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兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第一章 自分のことは自分だけが知っている
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十一話 溌剌たる家

※変更点


兎の魔法適性から回復の適性を削除

十子の牝狼(アセナ)から十子孕ム牝狼(アセナ)へと変更



 小鳥の囀りが聞こえる。

 太陽の日差しも暖かくこのままぼーっとしていた寝てしまうような心地良さだ。

 このまま寝ようかな、そんな気持ちが頭の中を過ぎるが、私は己の為にと気を引き締め直して、次の魔法書を手に取る。


 減っていく本の山から見えるのは、壁に掛けられている魔法陣の写しや、自分自身で作ってみた薬の余りが陳列している棚。

 それと……いびきをかいて、うつ伏せに気持ち良さそうに寝ている白い兎。


 三ヶ月程前に川の上流から白い何かが流れているのをたまたま気になって拾ってみたのがこいつだった。

 拾った当時は白い毛並みの兎なんてそうそうお目にかかれるものでもないから、洗って綺麗にして肉付きを良くしてから皮を剥ごうかと思っていたが……まさか喋るとは思わなかった。


 人間以外の動物が喋る、そんなことが今まで歴史上にあっただろうか。いや、もしかするとあったかも知れない。しかし、表沙汰に公表されていないのは今の世の中を見れば明らかだ。

 そこに私が喋る兎を公表すればエマ・ガーデニアの名は歴史上にずっと残り続けることになるだろう。

 ……まあ、本当は今研究している火炎魔法で名を残したかったが。


 兎が喋った時、私は驚きとは裏腹にそんな夢満ちた将来を抱き始めていた。

 ........だがそんな将来は私が望んでいたものとは違うとすぐに気が付いた。

 兎に魔法を教えていた時だ。言語を理解出来るならば魔法も使えるのでは、という疑問から兎に魔法行使の誘いを出してみたんだ。


 本来ならば、人間以外の動物や魔物といった知能無き獣たちには、魔法とは理解出来ずに使えないものと考えられているのが常識だ。

 魔物使いや調教師の奴らが飼っている魔物たちに教え込もうとした事例もあったらしいが、せいぜい感情や仕草を読み取って行動しているに過ぎない魔物たちが、覚えられるはずもなく失敗という結果で終わっている。


 だが。今、ここに私と対等に会話出来る程の知能を持った獣がここにいる。

 コイツならば適性さえあれば初めて人間以外に魔法を使える生物になるのでは?という考えが芽生えてしまった。


 私は兎に研究を一緒にしようと、嘘を吐いてまで魔法の行使を兎にさせようとしていた。急いで決めないとせっかくの機会を逃してしまうかもしれない。その時はそんな気持ちで一杯だったんだ。


 しかし兎は案外あっさりと応じてくれて(まあ本人?も使いたいと言っていたからどちらにとっても利があったから良かったけど)適性もちゃんとあってそのまま本番一発で魔法を行使するんだから、事が上手く進みすぎていて驚きを隠すのが精一杯だった。


