~ 許されない事 ~
其から 2週間程 過ぎて …
同じ 裏野ハイツの201号室に住む 三上さんと話しをするようになって
「お願いだから 手伝ってあげてぇ~」
と頼まれ 駅前にある マスター1人の 小さな 喫茶店を手伝う事にした
遊んでいるよりは 少し良いかと思って …
働き始めて 1週間が過ぎた頃
喫茶店の 窓を拭いていたら
ヨレヨレのスーツを着て 髪はボサボサ …
顔は険しく 目だけをギョロギョロと動かし誰かを探しているような
別れた夫を見かけた …
別れた夫とは 別の街で暮らしていたし
転勤等も無い筈なのに 変だなと思ったけれど
声を掛ける必要もないし
私は 隠れるように 店内へと戻った
其の日の 夕方
喫茶店の仕事を終え スーパーで買い物をして 自宅へ戻ると
宅配便の配達員さんが 私宛の小包を届けに来た
送り主は 元夫 …
けれど 元夫の文字とは まるで違って
左手で書いたのかしら と思う程に 文字がギザギザで
第一 元夫は 私の住まいは知らない筈だわ
募る不安と 箱の中を確めたいと言う好奇心と
迷ったけれど 私は 思いきって 箱を開けてみた
バ リ バ リ ッ!
小包を開くと
「ひぃっ!嫌っ !!」
あの人形 千津ちゃん と
血液で書かれたような手紙が入っていた
私は 震えながら 恐る恐る 気味の悪い手紙を読み始めた …
許して下さい…
妊娠も嘘です …
貞雄さんとも もう会う事は 御座いません…
ですから どうか 祟らないで下さい …
許して下さい …許して下さい… 許して下さい…
許して下さい の文字は この他に 便箋三枚にビッシリと書かれてあり
最後に 元夫の浮気相手
佐藤 恵美 と書かれていた …
手紙の下には
輪ゴムで括られた 長い髪の毛の束が入っていた …
怖いけれど 驚きもしたけれど
其よりも 悲しかった …
私は 振り返り 千津ちゃんに
「千津ちゃんなのね … こんな事をして … 許されない事よ!どうして! どうして こんな事したの!!」
千津ちゃん は ニタァ~っと笑い
テーブルの上に置いた 箱から 一人で立ち上がると
「オ 前 モ 死 ネ バ イ イ … 」
風も無いのに 千津の髪は逆立ち 炎のようにユラユラと靡いた
ゾクゾク と 私の背中に寒気が走り
脈拍が バクバクと 加速した …
ピ ン ポ ン ! ピ ン ポ ン !!
ドン ド ンド ン! ド ン ド ン ドンドン !!
誰かが ドアを叩いているけれど
金縛りにあっているのか
私の躰は 動かなかった …




