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兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第三章 誰よりも楽しみたいと思うから
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三話 思惑を巡らせる者

 

「──それでっ!私はどの迷宮に行けますかっ!?」


 机から身を乗り出してテネラは問う。あまりの勢いに顔を仰け反らせるトーレであったが、犬を落ち着かせるように手の平で頭を押さえ付けて椅子に座らせた。


「現在、テネラさんは十ツ星です。ですので利用出来る迷宮は三つ。西部の森にある“妖精の迷宮”、北西部の岩場にある“鉱石の迷宮”、そして東部の平原にある“狼の迷宮”です」


 懐からこの街周辺の地図を出しながら説明をする姿は、用意周到と言わざるを得ない。一つ一つ指を指しながら説明をする姿は、さながらデキる女性社長にネキロムは見えた。


「まず出現する魔物ですが、迷宮に与えられた名前の系統の魔物が現れます。もっと詳細な情報が欲しければ二階の図書室をご利用下さい」


「ふんふん」


「そして階層は“妖精”と“狼”が地下五階、“鉱石”が地下六階までとなっております。これも詳細な地図等は二階の図書室に保管してありますので、ご利用されるとよろしいでしょう」


 図書室を連呼するあたり、自分で調べようとする力を身に付けて欲しいのだろうとネキロムは予想する。情報は何をするにおいても一番重要な部分だ。そこを疎かにする者は、何をやっても失敗するに決まっている。

 そこをテネラも分かっているのか、トーレに質問を投げかける。


「トーレさんはどの迷宮に行った方がいいと思う?」


「そうですね……、私はテネラさんの実力をまだ知らないので何とも言えないのですが、この中で難易度が一番低いと言えば“妖精の迷宮”ですね。他二つの迷宮と比べたら、そこまで厄介な魔物はいません。逆に“狼の迷宮”は初心者ならば万全で挑まないと、厳しいと言えるでしょう。最後に“鉱石の迷宮”ですが、ここはお金に困っているのであればオススメですね。採掘道具を持っていかないといけませんが鉱石が溢れる迷宮ですので、持ち帰って来る事が出来ればそれなりのお金になります。たまに宝石もとれるらしいですよ」


「う〜ん……」


 しかし情報を仕入れる度に、どの迷宮もテネラには魅力的に聞こえてしまう。そんな場合は相談するのが昔からの決まり事である。


「……ねぇ──」


『ああ、言葉にするな。心ん中で言いたい事を思え。それだけで充分だ』


『む、こういう事?』


『そーいう事。で、どーせどれに行くか迷うんだろ?』


『うん、ネキロムならどこに最初に行く?』


 問われてネキロムは思考を巡らせる。現在の時刻は真昼時。テネラに武器は無く、そしてネキロム自身は一ヶ月だけのの活動期間。それらを考慮してネキロムは一つの選択へと辿り着く。


『──よし、こう答えとけ』


 誰にも悟られぬ秘密の会話を終えたテネラは、ネキロムの相談通りの答えをトーレへと伝えた。


「じゃあ“妖精の迷宮”に行ってみようと思います」


「そうですか。それでしたら私の方で“妖精の迷宮”用の依頼を見繕っておきますね。それまでに二階で色々と調べておくと良いでしょう」


 あらか様に安心したような顔をしたトーレは、席を外すと受付の方へと戻ってしまった。それを見送ったテネラも、トーレの姿が見えなくなるとネキロムを抱き抱えて二階へと向かう。


