1壊 破壊女王と拉致
朝の駅。切符を買おうと思い、販売機を操ったのはよかったのですが、お釣りと切符がなかなか販売機から出て来ません。
人々が行き交う駅で立ち止まっているのは、切符を買う人達や、私と私の後ろに並んでいる見知らぬおじさんぐらいです。
この場合はどうしましょうか。販売機の画面は、最初の画面に戻ってしまいました。お釣りと切符は何処へやら。駅員さんに助けてもらいましょう。人任せの解決策をひねり出す頃には、販売機の画面がブラックアウトしてしまいました。定期券をちゃんと更新しとくべきだった、と後悔する頃には後ろのおじささんの足をトントンと床に叩きつける貧乏揺すりもどきが聞こえてきました。
今を生きるピチピチの女子高生の私には、嫌な特徴があるのです。それは機械に触ると必ず壊れてしまうというものです。中学生の頃は携帯電話も半年は持ちましたし、自動販売機も普通に扱えました。ですが、私が成長すると共に機械を壊しやすくなっていったようで、最近だと携帯電話は一ヶ月しか持ちませんでした。だから今は携帯電話という連絡手段を持っていません。女子高生に個人の連絡先が無いのは死活問題です。友達には、携帯電話を持っていない事を「変わってるね」とコメントされる度に涙が出てしまいそうになります。
でも、何故か壊れるのは電気を使う機械だけなのです。不便ですが生活はなんとか出来るので、そうゆうものだと割りきっているので、そこまで重荷にはなっていません。
……とにかく今は現状をなんとか片付けてしまいましょう。駅員さんを呼ぶべく、くるりと振り返ると、私の後ろにいた筈のおじさんが消えていて、代わりに海賊が付けている様な黒い眼帯をした女性が立っていました。服は小豆色のジャージです。今時懐かしいですね。
女性とは零距離です。視線を逸らしたくても無理でした。もう少しで唇と唇が触れてしまいそうです。
「犯人確保ー!! 支店まで着てもらおうか」
「なにを――」
急に喋り出した女性に、私が目の前の女性に幾つかの疑問をぶつけようとしたところ、女性が私の目の前から消えました。
そして、気づけば私は女性に担がれていました。土方の人みたいに肩に私を乗せて、片手で私の腰に手を回して私を固定しています。
助けを呼ぶべく叫ぼうとしましたが、口をテープで塞がれてしまいました。なんのテープかは分かりませんでしたが、くぐもった声しか出せません。
もがけば逃げられるかもしれませんでしたが、恐怖心が私を支配していて動く気にはなれません。
行き交う人々は、私達を避けて何事も無かったかの様に通り過ぎて行きます。これでは助けは期待できそうにありません。
「破壊女王だろ?」
「むぐぐぐぐ」
駅から出て、少ししたら女性がそんな事を聞いてきた。内容はそんな事で済ませるものじゃあありません。だって私のそのあだ名は、私が通ってる学校でしか広まっていない筈です!! 自信はありませんが……。
何故女性が私を破壊女王だと知っているのか。そう問いただそうとしたところ、口に貼られたテープのせいで、私の口から言葉と呼べるものは出ないで、少し高いうねり声が出ました。
「いやぁ、だって同じ学校に通ってるし。それに」
まさか同じ学校に通ってるなんて驚きです。こんな格好をする様な人を私は知りません。女性が着ているジャージは、学校指定の物ではないので、服装からも彼女の身分が判断できませんし。
「あの壊しっぷりは間違いないだろ」
彼女はへへっと笑って、空いている片手で鼻を擦りました。
まさか見られていたなんて……。先ほどの販売機は、私が触ってすぐ壊れました。そんな事は初めてです。今までは近いうちに壊れる程度でしたし。
それにしても何で同じ学校に通う生徒が、私を拉致しているのでしょうか?
答えは彼女に聞けば丸分かりですが、今は喋れません。なので後で聞いてみましょう。ちなみに自分で考えてみるという選択肢は存在しませんのであしからず。
朝のせいでしょうか? 担がれて何もする事が無いので眠くなってきました。担がれているのにも係わらず、私の体にあまり負担はかかっていませんし。だから今はぐでーっと垂れている感じです。
んー。目的地に着くまで開放されないでしょうし、犯人が身近な人間だと分かったので恐怖心が薄れ、恐怖の代わりに睡魔が私を支配して……。