3壊 破壊女王と中二病
予め言っておきますが、この時点で私のちっぽけな低スペックで構成されている脳は、考える事を止め「長いものには巻かれてしまえ」と命令を私に送ってきます。私はちゃんと脳からの司令どうり、考えることを止めました。
この異常な場で異常にならない訳がないのです!!
「私の能力は『力』。あんたを楽に運べたのもそのおかげさ」
だから私にかかる負担が少なかったと。眼帯さんの言う事が本当ならば納得してしまいそうです。
それでも信じられない。実際にそんな漫画染みた力を持ってるなんてありえない話です。
「カウンターの奥に立ってる奴、あいつも能力者だぜ? 今は動かないけどさ」
「はぁ」
眼帯さんの話が右から左へと流れていきます。きっとこの喫茶店を出たら忘れているでしょう。
眉間にシワを寄せている私を見て、眼帯さんは立ち上がり、右の席の机を片手で楽々と持ち上げてみせました。
「ほらな、これで少しは信じたろ?」
「ほー」
なっとくです。うそです。
重度のホームシックを患ってしまった様です。学校に休むと電話するより、お母さんに電話するか家に帰ってのんびりしたいです。
「私なんてビックリ人間程度だけどよ、中には凄い奴もいるんだぜ!!」
「ふむー」
最早私は肯定するだけの人間になっていました。返事も言葉から空気が抜けるような声に変わっています。
「それともう1つ面白い話があるんだよ」
今までの話しが面白いと思ってるのでしょうか? 今までの会話を録音して長時間延々と聞かせてやりたいですね。
「私達能力持ちの奴等を『中二病』って呼ぶらしい」
厨二病。今やネットに詳しくなくても、誰もが知っている言葉。つまりですね『俺の右腕がー』ってやつですよ。
「なんと!! 力を持つ奴は中二病患者だけだってさ」
眼帯さんがニヨニヨと卑下た笑みを浮かべています。今なら殴ってもいいですよね?
眼帯さんの言いたいことは、なんとなく分かります。私も同類だと、中二病だと。そう言いたいに決まってます。
「でも私の腕は普通ですよ?」
「厨二病はなんだろな。自分には妖怪が見えるとか、自分はやればできるとか、テロリスト倒す妄想したりとか、そんな感じ」
「私は違いますよ!! そんな事考えてません!!」
勢い良く立ち上がる私に、眼帯さんは机の物を置く面を私に向けて言います。
「あんた普段何考えてる? 私が診断してやろう!!」
偉そうだったので言いたくなかったのですが、このままだとあらぬ疑いを拭い去れないので、仕方なく言ってやる事にしました。
「楽して生きたいなーって」
「それだよ!! その考え方が原因だね」
私の言葉を遮って眼帯さんが大きな声を出して、私のことを馬鹿にしてきます。
人間誰だって楽に生きたいはずです。もしかして私の絶対に面倒な事はしないという揺るぎなき意思が原因なのでしょうか?
「いやーでも良かったよ、あんたが慢性厨二病患者で。厨二病じゃなくなったら力は消えるんだぜ」
「私も厨二病を卒業すれば!!」
「素でそれなら治らないだろうね」
一気に体から力が抜ける気がしました。今まで立っていた眼帯さんが「どんまい」と励ましの言葉を私に贈りながら席につき、喉が渇いたのか、そのまま麦茶を一口で飲み干してしまいました。
「私が眼帯をしている理由は、厨二病患者で居るためなんだ」
「ひぇぇ」
再び肯定するだけの人間モードに切り替わった私は、もはや変な声を出す人間です。自分で何を考えてるのか分かりません。とりあえず疲れましたし。オーバーヒートしそうな脳を休めたいですね。
「素の状態で厨二病を患ってる奴はそうはいない。あんたは貴重な人材なんだ」
確かに。厨二病の言葉が蔓延してしまっている社会では、中々痛い人を目撃しません。厨二病予備軍の方々も、ネットに晒された先人の失敗を見て、厨二病を卒業したのでしょう。
ともかく厨二病は自ら進んで感染するしかないのが現状だと思うのですよ。
「だからお前には私達を手伝って欲しい。前にも言ったけど、バイト感覚でお願いしたい。仕事内容は厨二病にワザと感染しようとしている奴を止めるってだけ」
そんないっぺんに言わないでください。しょりが追いつきません……。
むむむと唸っている私を見て、眼帯さんは「あんたって思ったより馬鹿なんだな」と笑われてしまいました。
「このご時世、厨二病を患っている奴はいない。でもワザと厨二病を患った人間が力の存在を知ったら……」
「せかいがあぶない!!」
おっと、脊髄反射です。勝手に体が。もう無理してテンションを高めないとやってけないので……。
「あんたには人が沢山集まるから、厨二病予備軍がいないか見張りをお願いしたい」
「いいですよー」
快く請け負います。だって人を見るだけでしょう? いや、それより普通に生活していればいいだけじゃないですか。それでお金も貰えるなんて夢の様なお仕事です。
「じゃあ今日は帰りな。疲れただろうし。週一でここに顔出すぐらいでいいからー」
そう言って眼帯さんは上半身のジャージのチャックを少し下げ、ジャージの中に手を入れて私の制服一式を取り出しました。妙に温かいです。……もう突っ込みませんよ。
制服に着替えずにダサいジャージで帰る事にしました。
無言で喫茶店を後にすると、喫茶店は私が通っている高校の近くに建っているのだと分かりました。
あ、スクールバッグ……。拉致られた時に駅に落としてきたまんまでした。完璧忘れてました。
きっと駅員さんが拾ってくれてるに違いがありません。そう信じて私は駅に向かいました。