「ね、ね。なんで“妖精”の方にしたの?」


『ふっふっふ、大人というのは言う事をしっかりと聞く子供がカワイイもんさ。現にトーレの表情も、ちょっとは優しくなってただろ』


「そーだね、いつもアレがいいよね」


 そんな話をしているうちに、二階の図書室へはすぐに着いてしまう。


「よし!じゃあ妖精の魔物図鑑と、迷宮の地図を探さないとね!」


『待った待った。他にも“狼”と“鉱石”の方も探しとけよ』


「え?」


 首を傾げるテネラとは対称的に、ネキロムはヤレヤレと首を振った。


『おいおい、さっき自分で言ったじゃないか。“妖精の迷宮”に行く、って』


「うん」


『しかーし!“鉱石”と“狼”の方には行かないとは言っていない!』


「おお!?」


 保護者のような役割を果たしているトーレには良い顔を見せつける。しかしその裏ではやんちゃな火遊びをする悪ガキ共が誕生していた。


『つまり!俺達は今日中に全部の迷宮を探索してくるのだァ!』


「いえーい!」


 最初は探索者なぞやる気の一欠片も無かったネキロムであったが、説明を聞いたり読んだりしている内に好奇心がムクムクと湧いて出てきてしまった。そうなってしまえば狡賢い計算は早い。

 他者への評価は上げながら、次の段階へと進む計画は着実に進められていた。


 そして本や地図を読み漁りながらも、ネキロムは現状に付いてテネラへと説明をした。


『俺達は初心者だ。しかし武器もまともに振るえない初心者では無い。特に俺はつい最近、不本意だが迷宮に潜っていた』


「そーなの?」


『ああ、蟻の魔物が沢山いた。えーと、“蟻巣の迷宮”だったかな。あ、ほれほれ、この迷宮だ』


 広げていた本の名前は〝迷宮の位置 〜トファース周辺〜〟。その兎の小さな前脚の先には、山岳部の方に名前と共に両刃の斧の印があった。


『うわ、七ツ星って嘘だろ?あのアリジゴクはそんな強さじゃあないだろ絶対……』


 ネキロムは知る術が無かったが、蟻獅子ミルメコレオは迷宮の外から来た魔物、いわゆる外来種であった。本来ならば広大な階層と迷路のように入り組んだ通路のせいで、七ツ星認定されている迷宮である。

 それはさておき、“蟻巣”が七ツ星であるなら十ツ星である“妖精”達はそれほどの難易度では無いとネキロムは改めて思う。


『まあ、この話は置いといて。十ツ星で我慢する為に俺達は探索者になりに来た訳じゃない。もっと上を目指していこうじゃないか』


「うんうん!」


『まず始めの目標は一週間で九ツ星に昇級しようじゃないか』


 そうして迷宮の知識を漁りながらも悪巧みを企み合う姿は、誰にも見られずにひっそりと行われていた。




 △▼△▼△▼△▼△


「──それでは、お気を付けて頑張って来てください。命あっての未来、未来あっての報酬ですから」


「はーい」


 堅苦しい挨拶の中にも心配してくれる優しさを交えながら見送ってくれるトーレに、テネラは手を振って組合を出た。

 当然の如くネキロムは頭の上に乗って楽をしているが、周囲の人々は可愛らしいものを見たと微笑むばかり。

 そんな視線を受けながらも、テネラは西へと向かって小走りに進んでいく。


『とりあえず今日は全部試しだ。俺達の強さ、迷宮の難易度、昇級までの道のり。これらは全て今の所情報による憶測でしかない。それを確認するためにも今日は捨て石だな』


「なるほどね〜」


 分かっているのかそうでないのか、ふわふわとした返事をするテネラをネキロムは改めて思う。

 認識票を作成する時に記入したテネラの個人情報。その中にはラエドル王国という言葉があったが、もしかして家出でもしたのだろうかと予想する。

 市民としては裕福過ぎる装い。勉強や習い事が出来る家庭環境。どことなく匂わせてくる証拠が色々あるが、ネキロムにとってはやはりどうでもいい事なので考えるのは止めた。それよりも今現在で重要な事を思い付いたので、頭の上からテネラに進言しておく。


