零話 プロローグ
初投稿です。つまり処女作?というやつです。
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夜の国道を一つの白いセダン車が駆け抜けて行く。セダン車の周囲には他の車は見当たらず、国道を我が物顔で走る姿はまるで天上天下唯我独尊と語らんばかりの白き獅子のようだった。
そのセダン車の中には、いかにも仕事帰りというスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて運転している男が1人。
(明日の休日何しようかな...)
運転している男は明日の休日のことを考えていた。
何を呑気に、とこれから起こる事態を知っていればそんな事を思い考えたかもしれないが、私たちが未来予知なんていう大層な能力を持っているはずもなく仕方の無いことであった。
しばらく走行していると道路の脇、歩道に白い何かがあることに男は気付く。
この道はいつも通勤に使用している国道で七年間伊達に走ってはいない。変化があればすぐに気が付く。
(なんだ…あれ...)
と、男が思いながらその白い何かと距離が段々と縮まっていくにつれ、それが人間、しかもまだ高校生くらいの少女であると分かる。
普通であれば、こんな夜遅くに女の子一人で危ないんじゃないか、と思うかもしれないが、立っている少女は普通とは言い難い雰囲気を放っており、心配という感情はすぐに消え失せるだろう。
今の季節は十一月、だというのに少女が着ている服は白いワンピースだけ。見た限りでは他には何も無く、防寒具のようなものも何も着用していない。また、すれ違いざまに顔も見えたが何処か意識がはっきりしていないような、ボーッと何かを見つめているようだった。
そんな少女を見て、男は
(こんな寒い日にワンピ一枚とかアホかよ。ま、馬鹿には関わらんのが一番だな)
と、知ったこっちゃないという所存だった 。
どうでもいい少女を過ぎ去るとしばらくして、携帯のアプリ『LIFE』のメッセージの着信音が鳴る。
信号がちょうど赤になり、メッセージを確認してみると男の知り合いである祐樹からの着信であった。
『明日休みだしこれからどっか飲みに行かんww?』
と、飲みの誘いで男は
「はぁ?俺酒飲めねーって知ってんだろ…ったく」
と、誘いに対して愚痴をこぼしながらも口元は嬉しそうに笑っていた。
『いいぜ。じゃあ、いつもの店でな!』
と返信を返し、携帯を閉じる男。
ちょうど、信号も青になり車を発信させようとアクセルを踏み込んだ時、
「あなたが白居春永さんですか?」
と誰もいないはずの後部座席から女性の声が聞こえた。
(えっ?えっ?えっ?えっ?)
男はいきなり自分以外の声が聞こえたことに恐怖しながらも、恐る恐るバックミラーで後部座席を確認する。
すると、先程どうでもいいと無視した少女が後ろに居座っていた。
(ううぇぇぇ!!?なんでいんの!?お化け!?無理無理無理無理無理無理!!)
表情には出さないものの心の中では非常に焦っている男。
「聞いていますか?あなたが、白居春永さんですか?」
と謎の少女がもう一度聞き返して来るも、男は
(無視!幽霊と喋るなんて正気じゃねぇって!!)
と、無視を決め込む。
静寂だけがただただ響き、バックミラーで謎少女もとい、幽霊の表情を伺うもとても苛立ちを隠しきれていなく、額に皺を寄せて難しい表情をしている。
するといきなり、幽霊は後部座席から身を乗り出し、ハンドルを思いっきり切り出そうとする。
「あっ!ちょ!止めろ!馬鹿!くっ、このクソ幽霊が!くっそ、さっさと成仏しろ!」
お化けや幽霊と言いながらも、その幽霊の身体に触れているという事実にも気付かずにハンドルと幽霊を遠ざけようとする男。
しかし抵抗も虚しく、交差点でちょうどよく対向車線に入ってしまい、向かいの車と鉢合わせてしまう。
これからどうなるのか、簡単に予想出来た男は諦めの思いを心の中に浮かべながら、これから襲い掛かってくる痛みと恐怖から目を逸らすために瞼をゆっくりと閉じた。
――――が、一向に全身に襲い掛かってくるはずの痛みは来なかった。男は不思議に思い、うっすらと目を開けると、そこは自分が長年乗っていたセダン車の運転席ではなく、裁判所の法廷によく似た場所に立っていた。
異様な状況に男が戸惑っていると奥の席から声がかかる。
「まったく、さっさと返事していればこんな強硬手段には出なかったのに」
と声の方に視線を向けると、そこには先程の幽霊が足を組みながら椅子に座っていた。
どうしようか迷い、言葉に詰まっていると、
「もう一度聞くけど、あんたが白居春永、でしょ?」
と幽霊に聞かれる。
「……そうですが」
男は車内と同じように黙っていようかとも思ったが、今はこの状況を把握しておきたいために反感を買わないよう丁寧に素直に質問に答える。
「やっぱりね、私の目に狂いはないわ!」
と誇らしげにする幽霊。
「(まずはこの場所のことより、相手の目的か……)それで、可愛らしい幽霊さんはなぜ、俺のことを探しておられたのですか?」
「誰が幽霊よ!私は天使!流転の神ドゥニザール様の使いの天使、ネイロよ!目ぇ、腐ってんじゃないの?だけど、まあ、可愛いって感じてるのは殊勝じゃない?」
幽霊と言った時は怒ってはいたものの、可愛いという言葉にすぐに機嫌が良くなるネイロ。
また、車内の時は確かに無かったはずなのだが、頭上に輪っかと背中に一対の翼が、ネイロにくっついていることが分かる。
