八十六万年……いえ、それよりももっと長く生きてきた純血の魔女よ」


「はち、じゅう……?」


 あまりに膨大な数字に、アリサは目を見開く。


「……キミはいったい何を言っているんだ?」


 マクスウェルも怪訝(けげん)そうな表情で魔女を見る。


「バカにしているのか? 八十六万年も前に魔女が存在したって? そんなもの、僕が信じるとでも思っているのか? 魔女どころか、人類さえもこの地球上に存在していなかった時代だぞ」


「別に私は嘘をついていない。まあ、貴方が信じようと信じまいとそれは貴方の勝手だけれども。でも、こんな風に街を切り取ってしまうような大規模な魔法を、普通の魔女が使えると思うの?」


 そう言われて、マクスウェルは黙り込む。確かに、普通の魔女にこんなことは不可能だろう。けれども、八十六万生きた魔女ならば、それも可能になるのではないか、とも思える。


「私は純血の魔女よ。魔女の中でも、純血の魔女は特に強い魔力を有する。その魔女が八十六万生きたのならば、街ひとつを切り取るだけの魔力も貯蔵できるようになるものよ」


「純血の魔女……」


 アリサは呟く。


 自分以外の純血の魔女の初めて見た。これまで、純血の魔女は世界にたった一人しか存在していないとされていたのだから、驚くのも無理はない。


 通常、魔女というものは、その力を他の魔女から継承されていくものだ。先代の魔女から、後継者になる少女へと継がれていく。そして魔法を次代の魔女に託した女性は普通の人になる。そうして魔女の力は数千年、脈々と続いてきていたのだ。


 ただし、魔女が普通の人間になるのは、その力を継承するときだけではない。異性との口づけでもその力を失う。当然、魔女の歴史数千年の中で、恋や愛を優先した魔女も少なくはない。つまり、魔法の力を継承する前にその力を失うのだ。そんなことが続けば、魔女の数は減っていくばかりだ。そのバランスをとるように、この世界には数十年、数百年にひとり、生まれながらにして魔法を使える魔女が生まれる。そんな存在を純血の魔女と呼ぶのだ。


 純血の魔女は、普通の魔女よりも強力な魔法を行使できるケースが多い。それは、生まれながらにして、魔法というものを身に(まと)い、身近に感じてきていることが大きく影響を与えているのだろう。赤ん坊のころからサッカーボールに触れてきた人間と、中学生になってから初めてサッカーボールを蹴る人間とでは、どちらがよりプロサッカー選手になる可能性が高いのかは、考えるまでもないだろう。


「あなたは、この街を切り取ってどうするつもりなの?」


 と、アリサは訊ねる。それを聞いて、魔女は鼻で笑う。


「ふん。どうするつもり、ですって? その質問はあまりに的外れな質問ね。私の目的はこの街を切り取ってからどうこうすることじゃない。この街を切り取ることそのものが私の目的なのよ」


「……え?」


「私はこの時代のこの街を、世界や宇宙と呼ばれるものから切り取り、時間の流れさえも受け付けない次元で永遠に保管し続けたいの」


 彼女の言っていることがよくわからなくて、アリサは首を傾げる。


「それはいったいどういう……」


「貴方は今のこの世界が幸福なものであると思う?」


 それは、あまりに範囲の広い質問だ。彼女の言う『この世界』や『幸福』の定義がわからない以上、答えようのないものだ。だから、アリサは首を縦にも横にも振らない。


「貴方はまだわからないでしょうけど、この時代のこの世界、この街はとっても幸福よ。ありとあらゆる時代、場所において、これ以上理想的な世界はありえない。この世界を維持するためならば、未来を奪ってしまってもいいと思えるくらいに、幸せな世界。この幸福の模範ともいえる世界を切り取って、永遠に記録するの。これこそが、地球に住む人類の最も美しい部分だ。と、宇宙が無くなった後でさえ記録に残すために、私はこの街を切り取る」


 と、魔女は言う。


 やはりアリサには、彼女が言っていることがよくわからない。そもそも彼女が、今のこの時代のこの街が世界の模範となるくらいに幸福なものだと信じる根拠がわからない。


 それに、彼女の言っていることが正しくて、今のこの時代のこの街が幸福なものであるにしても、未来まで奪ってしまうのは間違っていると思う。例え、今がとても幸せで、その幸せの先に悲劇を含む未来が待っているのだとしても、その未来を奪うなんてことはあってはならないはずだ。よく、幸せなこの時が永遠に続けばいいのに、という台詞を耳にするけれども、その度に、アリサはため息をつく。永遠の幸せなんて、そんなフラットなものに一体何の価値があるというのだろう。不幸があるから、幸福を知れるのだ。永遠に続く幸せなんて、何も感じることのできないぬるま湯の地獄のようなものだ。


「私はこの幸せな世界を守りたい。その為に、私はこの世界の未来を奪う」


 そう彼女は宣言して、右手を差し出す。


「あなたも、協力してくれない?」


 アリサの持つ価値観において、そんなことに協力するなんて、絶対にありえない。そもそも、そんな大それたことに自分が協力できるようなことは何一つとして無いと思う。


 さっきは縦にも横にも振らなかった首を、今度は横に振る。明確な拒絶(きょぜつ)の意思表示。それを見て、魔女は差出していた右手を下げる。


「ええ、そうね。貴方はそういう選択をする人よね」


 まるでアリサのことを知っている風に呟いて彼女は振り返る。ゆっくりと階段を下り、未だ微動だにしない拓光の隣に立つ。


「それでも、私には貴方の力が必要なの。だから……」


 と、魔女は左手の平を広げる。その手には、青くぼんやりとした光がある。その光の中には、魔法陣のような紋様が見える。それを、彼女は地面に叩きつけた。すると、青い閃光が弾けて、その地面の土がもぞもぞと盛り上がり始める。生き物のようにうねるその土の塊はあっという間に三メートルほどの高さになった。そしてそれは、人の形を模していた。