『あ、俺回復魔法は使えねーから道中で回復薬をちゃんと買っとけよ』


「え?わたしお金ないよ」


『は?』


「さっき斧買おうとしてお金足りなかったって言ったでしょ。ほら」


 そう言って服のポケットから取り出したのは、銅貨一枚だけであった。


『は、はああああぁぁッッ!!?』


 値段にして100オル。駄菓子でも買いに行くかのように探索者となったテネラの行動力に対して、さっそくつまづきそうになるネキロムだった。




 ──結局、ネキロム秘蔵の貯金から代金を捻り出して、計三本の回復薬を道中の店で購入した。

 その後は地図を頼りに西部の森へと潜り込み、“妖精の迷宮”の入り口と思わしき場所へと辿り着く。


「ここ……?」


『っぽいな』


 長い年月を過ごしたであろう大樹の根が、大きく湾曲している場所に迷宮はあった。

 地下へと続いている石階段に、人工的な石積みの壁。これが迷宮と知らなければ、苔むした雰囲気もあって自然に飲み込まれた遺跡の一部とでもネキロムは感じていただろう。


「でも他の人がいないね」


『まー、ここは初心者用という事らしいし。他の十ツ星の奴らも、依頼とかが無ければ稼ぎのある“鉱石”や上を目指すために“狼”に挑んでるんだろ』


 好き好んで探索者になった人間が、ずっと初心者用に挑むというのは、もはや奇行の域と言える。そのためにこの“妖精の迷宮”がひっそりと静まり返っていても、特に不思議に思うことは無かった。


「ふぅん、落ち着いててイイ場所なのにね」


『そんなことより、受けた依頼は二つあったよな?』


「うん、えっとね。……〔風乗リノ凶蝶(フォレッティ)〕の羽十枚と、妖精ピクシーの粉五匹分だね」


『うっし、じゃあ行くか』


 本日のノルマを確認したネキロムは迷宮へと下る階段へと歩んでいった。それに続きテネラも確認していた依頼書をくしゃりとポケットに押し込んで、ネキロムの後へと続いていく。




 “妖精の迷宮 第一層”


 そこは地上と変わらぬ森であった。草木が生い茂げ、土の上に落ち葉が積み重なり漂ってくる腐葉の匂い。降り注ぐ光によって覗く木漏れ日など、それこそ地下とは思えないほどの光景であった。

 しかしやはり、この場所が地上の森とは違うと言える点が一つ。それは無造作に生えている発光したキノコだった。白や茶、あるいは赤や青といったキノコがほんのりと発光しているのである。

 そのキノコの中でも、最も目を惹いたのは天井の岩盤に生えている白いキノコ達であった。綺麗に環状に生えているキノコ達が光る事により、この階層を一つの部屋とみなして環型の蛍光灯のような役割を果たしていると、ネキロムは観察していて思った。


「幻想的だね」


『なんかちょっとジメジメしているけどな』


 少し前まで砂漠にいたせいなのか、ネキロムには余計に湿っぽく感じていた。それに綺麗だとはネキロムも思うが、こうも菌類が多く存在していると呼吸もまるでしにくいように感じてしまう。


『誰もいない理由が分かった気がする……』


「あ!妖精ピクシーだ!」


 気分が減退しているネキロムは他所に、テネラは迷宮に入って早々に討伐対象を見つける。

 伸ばした指先には、緑色に発光する人型がフヨフヨと漂っているのがネキロムにも分かる。通った軌跡には残り香のように残光が線を引いているが、テネラの大きな声が轟いても妖精ピクシーはのんびりと漂っていた。


『まだこっちに気付いていないな。よしテネラ。コイツを使え《鉄斧ディダソクファ》』


 ネキロムは大地魔法で武器を作り出す。まさかコオドに急かされて考えた魔法が、こんなところで活かされるとはネキロムも思ってはいなかった。

 今回も斧の事など一つも詳しくもないネキロムが作製した“なんちゃって手斧”だが、子供のテネラにはこれでも充分な代物に見えていた。


「おー!斧だ、すげー!」


『ふふん、まあ本物までの急拵えだ』


「えー、もう買わなくてもよくなーい?」


『ダーメ。見た目は斧だけど、なんか魔法耐性が適応されるから普通の武器もちゃんと買え。それよりもほら、さっさと妖精ピクシー倒してこい』


「はーい」


 渋るテネラを説き伏せて、ネキロムはテネラを妖精ピクシーへと向かわせる。これはテネラの実力を見る選択でもあったが、単にサボれるなら出来るだけサボりたいネキロムの怠け癖も混じっていた。