「(バァーカ!お世辞に決まってんだろ!誰が事故を自発的に起こすようなキチ〇イ女可愛いと思うんだよ!)すみません、天使のネイロさん。それでもう一度お伺いしますが、どうして俺をお探しで?」
「あっ、そう!そのことであんたをここに連れて来たんだから!」
春永の質問により、本来の目的を思い出したネイロ。何かを探し出すように机の引き出しをごそごそと探る。
「あった!これこれ。えーっと、白居春永、あんたは【世界】から咎人として認定されたから、罪を償うために罰を受けなければならないわ」
引き出しから取り出した書類を見て春永に告げるネイロ。
「(は?んなの言われてわかるかよ、ちゃんと説明しろボケナス)すみません、世界から咎人として認定された、と言われましても何が何だか分からないのですが」
「んー?しょうがないわね〜。えーっと、その、あーと、あれよ。【世界】にとってー、あんたが邪魔?っぽい感じだから消しちゃおう見たいな感じよ。多分。」
「はぁ…(てめぇも全然理解してねぇんじゃねえかッ!)」
あまりの答えに溜息みたいな返事しか返せなかった春永。その姿をネイロは諦めがついたと勘違いしてしまう。
「ま、そういう訳だから大人しく罰を「ちょっと待って下さい!(早まるなアホ!)」」
「本当に俺が罰を受けるんですか?」
「そうよ。何よ、いきなり」
「何かの手違いじゃあないんですか?自分自身で言うのも何だと思いますけど、俺は特に悪いことはしていませんよ?今まで普通に生活してきただけですし法を犯して捕まったこともありません。罰を受ける理由がありません!(そんな、はいそうですかと簡単に受け入れる訳ねーだろ。ぜってぇ、難癖つけて逃れてやる)」
「そんな事言われたって知らないわよ。あんたが咎人ってことは【世界】が決めたことなんだから!そんなに疑うならこれ見なさいよ!」
と持っている書類を春永に突き付けるネイロ。
(はッ!警戒心の無い奴め。まあいざとなったらこの紙をバラバラにしてでも逃げてやる……。しかし、外国人の名前ばっかだな。名前の後ろにあるのは国名と都市や町の名前?よくもまあ、こんだけの情報で俺を探したこって…。いや、俺は冤罪だけど)
名前と出身地、その二つだけで春永を探し当てたことに普通は尊敬の念を抱くものだが、春永には尊敬より呆れの感情が心を支配していた。
(あっ、あー、あってしもうたよ白居春永。てか、日本人俺だけじゃん!はー、ほんまアホくさ。最悪の人生でしたわ)
「どう?ちゃんとあんたの名前あるでしょ?」
自分の名前が有ってしまったことに全てが馬鹿馬鹿しくなった春永に対し、何故か誇らしげなネイロ。
(うっせ、クソガキが!あーもう、ほんま...うん?)
ネイロに苛立ちながらも最後の確認のためにチラリと紙を見て春永は重大なことに気が付く。
「...おい、ネイロ。俺の名前を言ってみろよ。」
「へ?な、何よいきなり」
「いいから言え」
「し、白居春永でしょ!」
「ああ、そうだ。俺は白居春永だ。だけどな…」
春永は今まで我慢してきた感情を抑えきれずに叫ぶ。
「ここに書いてあるのは白居春永じゃなくて、臼居舂永だっ!!このマヌケッッ!!」
「え、えええええええ!!?」
よく見るとネイロから渡された紙に書かれていた名前は『白居春永』ではなく『臼居舂永』と書かれていたのだった。
「ど、どう違うのよ??」
「白と春の字の中心のこの部分が繋がってないだろ!」
「あー、ほんとだ。言われて見れば」
「あー、ほんとだ、じゃねえよ!どうすんだよ、この状況!お前俺のこと罰するって言ってたけどまったくの人違いじゃねぇか!」
名前を見つけた時はしゃーなしと思いながらも、なんとか罰を回避しようと思っていた春永だが、完全なる冤罪と分かってからは本心を露にしネイロに対してまくし立てる。
「え、あ、うぁ」
「それにお前ここに来る前に俺の車事故らせようとしたよな!?あれはどーなってんだよ?」
「えと、その、多分、普通に事故となってぐちゃぐちゃかと....」
「はああああ!?まだあれ普通に乗れるんだけど!?何?お前が元通りにしてくれんの?天使とかいう幻想的存在を自称してるくらいだから直せるよね?時間とか巻き戻したりして直してくれるんだよねぇ!?」
「....ぁの、すぃません...。時間ぉ....巻き戻すことは...出来ま...ぇん...。直すのも...ぁたしには...ちょっと...むり....かと........」
俯きか細い声で答えるネイロに対し春永は呆れと侮蔑が入り交じったため息をつく。
「(おっと、やべやべ。冷静に冷静に…)じゃあさ、お前の主様のドゥニザール?様だっけ?その人に会わせてよ」
「ドゥニザール様に…ですか....?」
グズグズと鼻を鳴らしながらも顔を上げた答えるネイロ。
「そう、そのドゥニザール様。神様何だからなんとかなるでしょ?(あー勝ったわこれ)」
自分よりも小さい少女を泣かしておきながら何が勝ったのか。普通に下衆な思考をするこの男にはやはり罰を下さねばならないだろう。
「そ、そうですね。ドゥニザール様ならなんとか...」
と言い切らないうちにネイロにとある考えが浮かんでしまう。
(あれ?ドゥニザール様になんとかしてもらうということは何故こうなったのか説明しなくちゃならない?説明すると私が悪かったことがバレる?バレたらドゥニザール様に嫌われる!?嫌われたらドゥニザール様の元ににいられない!!???)
