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蒼空の連合艦隊  作者: 909
第二次世界大戦~第一幕 対ソ戦~
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第五八話「ソ連海軍対大日本帝国海軍 その三」

-日本海軍とソ連海軍の激突が日本海で繰り広げられている頃、海軍は零戦からの戦闘機の更新をようやく完了していた。予想以上の敵航空機の進歩に驚いた日本軍は陸海空軍の新型航空機の増産・配備を急いだが、本土防空の任を負う防空航空隊から順に急がれ、抗戦機会の少ない艦載機部隊は割と後回しにされていた。疾風(ハ42搭載型とハ43型)と零戦二二型が混在する状況が続いていたもの、44年3月末で零戦は概ね二線級空母のみに搭載され、第一線空母の戦闘機は疾風に統一されていた。


-第一航空艦隊旗艦「瑞鶴」


「第二水雷戦隊が交戦に入ったか」

「はい」


この時期には日本海軍空母艦隊の象徴は「赤城」から「瑞鶴」へと代替わりしており、国民へも「我軍新世代航空母艦」だと大々的に宣伝された。「雷撃隊出動」などの映画にも出演し、赤城に変わる空母機動部隊の象徴として君臨していた。艦載機も零戦や九九式艦爆などの旧世代機から新鋭の疾風、彗星、天山へ第一線空母の全機が機種転換に成功していた。空母専用偵察機は史実での「彩雲」が専ら開発中である。精度が高い機上レーダーと計器を積んで、史実の誉より高出力かつ、高々度性能があるハ43の排気タービン搭載型を積む予定である。それらは来る対米戦に備えての施策であるが……。



「参謀本部はソ連戦では我々空母部隊を温存しておきたいようだが、そう上手くいくかね」

「基地攻撃の支援程度に留めておくことで手の内を明かさないようにしてるのでは」

「確かに旧史の我々は手の内を明かしすぎたからな。それで中盤以降の劣勢に繋がった。大鳳は初陣、信濃に至っては……」

「ええ。なので手の内を実戦で隠すのはいいかと」

「水雷戦隊の被害状況はどうか」

「数隻が大破、一隻が沈没した模様」

「ふむ……田中君も苦戦しているようだな」

「ソ連海軍が予想外の戦果を上げているようです。新鋭艦の効果ですな」

「大正期計画の艦が未だ多数ある我々から見れば、羨ましい限りだよ。特にやっと超甲巡や戦艦の更新が上手くいきかけてる身としては、普通の巡洋艦群の更新も進めて欲しいものだよ、特に軽巡を」


小沢治三郎は大型艦艇の更新と護衛艦艇に力を入れるのはいいが、第一線艦、特に軽巡の更新をして欲しいと漏らした。軽巡は未だに大正期の川内型軽巡洋艦などが第一線で現役稼働中な有様。重巡は超甲巡の追加建造、新型艦の新造で順次更新が進められているが、軽巡は軽んじられている。最上は実質的に重巡であり、純然たる軽巡は開戦前に計画された阿賀野型軽巡洋艦が計画見直しによって、原設計のままでは没という事になった。

それから数年経って改良版の矢矧型(史実の3番艦の名)が計画されているが、空母の充実と戦艦の更新、護衛艦艇の大量建造の影響で工廠の建造ドックが開かないという事態が起こっている。特に小艦隊の旗艦になりうる軽巡は大正期の老朽艦を酷使せざるを得ない状況は継続中である。それを憂いたのだ。


「軽巡は旧史では実質的に消滅した区分ですからね。艦政本部が軽視するのも仕方がないですよ。後世の大型イージス艦などは重巡クラスの大きさですから」


彼等は後世の軍艦がどのような発達を遂げるのかをF情報で知っていた。高度に発達したエレクトロニクスがやがてイージスシステムという戦闘システムを生み出し、防空能力が更に飛躍していく事を。海軍は39年から既にそれの基礎研究を行なっており、噴進砲が戦艦と空母に積まれているが、後世のモノに比べればおもちゃのようなものである。


「イージス艦か。金剛の名が受け継がれたというが……どうもあの艦橋の形は好きになれんな」


小沢治三郎は軍艦に国ごとの個性が現れている、この時代の人間である。それ故、旧史で段々機能重視を突き進めていく内に、どの国も殆ど差異がない形状へ行き着いてしまったイージス艦は好きになれないようである。最も「どれがどれだが分からない」という彼の個人的感情も入っているが。そんな最中、水雷戦隊の予想外の苦戦が軽空母の偵察隊から通報されてきた。


「し、司令長官!!大変です!!」

「どうした、何があった」

「は、ハッ。水雷戦隊の巡洋艦群に予想外の損害が出ています」

「何ィ!?」


小沢は偵察隊(旧式化した九七式艦攻の転用機)からの無線通信が返信できる瑞鶴の通信機設置場所(瑞鶴の改装の際に設けられた戦闘指揮所内)へ急ぎ、足を運ぶ。


そして、無線の通信機を受け取り、偵察機の搭乗員からの通信に答える。


『こちら小沢だ。何があった』

『長官、敵キーロフ級の前に水雷戦隊が予想外の苦戦を強いられております。既に駆逐艦三隻が没し、二等巡洋艦も数隻が火災を起こしております!』

『田中君の超甲巡は!?」

『健在です。撃ちあっておりまして、敵旗艦の同型艦を今しがた落伍させました』

『そうか……。二等巡洋艦の早急の更新が必要だな。それで、やられた二等はなんだ』

『視認できるかぎりでは長良と名取です」

『ううむ……侮りがたしだな……。火災は消し止められたのか?』

『いえ、まだ燃えてます』


小沢は通信でため息とソ連海軍の奮戦と、日本軽巡洋艦の脆弱性にため息を漏らす。諸外国のものよりダメージコントロール研究が遅れている故の損害の大きさを嘆く。

5500トン級軽巡は日本のダメージコントロール術の未熟さを露呈してしまった。旧型艦艇とは言え、ダメージコントロールに苦慮するようでは先が思いやられてしまう。


小沢はこれで、ダメージコントロールの研究の重要性をより痛感。呉に帰港したらこの戦闘の様子を造船関係者に伝える事を決意し、航海日記に書き記したという。これは日本海軍全艦艇に不燃性塗料などが全面的に普及するきっかけとなり、塗料塗り替えを渋っていた艦政本部も動くこととなったとか。





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