02
屍を越えるということを体感した。
他人よりも優れているということを実感した。
しかし、それだけだった。
私の代のプロジェクト技術者に綾乃さんはいなかったが、担当者は私に言った。「お前に理由を与えてやろう」と。
理由。
存在意義。
目的をくれてやると言った。
敵を倒すという、単純明快な──相手を打ちのめすための言い訳を。
最初はそれに従っていた。何せ、初めて手に入れた存在意義だ。嬉しい、とまではいかないが、失うのが怖かったのかもしれない。
だが、一つの転機があった。
雪が降りしきる真冬の任務だった。
たしか、ロシアからの侵略だったと思う。戦況はこちらが優勢。あとは残党を殲滅して任務は終わりのはずだった。破壊し損ねた敵の機体が、近くに居合わせた民間人を殺したのだ。
その民間人は、親子だった。
まだ若い母親と、年端もいかない少女。
雪に足を取られ、転んだ少女がまず始めに攻撃の対象となった。それを守らんと子供に覆い被さる母親。無情にも、生身の人ひとりで受け止めきれる火力では、なかったというのに。
断末魔さえなかった。
彼女たちが生きた痕跡すら、残らなかった。
私は、直後には絶叫していた。何故なのかは分からない。しかし、胸の奥底から込み上げるような、押し寄せるような何かを感じた瞬間、叫ばずにはいられなかったのだ。
熱い。
熱い何か。
それから私は、考えるようになった。
あの母親は、子供の盾になるという役目を誰かに与えられたのだろうか、と。ああなる事を理由づけられていたのだろうか、と。
それならば私と同じはずだと。
……分からない。そうであるならば、あのとき感じた熱の正体は一体。あの母親が私と同じであるならば、私は──思うところなんて、何かを感じる事なんてないはずじゃないか。