 それから兎は自己鍛錬を時たま行っているようだった。

 そんな姿を見てふと思ったんだ。本当に世間に公表していいものかと。

 世間に知られると必ずと言っていいほど研究対象にされ、自由を奪われるだろう。

 兎だって自分自身で考えて動いたり喋ったりしている。人と比べて姿くらいしか変わっていないと言っても過言ではない。

 そこに私が兎の事を公表して、自由を奪うようなことをして何になるというのだ。

 他者の自由を奪ってまで名を残したいと思う程、私は畜生になった覚えは無い。


 そんなこんなでやはり私には火炎魔法しかないのだ。



 いや、火炎魔法〝が〟あるんだ。


 火炎魔法で名を残す、最初に戻っただけだ。

 兎の事はちょっとした不慮の出来事みたいなものだ。困ったり嘆いたりする必要は全くない。

 私の事は私がよく知っている。私には私にあった方法で名を残す。火炎魔法が使えた時から決めていた夢だ。



 ……それに私の事を兎は「師匠」と呼んで尊敬してくれている。

 私は火炎魔法を極めたいが為に学校を自主退学してこんな辺境の場所に住んでいる変わり者だ。

 弟子なんて一度も取ったことがないし、ましてや弟子入りに来るやつなんて一人もいなかった。

 だがこうして今、師匠と呼んでくれる奴がいる。


 尊敬されて嫌と言う奴なんて普通はいないだろう。

 私は師匠と呼ばれたとき、たまらなく嬉しかった。

 そして呼ばれるからにはちゃんと師匠としての役目を果たさなければならない。

 自分の弟子が成長していく姿をこの目で見届ける。

 それが「師匠」としての役目だと思っている。


『んーぅ、ニトオウモノハイットモエズ....』



 兎は支離滅裂な寝言をしている。どうせ夢の中でもよからぬ事をしているのだろう。


 まったく、悪戯せずに黙っていれば可愛げがあるというのに。


 私はそんなことを思いながら兎を優しく抱え込み、膝元まで持ってくる。

 温かく、そしてふわふわだ。


 やはり兎の国(ドナルエスネ)の住人となると野生の兎とは違い自身の毛並みにも気を使っていたりするのだろうか?


 そう考えているとどうしても兎の国(ドナルエスネ)に行きたくなってしまう。

 雲すら突き抜ける人工石の塔、電気で動く通信機器、山をも超える金属の自動人形に大地を駆け巡る八本脚の家!

 兎から聞いた話だけでもとてもワクワクしている。


 古代語も色々なところで使われているそうだ。それを学べば火炎魔法にだって応用出来る筈なのに...。


 だが兎は、残念ながら次元が違うかどうのこうので移動は出来ないと言っていた。


 時空魔法の研究自体が公にされてないから知識が余りなく、良くは理解は出来なかったがまあ、召致者の住んでる異世界みたいなものだと思うことにした。


 いや、兎は時空の適性があるから次元移動みたいなのを覚えれば行き来出来たり……?


 兎の国(ドナルエスネ)へ熱い想いを馳せているとバサバサっと羽ばたきの音が聞こえた。

 空いている窓の方へと目を向けると一羽の〔三脚巴ノ導烏(ヤタガラス)〕が入り込み私の目の前に止まる。


『ぐげへっ!』


 ああ、兎が導烏(ヤタガラス)に踏み潰されてしまった。

 それはそれとして、こうして〝烏の郵便〟が来たと言うことは手紙が来たという事だ。


『お、重いぃぃ!何事じゃぁあ!!』


 起きた兎が膝の暴れ始めたので私は早急に手紙を導烏(ヤタガラス)から受け取る。

 導烏(ヤタガラス)は手紙を受け取ったのを確認すると、クワァと鳴いて飛び去っていった。


『あーせっかく楽しく実験してたのに落石で死ぬとかないわぁ……。ん?手紙か?誰からだ?』


 兎は物珍しそうにこちらを見てくる。

 私もそういえばまだ差出人の名前を見ていなかったなと気付き、裏面を見てみるとそこにはよく知っている名前が書かれていた。


『どうした?顔が嬉しそうだぞ』

「ん?そうか?まあ、嬉しいといえば嬉しいな。懐かしい名前が書いてあったからな」

『おお、どんな奴だ?どんな奴だ?』


 兎が手紙の覗こうと私の体をよじ登ってくる。

 落ち着きないという言葉が今の兎にはとても似合っている。まるで小さい子供だ。


「あーもう!これは食べれないんだぞ!」

『知っとるわ!誰が手紙なんて食べるかい!』


 あーだこーだと兎と言い合いをする。


 最近まで静かだったこの家が兎一羽で随分と煩くなったものだ。

 静かにしたいからこんな辺境の森に住んでいたのに大変なものを拾ってしまった。




 ……だが、この煩さは嫌いじゃない。






評価、ブクマ、感想宜しくお願いしますっ!


最近暖かくてついつい寝過ぎてしまう…

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