04
歩くことができる。走ることができる。
考えることも、笑い、悲しむことも。
「奇跡的だとも思うよ。あんな状態から、四年でここまで回復するなんてね」
これも、〈ドラゴン・フライ〉の成せる業か。と綾乃は呟く。自嘲気味に。嘆息交じりに。
「まさかここまでの完成度とは……ドラゴン・フライ。これが、最終兵器が最終兵器たる所以というやつか。いやはや、まったくどうして。私のところに辿り着くなんてねぇ。これも因果かね」
ドラゴン・フライ。
かつて、そう呼ばれていた人間がいた。
正確には、プロジェクト・ドラゴン・フライ。
「蒼衣……すまないね」
「? なぜ綾乃さんが謝る」
「背負わせてしまったこと。お前さんに背負わせてしまったこと。……前にも話したね。私は昔、プロジェクトの技術者だった」
言い訳になってしまうけれど。と綾乃は続ける。
「今がこんなじゃなければ、お前さんは、こんなに辛い思いなんてしなかったんだ。たぶん、おそらく、もしかしたら、もっと違う人生を送れていたかもしれなかったんだ」
私は。
綾乃は言う。
「蒼衣。お前さんの人生を、滅茶苦茶にしてしまったんだ」
蒼衣のところから綾乃の顔は見えない。背中だけ。齢四十を過ぎても若々しい後ろ姿。その背中からは、心なしか寂しげな雰囲気が漂っていた。
「……綾乃さん。明日、発つよ」
「分かっちゃいたが、急だねぇ」
「すまない。しかし、もとよりそういう約束だった。これ以上、綾乃さんたちに迷惑はかけられない」
怪我が治ったら出ていく。
それが、蒼衣が綾乃と交わした約束だった。
ベッドから降りる蒼衣。デザートブーツを履いていると、テントの入り口が開き、目の前を少年が走り抜けていった。少年は走り抜けざま、
「ただいま! ばーちゃん、工具借りてもいい!?」
綾乃の孫、鋼介である。