小説「鎗ヶ崎の交差点」あとがき 届くことのない君への手紙
元気でいるのかな。不思議なもので、こんなにも近くに住んでいるのに僕らはすれ違うこともないね。思い起こせば、十数年前に別れた後も僕らは近くに住んでいたのに会うことはなかった。そう考えると、僕らの別れは必然だったような気もする。他人同士の僕らが十年間に二度も出会えたことは気まぐれな神様の悪戯だったのだろうと。
だけど、そんな神様の悪戯だったから、僕らが別れを迎えた訳ではないのもわかっている。僕は自分の未熟さで君を幻滅させてしまった。君が僕との将来を見てくれていた瞬間があったのも知っているし、忙しい中で必死に時間を作ってくれていたのも知っている。そして、何より心太に会わせてくれたことが君の僕への想いの証明だったことにも。それなのに、僕は全てを台無しにしてしまった。そして、君に辛い想いをたくさんさせてしまった。
優しい君は、僕に合わせようとしてくれていたし、最後は、直接的な言葉ではなくて態度や行動で僕に終わりを気づかせようとしてくれていたよね。なのに僕はそんなサインを見て見ないふりをして、最後には君が言いたくなかった言葉を言わせてしまった。
今でも僕は後悔に苛まれているし、できれば君に会って謝りたいと思う。でも、君がそんなことを望んでいないのはわかっている。だとしたら、僕は君の幸せを祈って・・・でも、僕にはまだそんなことはできない。僕はまた、神様が気まぐれな悪戯をしてくれることを期待してしまっているから。君のあの美しい笑顔に出会える日を待ってしまっているから。
さようなら、とも、幸せに、とも言えないなんて本当にどうしようもない男だよね。でも、たった一言だけ言える言葉がある。君という人がこの世に生まれてきてくれたことに、気まぐれだとしてもそんな君に合わせてくれた神様に、そして誰よりも愛する君に。ありがとう。
君に出会えたから今の僕がある。君の人生の中で、僕はただの通りすがりの男だったとしても、僕にとってあなたは、運命の人でした。




