とある話
馬車が街を出発して数十分。
馬車の中にいる人達は席に座って本を読んだり、寝ていたり世間話をしていた。
どこから見ても平和な空気が漂っていた。
「そう言えば、また出たらしいぞ」
男がある話題を出した。
「ええ、聞きました。また襲われたらしいですね」
話し相手だった商人の男もその話題に乗った。
「出たって何が出たんですか?」
すると、一人の少女が二人の話題に興味を持ったのか聞いてきた。
「お、お嬢ちゃん。聞いてたか。まあ、いいぜ。教えてやるよ。出たっていうのはよ」
気のいい男は言葉は一端、言葉を切るとその後の言葉を続けた。
「盗賊だよ」
「盗賊ですか!」
少女は少し驚いた声をあげた。
「ああ、ここ最近になって増えているらしい。狙われたら最後、金目の物は全て奪われ、女は犯され、子供は奴隷商に売り飛ばされる。そして、そうじゃない奴らは容赦なく殺されるって話さ」
男の話を聞いていた少女は、自分の腕を自分を抱くようにして身震いした。その話は他の人達にも聞こえ、男の話に聞き耳をたてていた。
「ま、心配するなよ。お嬢ちゃん。一応、この馬車には護衛の人がついているって話だからよ」
その話をした瞬間、話を聞いていた人達から安堵のため息が漏れた。
しかし、そういった反応とは違う人達がいた。
「ケッ、何が盗賊だ。俺達の敵じゃねぇぜ」
「ああ、そのとおりだぜ」
そう言ったのはあの二人組の冒険者だった。
「そんな!相手は、何十人もいるんですよ」
「てめぇ、俺達をなめてんのかぁ!」
「い、いえ。決してそんなわけでは」
男の怒声に商人の男はビクビクしながら答える。
「お前達に言っとくぜ。俺達はなランクCの冒険者だ」
その言葉にざわめきが起こる。
冒険者ランクがCというのはかなり高い方であった。
「だから、俺達にとって盗賊なんて大したことないんだよ」
吐き捨てるように男が言った。
周囲の人達は黙って聞いていた。そして、何も言えなかった。
ここで何か言えば男達は怒声を浴びせ、手を出してくる可能性があると思ったからだ。
出発前と同じくらい暗い雰囲気になってしまった。
暫くの沈黙。
「ねえ?あなたはどう思いますか?」
少女が沈黙を破るように声を掛けた。
声を掛けたのは少女の隣にいて今までずっと下をむいて黙っていた盲目の少年だった。
「・・・・・・・・」
しかし、少年は少女の質問に反応しなかった。
少女はもう一度聞いてみる。
少年は反応しない。
少年の反応を見て少女は寝ていると思った。
そう思い、聞くのを止め、席に座ろうとした。
その瞬間。外から悲鳴が聞こえてきた。
「と、盗賊だぁーーーッ!!」