「あれは、ゴーレム……か? あんなものまで作り出せるのか」


 その泥の人形を見て、マクスウェルは呆れたように呟く。


 その間にもさらに大きくなり、三メートルよりもさらに膨れ上がったゴーレムは側にいた拓光の身体を抱える。やはり彼は全く動かない。初めから、きっと彼は何らかの魔法をかけられていたのだろう。


「ちょっ、なにを……」


 慌てて手を伸ばそうとするアリサの言葉を遮って、魔女は声を上げる。


「彼は私が預かる。交渉しましょう」


「交渉って……」


「だって、このままじゃ貴方は私を手伝ってはくれないんでしょう? なら、話し合うしかないじゃない。そのための材料として彼は預かるわ」


「それは交渉じゃなくて脅迫でしょう?」


「あら、それは見解の相違じゃなくて? だって、彼がいなきゃ、貴方は初めから交渉のテーブルにはついてくれないでしょう? なら、こうして強引にでも交渉のための場に引っ張り出さなきゃ。彼はそのための材料よ。そこから先の交渉は……まあ、貴方次第ね」


 そう言って魔女は、右手を高く上げて、振り下ろす。


 すると、そこに門が現れた。何の装飾も施されていない、シンプルな門。ちょうど、彼女一人がくぐるのに最適なサイズだ。その門の扉が開き、魔女は門をくぐる。


「交渉の日時、場所については、決まり次第、使い魔を送ります」


 そう言って、魔女は門の中に消える。その魔女の後を追うようにゴーレムも門をくぐろうとする。四メートル近くあるゴーレムが抜けるには、門はあまりに小さすぎるように思えたけれども、なぜか、ゴーレムもすんなりと門をくぐり抜ける。


「待ちなさい!」


 と、アリサは閉じつつあるその門に右手の人差し指を向けて、魔力を放つ。何にも変換されていない、シンプルに、ただ魔力を込めただけのその光弾は、けれども門には届かなかった。届く寸前で門は完全に閉まり、消失してしまったのだ。


 花火が弾けるよりも、もっと重そうな炸裂音がして、光弾は河川敷の芝生の地面を(えぐ)る。そこに、マクスウェルが駆けつけた。


「クソッ、間に合わなかった、か……」


 どうやら、アリサがゴーレムに人差し指を向けたときにはもう、彼は走り出していたらしい。


 それは拓光の身を案じての行動なのか、教師としての使命感なのか、それとも単に科学者としての好奇心か。いずれにしても、白衣を翻して走るその姿に、アリサは少しだけ感心した。


 けれどもすぐに、拓光が連れて行かれてしまったという事実に、表情が険しくなる。


「ねえ、どうしよう」


 と、アリサにしては珍しく素直にマクスウェルに問い掛けた。不安げに揺れる声に、自分でも、らしくないと思ってしまう。ついさっきまで、敵だとさえ思っていた相手に頼ってしまうだなんて、私はとても困ってしまっている、と。


「どうしようもないだろう。今の僕たちには打てる手がない。相手の所在も、力量もわからないんだ。動きようがない」


「そんな……」


「でも、あの魔女はふたたび接触してくると言っていた。なら、今は待つしかない。その間に、とにかく情報を集めて、対策を練って、次回の接触時になんとかするしかない」


「今のところ、具体的な案はないってこと?」


「これから練るってことさ」


 まあ、でも今はそうするしかないのだろう。他に手はない。残念ながら、あの魔女の力は、アリサの魔法なんかとでは比較にならないほどに強大だ。一段階どころか、一次元ほどの隔たりがある。マクスウェルの言う通り、次の接触時に向けて、何らかの策を講じるしかない。


「わかった。なら、私も手伝う」


 魔女が相手ならば、対抗し得るのは魔女であるアリサしかいないはずだ。可能性は一匹の蟻が一頭の象に勝つよりも低いものなのかもしれないけれども。それでも、このままこの街が、世界から隔離されたままであるのは嫌だ。たとえ、彼女が言った通りに、永遠に存在し続けることが出来るのだとしても、そんなことをアリサは望まない。未来のない、変化しない今が永遠に続く世界なんて、死んでいることとなにが違うというのだろう。


 それに、拓光が彼女の下にいる。


 彼を助けなければいけない。彼とはこれから友達になる予定なのだ。友達は相手が困難な状況にあれば助けるものなのだろう、たぶん。


「わかった、ありがとう。きっと、キミの力は必要になると思う」


 と、マクスウェルはもう一度空を見上げる。つられてアリサも空を見る。

 太陽と太陽と月の三つの光源はさっきまで直列に並んでいたのに、今では正三角形を作っている。


 それは、不自然に直列に並んでいたさっきよりも、より自然に溶け込んでいるように見える。今にも宇宙船が横切りそうな異星のような光景に、アリサは畏怖(いふ)とともに、感動さえも覚える。


 ――でもきっと、これは私が望む世界ではないのだ。私は停滞する今よりも、変化する未来が欲しい。


 あの魔女を止めなければいけない。

 決意して、魔女の扉が消えた足元を見る。


 先程放ったアリサの魔弾が抉った地面。

 その地面に、なにかが落ちているのを見つけて、アリサはしゃがみこんだ。

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