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外宇宙からの来訪者

それは2020年のある春の日のことだった。場所は日本、そこにある天文台の一つが外宇宙から太陽系に向かって移動してくる無数の彗星らしきものを発見する。だがやがてそれらは彗星などではないことが確認される。


その彗星群は突如天文台の望遠鏡の視界から消えたと思うと、次の日にはすでに太陽系内、火星近郊まで移動してきたからである。たとえ光速で移動したにしても、たった一日でこれほどの距離を縮めてくるのは異常である。そしてなにより事態を緊迫化させたのが、火星まで接近したことによって判明した彗星群の正体であった。



改めて観測した望遠鏡の視界に映し出されたのは、いくつもの造形をした無数の巨大な未確認飛行物体、すなわちUFO、外宇宙から飛来した宇宙船であった。その事実はただちに日本政府に報告され、さらにそこから同盟国アメリカにまで伝えられてただちに両国で対策協議が開始された。


しかしその結果が出るまで火星に飛来した宇宙船団は待ってくれるはずもなく、さらに翌日には彼らは人類が地球外で唯一直接の足跡を残した衛星、すなわち月の近辺まで進出してきた。事態を重く見た両国政府は、米国主導で打ち上げ地球を周回している宇宙開発拠点ISS、国際宇宙ステーションから衛星を経由した通信によるコミュニケーションを試みた。


その結果は驚くべきものだった。月付近に進出してきた船団を率いる宇宙人たちは多少の癖はあるものの、現代日本で使われるものと同じ日本語で通信に応じてきたのである。それによって外宇宙からの来訪者との意思疎通の問題は解消されたが、それは新たな問題を地球人に突き付けることになった。彼らとの通信で明らかになったこと、それは彼らの船団が大別して二種の種族により構成されているということ、それぞれの種族には考え方の違いがあるが共に地球人との共存を望んでいること、そして自分たちはかつて地球に住み、現在の日本と呼ばれる地域に暮らしていた先住民の末裔ということだった。


さらに彼らは加えて驚愕の情報をもたらした。自分たちの船団には太陽系到達以前の時点でもう1種族の勢力が含まれていたが、その方針の過激さと考え方のあまりの違いから、ごく一部の例外を除いて他の二種族が仕掛けた細工により宇宙空間の地球から離れた別座標に時空間ワープさせた、しかしいずれ彼らも時空間ワープの繰り返しで地球に到達するだろう、と。


突然告げられらたあまりに衝撃的な情報に日米両政府は困惑するばかりだったが、しかしかといっていつまでも彼らを月の近くで待たせ続けるわけにもいかない。まず時空間ワープなどという現状の地球人の先端科学ですら実現不可能な技術を実用化している時点で宇宙から来訪した自称日本の先住民たちの技術レベルは地球人よりはるかに上なのは確かである、下手に問題を先送りにしたところで事態は改善しないし、それどころか彼らの怒りをかって現状比較的友好的態度で接してきている彼らを敵対的な存在に変えてしまいかねない。


協議の結果出された結論はある意味必然的なものだった。すなわち宇宙人たちの要求を呑むことになったのである。彼らの要求は自分たちがかつて暮らした日本の付近の海域に船団を降下させ、そこを本拠としつつ日本各地の地域に徐々に移住を行なわせてほしいというものだった。そしてその交換条件として彼らが提示したのが、自分たちの乗ってきた宇宙船への案内を含めた彼らの保有する各種技術の日米両国への提供であった。この条件を彼らの持つ技術に関心を示していたアメリカが呑まないはずもなく、政治的にアメリカの意向に重きを置かざるを得ない傾向がある日本にしてもそれは同じであった。


こうして宇宙人との間に交わされた協定により、外宇宙から飛来した二種族の宇宙人にして日本の先住民は日本の領域へと降り立った。外宇宙から飛来した日本の先住民を自称する宇宙人たちの存在は日米両政府首脳の会見によって広く世間一般に知られることととなる。それは以後長きにわたり続くことになる単一民族国家日本の変革の歴史の始まりでもあった。


さて、日本に降り立った宇宙人たちは先述した通り二種類の種族から成り立っていた。一つがエミシ族、もう一つがクマソ族である。彼らの一目見た外見は地球人との差異はない。ついでに言えば日本に降り立った彼らは当初こそ独特の方言が混じったような日本語を喋っていたが、すぐに多くの者が現代日本人と遜色ないレベルの違和感ない日本語をすぐに身に着け、その容姿も一般的な日本人とそう大差はなかった上にその文化的特性も似通っていた(例えば箸を使う、お辞儀をするなど)ため、とくに問題なく日本の各地域で人々に受け入れられた。とはいっても日本政府の意図的な案内で彼らが移住先として提示されたのは、人口減によって過疎化した田舎の市町村が多かったが、エミシ族もクマソ族もそのことに特に不満を述べることもなかった。彼らはむしろそれらの地域の発展に協力できることを喜び、その土地に暮らす地元民に自分たちの持つ様々な知識の提供を惜しまなかった。その結果かつての過疎地域の数々は新たな技術や文化の中心地となり都市部から田舎への人口移動の逆転化が各地でみられるようなった。


こうして順調にいっているように見えた先住民と日本人との交流であったが、何事にも必ず例外というものが存在する。それは今回においても同じであった。その例外とは、エミシ族やクマソ族と敵対し、遠くの宇宙空間にワープさせられたというもう一つの先住民族、ハヤト族の中の例外者たち、すなわち種族全体の方針に同意できず他の二種族の勢力に亡命し、彼らと共に日本へと降り立った者たちだった。


