03
少年は空を見上げていた。
ぽつぽつと星が顔を出し始めている。
夜闇が迫るこの時分でもハッキリと星を視とめることができるのは、空気が澄んでいるせいだ。
かつて空を狭めていた高層ビル群は、崩れ去って廃墟となった。
かつて世界の発達を促していた電子機器の類は、磁気嵐の影響で一度全て滅んだ。
かつて大地を覆っていた緑は、約一〇パーセントにまで群生率を低下させた。
かつては──
少年は「かつての世界の形」を知らない。知っているのは、砂漠と化した今だけ。
遮る物も、者も。汚すものも何もない空。
そんな空を見上げるのが、少年の日課だった。
今年で八歳を迎えたばかりの身体には重労働ではあるが、近くの廃墟からジャンク品回収の仕事を終えたあと、冷え込む前の砂原に寝転んで星を眺める。
防塵防湿のモッズコートから覗く手はジャンク品で傷つき、かさぶただらけ。毎日それを繰り返しているせいで至る所がガサガサになり、高質化している。デザートブーツは擦り切れてボロボロ。
頼るべき家族がいない訳ではない。
両親と姉は先の戦争で殉職したが、祖父がいる。
それでも少年が廃墟に通い詰めるのは、それが自分に課した存在理由だからだ。
廃墟からほど近いところに少年が生活の拠点としているオアシスがある。
そこで暮らす人々は、それぞれが何かしらの仕事をし、衣食をまかなっている。今は何においてもあまり裕福とは言えないから、子供といえども労働力として動かなければならない。それでもできる事は限られているが。
ただ、オアシスにはたった一つだけ掟がある。
『働かざる者食うべからず』
生きるという事。
助け合うという事。
そうしなければ周りが苦労をする。
なにより少年は、もう何も失いたくなかった。