 探索者として楽しみたいテネラと自身は楽をして為すべき事を成し遂げたいネキロム。妙なベストマッチが今此処に誕生していたが、それを理解しているのは現行犯のネキロムだけである。


「──むんっ!」


 右手に手斧を持ったテネラが、妖精ピクシーを目掛けて走り出す。距離にして五十メートル程空いてあった空間も、今現在もぐんぐんと縮まっているのに対して、妖精ピクシーはいまだに漂ったままだった。


「──!!」


「フンッ!」


 ようやっと近付いてくるテネラに気付き、発光色が濃い緑に変わったかと思えばテネラの上からの一振りによって呆気なく真っ二つとなってしまった。


『よ、よわ…………』


 あまりの呆気なさにネキロムは言葉を漏らしてしまう。これではテネラが強いのか、妖精ピクシーが弱過ぎるのか全く分からなかった。


「いえーい」


 初勝利で浮かれているテネラを見て、ネキロムはテネラが弱いよりはマシだと結果を妥協する。念の為発動準備していた魔法を消して、ネキロムはテネラへと近付いていった。


「どうお?強いでしょ」


『つよいつよい。で、妖精ピクシーの粉は?』


「ん、ここ」


 テネラが指差す場所には、小さな山盛りとなっていた緑色の粉が存在していた。

 妖精系統の魔物は生命活動が停止すると、粉末状の死体となる。これが依頼書の内容にあった妖精ピクシーの粉そのものである。


『よーし、瓶に詰めるぞー』


 そういってネキロムが《収納ウース》から適当な小瓶を取り出して、粉を入れ始めた。テネラも倣って山積みになっている粉を掬い入れていたが、どうにも億劫な作業であった。

 五匹分必要なのに、地面に落ちてしまえば少しばかりは葉っぱや土に付着して掬えなくなってしまう。そうなると五匹では無く六匹討伐しなくてはいけない状況に陥ってしまう為、テネラでさえもこの“妖精の迷宮”に人がいないのは納得がいってしまう。


「うわ……手が粉まみれ……」


『うおっ!?人の頭の上で払うな!』


 それにしっかりと採取の準備をしておかないと、このように汚れてしまうのも悪印象の一つだろう。

 しかし今さら道具を準備しに街へ戻るのも、時間を無駄にしてしまう。仕方なくネキロム達はそのまま森の奥へと入っていき、妖精ピクシーを倒していった。



『─む』


「あ、えっと……そう!〔唸リ守ル緑妖犬(クー・シー)〕!」


 妖精ピクシーを四体程見つけて倒していた所、今度は妖精ピクシーの方からお供を連れてやって来た。

 牛並みに大きい暗緑色の身体。鞭のように長い丸まった尾。そして遠くにまで響くような低い唸り声。


「Grrrrrrrr……」


「──」

「──!」


 アイツだ、アイツが俺達の仲間をやったんだ!

 ──そんな言葉が聞こえてきそうな身振り手振りで、妖精ピクシーが怒り狂っているのをネキロムは感じる。


『よし、次の相手は緑妖犬クー・シーだ。魔法も使って見ろ。妖精ピクシー二体は俺が受け持つ』


「うん!」


 ちゃっかりと楽な相手を引き受けるネキロムだが、テネラはそんな事を気にするよりやる気が滾っていた。

 まずは先制攻撃。ネキロムが疾風魔法を放つ。


『《貫く風(トネパエ)》』


 不可視の風の弾丸が、妖精ピクシーの腹に大きな風穴を開ける。呆気なく倒された二体の妖精ピクシーは、大地に伏して粉末状の姿へと変わった。


『いっつもこんな楽な敵だといいんだけどなぁ〜』


 これまでの歴戦の魔物達に思いを馳せながら、すぐにネキロムの戦闘は終わった。光輝ベンヌと比べられる妖精ピクシーが可哀想でならないが、ネキロムが遭遇する魔物のレベルが本人のレベルと合って無さすぎるだけである。


