プロローグ2
よろしくお願いします。
4月になって日が長くなって来たとはいえ、生徒会の仕事を済ませ帰宅途中で晩御飯の買い出しを済ます頃には、日がかなり傾き、地平の先の町の影に沈み始めていた。
街頭が所々、点き始める歩道の中を、二人は買物袋をそれぞれが一つずつ持ちながら楽しそうに並んで歩いている。
その様子は、恋人同士にも見えなくはないが、如何せん弟君が女の子に見えるので、仲の良い姉妹か、親友にしか見えなかった。
ただ、その会話の内容を聞くことができたならば、普通の姉弟とは思えないかもしれない。
「今晩はポテトとベーコンのグラタンとオニオンスープにシラスと海藻のサラダにするからね?」
普通これを喋っているのは姉である京華と思うのが一般人である。が事実は違っていた。
「リョウちゃんって、どんどん、ご飯のレパートリーも増えて行くよね? このままじゃお姉ちゃんの威厳が無くなってしまいそう。」
少し悲しそうな顔の京華を見ながらため息混じりに言葉を放つ涼介。
「威厳って、目玉焼きと冷奴くらいしかレパートリーがない京華姉ちゃんにあったんだ?」
「う! そうやってお姉ちゃんをすぐ虐めて楽しむんだから。」
「姉ちゃんを虐めて良いのは僕だけなんだから。別に良くない?」
その言葉に顔を真っ赤に染めて嬉しそうな京華。
「キュン!ってなっちゃったじゃない!」
目をキラキラさせ何かを期待する目を投げつけるが、特に気にもしない涼介。
「そのちょっと突き放す感じがグットよ!」
親指を立てた腕を、満面の笑顔を付けて力一杯に涼介に向かって突き出す。
そんな京華の笑顔を優しい笑顔で返す涼介。
「京華お姉ちゃん。」
「どうしたの?」
「いつもありがとう。」
「何、どうしたのよ?」
小首を傾け、解らない素振りを見せるがその優しい笑顔は、全てを解っているように涼介は思えた。
「お父さんとお母さんが3年前に亡くなってから、ずっと一緒にいてくれて本当にありがとう。特に僕がこんな容姿だから友達からも虐められ易かったし、お姉ちゃんが一緒に居てくれなかったら多分生きていられなかったと思う。」
顔は笑顔だけど、悲しそうな瞳が涼介の心に抱える重さを物語っていた。
けれどそれは京華も同じだった。
「リョウちゃん、それはちょっと違うよ。確かにあの事故以来、私はリョウちゃんを守るって約束したよ。でもリョウちゃんも私のこと、ちゃんと見守ってくれている事が解るから頑張れるの。もしリョウちゃんが居なかったら私こそ生きていないと思うもの。」
いつのまにか荷物を持つ手とは反対の二つの手は重なり合っていた。
「う~ん、それでもお姉ちゃんにはありがとうって言うね。それが今の僕の気持ちだから。」
満面の笑顔を向ける涼介に完全に心を奪われている京華の姿はとても人には見せれないほどのフニャケぶりだが此処は公衆の面前だ。
多くの人が二人の美少女?を不思議そうに眺めていた。
「お、お姉ちゃん! 大丈夫!? しっかりして!!」
気絶寸前の京華は自分に向けてくれた最高の笑顔を思い出しながら小さくつぶやいた。
「この幸せは二度と壊させやしない。神や魔王や悪魔が相手でも必ず私が守る。」
両親を同時に亡くして以来、二人はようやく幸せと感じられるまでになっていた。
けれどこの幸せも、あの事故の様に一瞬で奪われる事も知っている二人は、今度こそ幸せになるために努力しようと決めていた。
(もう誰にも邪魔はさせない・・・)
読んでいただき有り難うございます。