始まり
十年後。
とある街。
現在は、お昼時、街は今、旅の商人や冒険者達が行き来して賑やかな雰囲気を出している。
路と路は人込みでいっぱいで、賑やかであることをこの街に訪れる人々に教えてくれる。
そんな街の中を一人の少年が歩いていた。
しかし、その姿からは少年と思う者は少ないだろう。
少年の出で立ちは茶色のフードを深く被り右手に持つ杖を地面に当てながら歩いていたためだ。
カン、カカッ。カン。
地面に杖を突く音を響かせながら少年はゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
その動きは、少しぎこちない。
人混みの中だと流されてしまう感じだ。
しかし少年は流されることなく歩いていった。
暫くすると少年は一軒の店へと入った。
店の中では屈強な男から魔術師らしき人など様々な人が椅子に座って談笑している。
少年の登場に男達は自然と少年に視線がいく。しかし、少年はそんな視線に気づく事なく店の中をゆっくりと歩いていき、空いている椅子を見つけると座った。そして、そのまま顔を伏せ動かなくなった。男達もそんな少年に興味を無くすと自分達の話へと戻っていった。
『凄い、視線だったなあ』
誰にも聞こえない〝声〟で少年は呟いた。
『まあ。いいか』
気にすることなく少年はそのまま動かずに店の中を視た。
『結構いるなあ。さすがは、冒険者ギルドだな』
少年は関心するように呟いた。
少年が入った店はこの街の冒険者ギルドだった。
しかし、少年は冒険者の仕事は一度もしたことがない。そしてここに来たのは別の目的であった。
暫くして、ギルドの受付をしている女性が声をあげた。
「今から隣街までいく、馬車の予約を始めます」
その声の後、幾人かが、受付で予約していく。少年も同じように並んでいた。
「では、名前と料金を御願いします」
少年の番になった。
少年は、置いてあるペンを手探りで取ろうとした。受付の女性は、その様子で察し、慌てて、少年の右手にペンを持たせた。少年は、受付の女性に頭を下げた。
そして少年は言われたとおりに用紙に名前を書く。
「では、料金として800ラーツいただきます」
その問いかけに少年は反応しなかった。
しかし、直ぐに気づいたのか受付の女性に言われたとおりに少年はお金を支払った。
「では、10時になりましたら連絡します」
受付を終えた少年は再び、椅子に座りそのままでいるのであった。
予定時刻。
「では、馬車の用意ができましたので予約を入れた方は来てください」
受付の女性の声が再び店内に響く。
そして幾人かが、店を出ていく。
女性が店を見渡す。そして、店の端の椅子に座っている少年に目がいった。
そして、声をかけた。しかし、反応はなかった。
仕方なく、女性は少年に近づき肩を叩いた。
「お客様、時間になりました。馬車の方へ行ってください。」
そう言うと少年は少し困惑していたがすぐに椅子から立ち上がり入り口の方へと杖を突きながら歩いていった。
「目が見えないんだわ」
彼女は少年の動きの見ておもわず呟いていた。
そして、同情の眼差しをむけるのであった。
馬車は、大人が十人程、座れる広さがあった。
そして、少年が馬車に入ると中には八人程座っていた。
少年がもし、目が見えていたら馬車に乗っている自分を除く人達の事を見れただろう。
『八人か、ぎりぎりだったかな』
少年は杖を突き通路を進む。そして、空いている席に辿り着くと腰を下ろした。
そんな少年をイライラする、とりに睨む二人の男がいた。もし、少年が見えていたら少年は冒険者だなと思うだろう。
他の客はその様子にハラハラした。
二人の様子は他の人から見ても男達が凝視している少年に手を出そうとする気がヒシヒシと伝わってきていた。
男の一人が立ち上がった。
「すいません!そろそろ出発します」
それと同時にギルドの受付の女性の声が聞こえてきた。
男は舌打ちすると渋々、席へと戻った。
その様子に他の客はホッと胸を撫で下ろした。そして、幸運だったと全員、内心で思うのであった。
標的にされかけていた少年はそんな事があったとも知らずに変わらず席に座って顔を埋めているのであった。
それから暫くしてから、馬車はゆっくりと出発した。
しかし、その馬車が街を出た瞬間、幾人かが、こっそり追跡し始めたのであった。