03
それでも。
──飛び、続けろ!!
悔しい。
追いつけないことが、悔しい。
率直に、蒼衣はそう思った。
それは、ずっと昔に捨てたはずの感情だった。
ドラゴン・フライになる際、いらないからと捨てた余計なものだった。
不意に、全方位を捉えている視界の中に何かが映った。それは地上から空へ向かって高速で伸びる煙。飛行機雲にも似た真っ白な煙。
突如として入る通信に、蒼衣は一拍遅れて応じた。
コクピット前面の左下に通信相手の映像が映し出される。
『──蒼衣姉ちゃん!』
「鋼介!?」
『横、見える!?』
言われて蒼衣は、全方位の視界の中に映る白い機体を発見する。黒銀ではない、白い人型機体を。コクピットには鋼介が乗り込んでいるらしい。しかしその全容が掴めない。
『姉ちゃん、聞いて』
コクピット前面左下に映し出される鋼介は、傷だらけだった。
『ブラン・エフェメラルは、単機じゃないんだ。二つあるんだ。二機で一対なんだよ!』
鋼介は言う。考えてもみろ、と。
人型機体ではないブラン・エフェメラル。しかしその正当後続機であるオニキス・ライトは、人型機体だった。正当後続機とは、なにも名だけの話ではない。名は体を表す。ならば、先代機であるブラン・エフェメラルにも、人型形状があると考えるのは至極真っ当なことではないか。
『──そうだよ、蒼衣!』
ヴン。と今度はコクピット前面左上に綾乃の顔が映し出される。
『ブラン・エフェメラルの代のシリーズは、全機体二機で一対。その理由は、感情にある。神経系を直接機体にぶち込むお前さんの乗り方は、下手をすれば機体の損傷とともにパイロットの死に直結する場合がある。その苦痛が少しでも軽減されるようにという配慮が根底にあるんだ。これがもしも感情があった場合、痛みはダイレクトさね。でもね、感情は、神経だよ。お前さんが嬉しければ、それは機体にちゃんと伝わる。お前さんが悲しければ、それもちゃんと機体に伝わる。お前さんが勝ちたいと思えば、伝わるのさ!』