「ん?どうした。早く案内してくれよ(ああぁ、これでやっと帰れるー)」
妄想が暴走し、みるみる顔が青ざめていくネイロとネイロの心情なんて一切分かっていない春永はにこにこな笑顔でネイロに話しかける。
「....めです」
「ん?」
「あなたとドゥニザール様が会うことは駄目です!」
「は?(何言ってんのコイツ?)」
突然の拒否に春永がぽかんとしているとネイロが木製の小槌で机の上を叩き出す。
すると今まで閉じていた、この部屋の出入口と思われる後ろの扉が開き、春永を吸い込もうと吸引してくる。
「おわっ!?おい、ネイロ!これを止めろ!」
不意を付かれながらも、なんとか机の端を掴み耐え、ネイロに命令する春永。
しかし、
「嫌!さっさと呑まれて!」
とあっさりと拒否され、机の端を掴んでいる春永の手を剥がそうとする始末。
(くっそ、こうなったら…)
剥がしに来るネイロの手に対し、タイミングを合わせネイロの手首を掴む春永。
「んなっ!」
驚くネイロに対しにやりと嗤い歪む春永の顔。
「アッハッハッハハハハ!!お前も一緒に来るんだよぉぉ!!こうすれば扉を閉めざるを得まい!」
体勢を崩し前屈みになるネイロに追い打ちをかける様に頭の上にある輪にも手をかける春永。
「イヤあああ!離してえええ!!」
「ハハハハハハハハハハハ!」
抵抗するネイロと気味悪く笑う春永。
「は・な・し・て・!」
「う゛ぉえ゛ぇ!」
延々と続くかと思われた両者の抵抗だが、春永にとっては悪く、ネイロにとっては運が良く、蹴りがちょうど春永の鳩尾に綺麗に入り、ネイロの腕を掴んでいた春永の腕の力が緩む。
今がチャンスとばかりに残りの片腕を輪から遠ざけようと両腕で春永の頭を掴み押し出すネイロ。
するとブチリという嫌な音と共に輪を掴んだ春永が遠ざかり、扉の中へと吸い込まれていく。
「ちくしょおおお!てめぇ、覚えてろよおおぉお!」
悪役のようなセリフを残しながら春永は闇の底へと消えていった。
春永が消えたのを確認すると、ネイロはどこからともなく空中に青白いキーボードらしきものを浮かせボタンを押していく。
「えっと、えーっと、確かドゥニザール様はこことここ...?だったかな?あれ、どれだっけ…」
またもやあやふやな記憶で事を進めるネイロ。すると、
「おぉい、ネイロやー」
「はっ、はいっ!!」
初老の男性のような声が部屋中に響き渡る。
「おお、そこにおったのか。そんなところで何をしておるのだ?」
「いえっ!特に何も!強いていえば掃除をしていただけです!ドゥニザール様!」
「おお、それは感心だな。ところでネイロよ。少しお前さんに用があるのだがこちらへ来てはもらえんか?」
「は、はいっ!わかりました!すぐ向かいますので少しお待ち下さい!」
「ゆっくりでいいからのー」
その言葉を最後にドゥニザールの声は聞こえなくなる。
「早くドゥニザール様の所に行かなくちゃ!...あ、でもこれどうしよう…」
操作途中のままだった青白いキーボードらしきものを見つめてつぶやくネイロ。
「でも、ドゥニザール様が第一だし...よし!」
最後に1回だけネイロはボタンを押すとそのまま閉じ、ドゥニザールの元へと向かう準備をする。
この適当な行動がのちに数多の場所で、様々な出来事を起こす元凶になるとは、ドゥニザールに呼ばれて浮かれているネイロには分かるはずもなかった。
ここまでお読み下さって有難うございます。
本作品は、人外転生をもっと読みたいと思って書き始めた作品なのでぶっちゃけ書き溜めとか無いです。
ですので、これから仕事の合間にちょこちょこ書いていくので投稿頻度は週一程度をご了承ください。
良ければブクマ、評価、感想を宜しくお願いします。