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スカイ・ロア  作者: えむ
五、黒光
18/25

02

 楽しいことはたくさんある。それがたとえ戦争中だったとしても。しかし鋼介の思いは、直後に走った激震によって、打ち砕かれた。

 砂が舞う。

 地面が揺れる。

 大地が悲鳴を上げる。

 駆け抜けた衝撃で転倒した鋼介は、地面に這いつくばった状態から身体をひっくり返して周囲の状況を確かめた。

 漂う砂煙。

 しかし見える。

 黒銀が。黒銀に輝く人型機体が、そこに佇んでいるのが見える。

 詳しい兵装を確認することはできないが、しかし、さきほどの衝撃はこの機体が着地することによって起こしたものだという事は瞬時に理解できた。そして鋼介は、この機体を知っていた。キャンプの地下にある秘密の空間にあった機体とは形状が別ではあるが、それと一緒に保管されていた設計図で見たことがある。

 〈MADO\frame‐next〉。

 現・日本軍が有する最強の戦闘兵器。

 敵の脅威を撃ち滅ぼすはずの機械が、なぜこんなところに。

 逡巡していると黒銀の機体から声が。

『協力を要請する。素直に応じれば、手荒な真似はしねえ』

 声が続く。

『ここにあるはずなんだがなぁ……赤くて赤くて赤い石なんだが』

 赤くて赤くて赤い石。

 鋼介は無意識に右手へ視線を落とした。

 ──……この石が、目的……?

『ヒヒイロガネっつってな。敵国も狙ってるってんで、保護対象物に指定されてる危ない鉱石だ。未加工段階だと煤だらけで反応が鈍くてな──さっき反応は出たばっかりだから、誰か加工したやつがいると思うわけなんだよ』

 秘匿は罪だぜ? と機体の声は言う。

 そんな事は知らなかったでは済まされない。聞いてしまったからには、事情を聞いてしまったからには。

 しかし鋼介は迷う。四年もかけてようやく渡すことができるかもしれないプレゼントを、危険だからといって手放すのか。それとも大切な人を危険な目に合わせないために、右手にある物を差し出すのか。

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