その彼ら、ハヤト族には他の二種族と違い、明らかに地球人と違う特徴が存在した。それがイヌ科の生物を思わせる尻尾と頭部に垂直に立った耳の存在である。肌色や髪色、その他容姿全般は他の種族と同じく日本人と遜色なく、その使用する日本語にも違和感はないもののさすがにその容姿の違いはごまかせない。



結果として彼らは先住民出現後の世界に反感を持つ人々の格好の不満のはけ口になってしまった。日本人たちの役に立つことで彼らに受け入れてもらおうと田舎の過疎化地域の発展にまい進する彼ら先住民は地方の人々にとっては救世主でも、都市部の中小企業の経営者などにとっては厄介な存在と捉えられた。


なぜなら先住民たちの移住後、地方から新たな人材を採用することが非常に難しくなったからである。加えていうならいままで歯牙にもかけていなかった田舎で細々と家族経営していたような小会社などが先住民たちの協力を受けて自分たちの売り上げを脅かすような新商品を開発、販売させ始めた。


この影響を受けて都市部では中小企業の倒産が相次ぎ、そこで職を失った人々や元経営者が多く生まれることになった。当然彼らの恨みや怒りは先住民たちに向けられるが、太平洋側の日本近海に宇宙船の大船団を停泊させている彼らの怒りを買うような真似を日本政府が許容するはずもなく、それらの行為はあわただしく国会で可決された先住民差別禁止法により厳しく禁止されていた。そこでそれらの人々はその法律の穴をつく戦術に出た。実はあわただしくつくられたこの法律には一つ致命的な欠陥が存在した。それが同じ外宇宙からの先住民たるハヤト族が法律の適応される先住民の枠に含まれていなかったことである。


それが日本政府と他の二種族との間で暗黙の内に用意された情勢安定のための被差別民を作るための方策だったのか、日本政府があまりにもあわただしく即急に法案を作った故に偶然起きた過ちだったのかはわからない。ともかく法律の庇護下から外れてしまったハヤト族は、先住民たちに恨みを持つ者たちの差別の対象となってしまった。そして三種族の先住民たちの中で最も総数が少なく、また独自の宇宙船団を持たず、提供できる技術も持たない彼らに、助けることのメリットが存在しない彼らを利用しようとするものはいても、救済しようとするものはごく少数に過ぎなかった。


そのような光と闇を抱えながら日本は徐々に変革を進めていった。そして時代は進み10年後、先住民たちと日本人たちとのあいまいな関係を決定的に変える出来事が発生する。それが日本の首都東京を含む関東地方一帯を襲った巨大地震の発生である。この大地震はすさまじい被害を各地にもたらしたが、その中には日本人の多くにとっての精神的象徴といえる皇族の人々も含まれていた。そんなうちの一人を偶然東京に滞在していた先住民たちが臨時のチームを組んで救い出したのである。そこで多くの日本人たちは、彼ら先住民が持つ自分たちとは異質な力を目の当たりにした。


がれきの中からその鋭い五感で生存者を探し出すハヤト族、その細身の体系から想像できないような怪力で次々に瓦礫をどかすクマソ族、体の各所から出すクモ糸のような繊維を即席の包帯や担架として人々に治療を施すエミシ族、といった具合に役割分担して先住民たちは震災発生直後から生存者の死のタイムリミットといわれる震災発生から3日目までの間に数えきれないほどの被災者の命を救い出した。そしてその中には地震発生当時皇居外に出ていた皇族関係者たち、さらにかつてその恨みの感情からハヤト族をターゲットに差別と迫害を加えていた人々も含まれていたのである。


震災後、エミシ族やクマソ族の技術提供を受けた都心復興計画が進められる中で、いままで見過ごされてきた先住民への敵意の発生の原因となったかつての過疎地域と都市部との経済格差、そしてそれにより発生した都市部の住民による恨みと怒りの犠牲となったハヤト族の状況にスポットライトがあてられることになる。そしてそれらの問題を解決するために日本政府と先住民三種族の代表者たちとの協議の結果、新たにいくつかの取り決めがなされた。一つが今後地方に新たな先住民の移住を行なわぬこと、また先住民側が持つ超技術を無暗に地方の日本人に提供しないこと、また改正先住民差別禁止法を制定して今まで法律の対象外だったハヤト族の人々を対象に含むとともに、彼らへの差別的感情がそう簡単に消せないことを踏まえて、先住民たちの子弟希望する日本人の子弟たちが共に暮らし学ぶ学び舎を政府公認の海上人工島として太平洋側の日本の領海に建設することで先住民と日本人の間の友好関係の構築を目指すことなどなどである。


こうして誕生したのが後に日本の本格的な変革の象徴と呼ばれることになる海上統合学園島「オオナムチ」であった。ハヤト、エミシ、クマソの三種族の先住民、そして彼らが言う所のヤマト族、つまり現日本人の子弟たちは中途半端な年齢で入ることによる混乱を避けるために幼児の段階からこの島で親たちと暮らしていき、すくすくと成長していくことになったのである。こうしてさらに時間は進んでいき、やがて時代は新たな世代の活躍の時代へと入っていた。オオナムチが建造されてから十数年、時代は少年から青年への間の年齢に差し掛かった彼らのものとなっていたのである。


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