第五九話「チトはまだか!?」
お待たせしました、久しぶりの更新です。海戦の間の陸軍の模様です。
-ソ連への攻勢は冬将軍の事を考えると春から夏の間が望ましいと判断され、
その為に1945年を目処に軍備更新・整備が行われていた。ドイツはパンサーF型、Ⅱ型を整備しつつも、史実でのE‐50中戦車(ただし設計が変わり、T‐34‐85を全ての点で圧倒するべく90~105ミリ砲搭載予定とした)の開発を開始し、英国は史実より早くセンチュリオンの開発が進行し、早期配備の目処がたっていた。では日本帝国はどうか?頼みの四式中戦車は生産途中であり、本土配備が優先される。その為にソ連軍重戦車に有効な火力を持つのは依然として自走砲に分類される(砲戦車であるが)「ホリ」のみ。中戦車にはパンサーで代用可能ではあるが、重戦車の不在は日本帝国に暗い影を落としていた。
‐遥はこの日本戦車師団の火力不足に悩んでいた。ホリは後方支援用の砲戦車であるし、
三式中戦車は最早陳腐化しており、防衛の数合わせに使うしか使い道は無い。
頼みの綱の四式中戦車は新機軸を多数取り入れた故に生産も難航。本土配備が優先される事も鑑みると当分配備は先であり、パンサーを主軸に航空支援が欠かせないだろう。
「せめて……タ弾が今ここにあれば状況はマシなんだけどな」
タ弾。航空機のクラスター爆弾と陸軍が使用した成形炸薬弾があるが、遥が言ったのは後者である。史実では既存の砲などでも攻撃力が向上する効果を挙げている。無論、この歴史でも日本軍は全力で開発していたが、現在の一線級装備の九〇式野砲(三式七糎半戦車砲)、7.5 cm KwK 42のライセンス生産型、十糎戦車砲用の物の開発が遅れており、全面的配備・使用には至っていない。貫徹力強化に貢献するとし、九六式十五糎榴弾砲などでの使用が戦線で望まれているが、予定より遅延している。
「海では超甲巡が戦ってるっていうし、陸の連中にハッパかけたいのに肝心要の四式が……予想外だぜ全く」
機甲戦術の要となる中戦車で負けているのでは話にならない。火砲は九六式十五糎榴弾砲を主力にし、九〇式野砲は戦術次第で一線運用出来るし、九二式十糎加農砲もある。……が、ソ連の強力なT‐34やスターリンに対抗できる戦車(重・中)の不在は航空部隊の
航空支援を行わなくては戦線維持すら怪しいということでもあった。
司令部でも急速に現れつつある敵新戦車への日本軍機甲部隊の火力不足は問題視されていた。中川州男大佐はこの事実を深刻に受け止めていた。ドイツ軍に強力な戦車を借りなければ攻勢など到底行えないというのは日本製戦車の陳腐化を諸外国に知らしめているのと同義であるからだ。
「`チト`はまだなのか?」
「参謀本部はチトの第一次生産分は本土配備を優先しており、外地に配置されている戦車の更新は遅れると通達が」
「ええい、本土配備など後にしろ!本土決戦を行うわけではないのだ。いくら露助と交戦中だからといって、世界三大海軍たる帝国海軍を打ち破るほどの海軍力がソ連にあるとは思えん。参謀本部は何を考えておるのだ……」
「しかし閣下。露助は新鋭艦も多数揃えているようです。我が連合艦隊と言えど、決して侮れません。それ故でしょう」
「ううむ……」
そう。帝国海軍の精強さは陸軍もよく知っていた。そのため海軍がソ連如きに遅れをとるのはまずないと高をくくっていた。だが、参謀本部の決定もあながち間違いではない。その為にソ連海軍の予想外の増強がイギリスから正式に伝えられると、軍当局は大いに慌て、「新鋭艦の艦隊ならば万が一の事もありうる」と検討結果が出され、北方領土が取られる可能性も生じた。そのため北方領土配置の部隊の機甲戦力の更新が優先事項にあげられ、
四式の第一次生産分は北方領土守備部隊と本土の教導部隊に配分されたのである。
これは日本の生産力の限界に起因しており、ドイツのようにいきなり数百両以上を整備できるほどに工業生産力の余力がまだない事の暗示でもあった。
「ドイツ軍やイギリス軍にいつまでも助けられていては、我が帝国陸軍の沽券に関わる。パンサーを使ってでも我が帝国の誉というものを見せなくてはならぬ……」
「はっ、承知しています」
「念の為にドイツにパンサーの更なる提供を通達しておいてくれたまえ。イギリスにはコメットを借りたいとな。チトが間に合わん場合はそれで攻勢に参加する」
中川大佐は四式の配備が間に合わない場合は豹戦車、コメット巡航戦車を使う事を考え、ドイツ軍とイギリス軍へ連絡を取らせる。これは日本軍の涙苦しい努力と涙の証でもあった。ドイツとイギリスの両軍も日本陸軍部隊の苦境は伝え聞いており、あまりの不憫さに同情、それぞれ戦車などを提供したという。これら戦車は三式の現地代換車両として大いに喜ばれたとか。