03
守る。
それが、鋼介が自分に課した存在意義である。ならば、大切な人を危険にさらす行為というのは────。
「鋼介!」
言いよどんでいると後ろから声。振り返ると蒼衣が医療テントから飛び出してきていた。その後ろからは祖母・綾乃が。
二人の姿に気付いた黒銀機体が、驚いたように声を上げた。
『…………生きていたのか』
その言葉は蒼衣に向けられたものなのか、綾乃へ向けられたものなのか。
否。
その両方。
『MADOの全容を持って行方を眩ませていたプロジェクトの責任者・漆原綾乃。機体を持ち逃げて死んだはずの先代、ブラン・エフェメラル…………おいおいおい。こりゃ、どういうこったい。国際指名手配級の犯罪者が、揃いも揃ってこんなとこにいるなんてよ。こいつはどうやら、ヒヒイロガネどうこうの話じゃなくなってきたな』
ドラゴン・フライ及びMADO開発の全責任者、漆原綾乃。
脱軍の逃亡者、漆原蒼衣。
二人は軍に所属していた。所属していながら、その技術の粋を外に持ち出した。
開発の責任者であった綾乃は、たとえば敵国に拿捕された場合、知りうる技術を開示しなければならない状況に追い込まれる危険がある。
逃亡者の漆原蒼衣は、持ち出した機体ごと捕獲された場合、戦力の解析をされる危険がある。
どちらがどちらも、軍の都合。国の都合である。個人の危険は考慮されていない。しかし、それが国のためだった。
でも。
それでも。
──あんまりじゃないか…………!
鋼介は身体を起こしながら拳を握って身体を震わせる。
理屈は分かる。理由は分かる。
だけれど。ならば。
人ごときが人に与えるなよと鋼介は思う。




