8壊 感染その2
分かりきった事だと思いますが、これはモノを小さくする能力だと思います。まぁ、着ている服も一緒に縮んだのは不幸中の幸いでしょうか。
5cm程の大きさになってしまった私を、ちびちゃんが私の首根っこあたりを掴んで宙吊りにしました。
「わー小さい!!」
何故か眼を輝かせ、テンションが高いちびちゃん。学校でもここまで高いかどうかで瞬間悩みましたが、普段からこんな感じだと気づいて思考停止。
それよかこれ元に戻るんですよね?
「こら、戻しなさい」
「いや……可愛いぞ」
「くーちゃん、貴女に言ったんじゃないですよ」
私の下にくーちゃんが手のひらを持って行き、私はくーちゃんの手のひらの上に。
少し大きい虫程度の大きさだと、人間が山の様に感じてしまいます。落下したら嫌な予感がするので、手のひらの上で何も出来ずに座り込んでいます。
「おっさん、早く戻してください!!」
「んな事言ってもなぁ、俺には戻す能力なんて無いぞ。ちびちゃんとやらが戻すしかない」
このおっさんは使えない部類のおっさんでした。用は無いので公園で黄昏れててください。
「このままでもいいじゃん」
上の方からちびちゃんのどうでもよさそうな声が……。
「よくないですよ。さっさと戻しなさい」
もう必死。早く人間サイズに戻りたいです。
「能力を扱うにはな、自分がどれだけ能力を使えるか、自分がどんな能力を使えるか等を認識してなきゃいかんのだ。まぁそこら辺なんとなく分かれば元に戻せるだろ」
おっさんが良く分からない助言っぽい事を言っています。あれ? なんか前に私に言った内容と違いがある気がするのですが。もしかして厨二病を認めるって嘘?
「えーと、じゃあ小さくするの逆で大きくしよう」
ちびちゃんの声と同時に、また軽い目眩が私を襲いました。
「これはこれで乙なものだ」
「えーと……」
眼を開けると、人間サイズに戻ってました。
戻ってるのは嬉しいのですが、何でちびちゃんと同サイズなのでしょうか? これでは15cmぐらい縮んだことになります。
「能力にも限界があるからな。ちびっ子の能力は『モノの大きさを変える(自分の身長範囲だけ)』って感じだな」
「おっさん、これじゃあ戻ったって言えませんよ!! 能力を使う以外で解決方法はないんですか!?」
「……刻が解決してくれるさ」
「困った時だけ厨二らなくていいですっ……」
また目眩が。今度は何?
「ほら、やっぱりこっちの方が良いって!!」
「お人形みたいだな」
所詮は他人ごと。2人が私で遊び始めました。
次に眼を開けると私はちびちゃんよりも小さくなっていました。今のサイズは120cm代でしょうか。小学生並ですよ。
「ちょっと何やってんですか」
「妹が欲しくって……」
「幼いお前が見たくって」
くーちゃんはもう何も言いませんよ。ちびちゃんに関しては私を妹にして持ち帰るつもりだったのでしょうか。もう嫌気が差しました。精神の方も身体の大きさ程度になっていたのでしょうか、私は両腕を振り上げ、怒鳴り、喫茶店を飛び出し家に帰りました。
家には運良く誰もおらず、自分の部屋に入ってからはなるべく部屋から出ない様にその日を過ごしました。
翌朝。
精神的に疲れたこともあって、着替えずにベッドに潜り込んでいたのですが、次の日の朝には元にもどっていました。元に戻ったよりは、元の身長に近づいたが正解かも知れませんが。
その日は普通に学校に行きました。
「おはよー」
「おはー」
教室に着くと、他の人と話していたちびちゃんが、私の方にやってきて挨拶をしてきました。そのまま気になった事を小声で訪ねます。
「能力は公にしてないですよね?」
「してないよ?」
なんでそんな事を聴くのか。そんな感じの態度でした。まぁ彼女なら大丈夫でしょう。なんて適当に考えながら、ちびちゃんと一緒に自分の席へ。
くーちゃんはいつも通りに自分の席で本を読んでいました。
……机に立てかけてある剣が目立ちますね。でもくーちゃんはそこはかとなく剣が似合いますよね。
「おはー」
「あぁ」
ちびちゃんにした挨拶をリサイクルすると、くーちゃんからお疲れ気味の返事が返って来ました。昨日何かあったのでしょうか。
「おい、見ろよ!! 刀なんか持ってきてるぜ」「捕まるだろー」「厨二病かー?」「剣道って感じ?」「まさかアイツは退魔師!?」「面白くなってきやがったぜ……」
何やら男連中がくーちゃんの刀を見つけてあれやこれやと言い合っている様です。中には不審なセリフが混じってる気がしました。
でも彼女が参っている原因がなんとなく分かった気がしました。
「どんまい」
「あぁ……」
くーちゃんを励ましていると、転校生が教室に入って来ました。
男子生徒と肩がぶつかって、何やら良くない雰囲気になっています。
「おい、お前ぶつかったろ」
「我が『神殺しの左肩』に触れても平気か。少しはやるようだな」
「ふざけた事言ってんじゃねぇよ。さっさと本性発現しな」
「なにっ!? キサマ……。フッ、いいだろう教えてやる。俺は魔界から逃げた魔物を連れ戻しに来た魔界の使者!!」
「そうか……お前も『アイツ』を狙ってるのか……。だけどよぉ。アイツは渡せねぇな!! アイツは俺に言ったんだ!! 泣きながら言ったんだ!! 俺に助けてって。だから俺が守ってやるんだ。あんなか弱い女の子を放って置けるほど人が良く出来てないんでな」
「あくまで逆らうつもりか……。いいだろう。だが、キサマは魔界全てを的に回した事になる。後悔するんだな」
「後悔なんてフゲっ!!」
「お前等遊んでないでとっとと座れー」
体育会系で爽やかだったあの子があんな事に。どうしてしまったのでしょうか。かつて彼の象徴と言えた爽やかな笑顔は消え、今はニヒルな笑みを浮かべています。
止まらないと思った転校生との言い争いは、体育科の教師である担任が元爽やかくんに拳を入れて無理やり正気に戻してました。先生はきっと生徒とテレビを同じ風に見ているのでしょう。
「やべっ、『世界を統べる本』忘れた!!」
「仕方ないわね、この借りは有明月の時に返して貰うからね!!」
仲が良くて席が隣同士の男女の2人は、男子生徒が忘れたノートを女生徒が貸すだけのやりとりがこんな事に。
「部長!! その足はどうしたんだ!?」
「あぁ、魔物に襲われてな……。だが気にするな。名誉の負傷だ」
最近骨折したらしい運動部の部長を心配する男子生徒との会話もごらんの有様に。
「ネメシス。お前も今日行くか?」
「あぁ、友の為だ。今日の『アブソリュート・イクスティンギッシュ』は止めておくよ」
仲の良い男子生徒同士です。多分遊びに誘った片方に友達がからってもう片方が「宿題はしなくていいや」的な事を言っているに違いがありません。
教室は今日も賑やかで、担任の一喝があるまで静まり返りませんでした。何かがおかしい。何かが狂ってきている気がします。
ちびちゃん「何でお女王ちゃんはクラスメートの言ってることが分かるの?」
くーちゃん「あいつも厨二病としか考えられないよな」
ちびちゃん「しかもおでこの肉の字掠れたぐらいでまだ残ってるし」
くーちゃん「あいつは見かけによらず頭が弱いからな。きっと字の事なんて忘れてるだろ」