「grra!ggrrraa!!」


 気付かぬ間に妖精ピクシーを倒された事に怒った緑妖犬クー・シーは、唸りながらネキロム達へと向かった。

 その行動に、準備を万全にしていたテネラは相手に向かって手を翳す。


「《火球ファイアボール》!」


 魔法の基本中の基本。その属性を球状にして前方へと進ませる。その魔法を見てネキロムも昔懐かしさを覚えていた。

 真っ直ぐ飛んでいく火球と馬鹿正直に突っ込んでくる緑妖犬クー・シー。その結果はまさに火を見るより明らかで、緑妖犬クー・シーの顔面にあたり弾け燃えた。


「gyaun!?」


 しかし牛並みの体格を持つ緑妖犬クー・シーに、一発の火球では倒す程の威力は無かった。顔面を真っ黒にし、緑妖犬クー・シーの長い毛を焦がすには至ったが、それでも緑妖犬クー・シーはテネラへと噛み付かんばかりに突進を行う。


「《火球ファイアボール》!」


 一発で駄目なら二発。それは当然の行動であったが、緑妖犬クー・シーも馬鹿では無い。飛んで来るものが危険だと身を持って知れば、後は横に避けるだけ。躱された火球は地面を焦がす結果となって終わった。


「む!」


 躱されるとは思っていなかったテネラは、手斧をしっかりと握る。突進をしてくる緑妖犬クー・シーとテネラの距離は約十メートル。その体格差では突進を受ける事は無茶では無いかとネキロムは予想していたが、テネラにはテネラの考えがしっかりとあった。


「《閃光ズィルブ》!」


「gruu!?」


『ぎゃあーーー!!!目がぁぁあ!??』


 テネラ自身がまるで太陽のように光り輝く。その予期出来ぬ行動に、突進の目標として見つめていた緑妖犬クー・シーと、ただただ結末を見守っていた憐れな兎は強烈な光によって視界を潰された。


「guuuu……」


 前が見えなければ、相手に飛びかかることも出来ない。急速に勢いを殺した緑妖犬クー・シーは、そのまま立ち止まってしまい、その横には手斧を振りかざしたテネラが突っ立っていた。


「むんっ!」


 一発、二発、三発。テネラは緑妖犬クー・シーの首元へ手斧を振りかざす。

 致命傷を負った緑妖犬クー・シーは、そのまま地面へと倒れ伏せて動かなくなってしまった。


「いえーい」


『いっ、いえーいじゃねーよ!目潰しするなら俺にも何か言えよ!』


 未だに《閃光ズィルブ》の効果が残っているネキロムが、地面にのたうち回りながら苦情を申し立てる。


「ごめんごめん。咄嗟に思いついたから、ね?」


『咄嗟に思いついてもまず声を掛けろって。俺の能力で念じるだけでも分かるんだから。あ〜くそ、やっと見えるようになってきた……うわ』


 再び光を取り戻したネキロムが目にしたのは、惨殺された緑妖犬クー・シーである。もちろん犯人は、手に血濡れの斧を持った目の前の女探索者だ。


『はいほら、ボサっとしてないで毛皮剥いで』


「え〜ネキロム手伝って」


『目潰ししてくるからヤダ』


「むぅ……」


 渋々と倒れた緑妖犬クー・シーから毛皮を剥いだテネラとネキロムは、そのまま奥へと進んでいく。そして地図通りに下へと続く階段を見つけると、次の依頼をこなす為に第二層へと歩みを進めた。

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