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蒼空の連合艦隊  作者: 909
第二次世界大戦~第一幕 対ソ戦~
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第五十話「眼下の敵」

帝国海軍海上護衛総隊対ソ連部隊戦(第三九話「日本初 対潜空母の誕生」の続編)です。

史実のマリアナ沖海戦での敗将であり、味方側には愚将とも言われる小沢治三郎。彼は自らの態度を改めるようにしていた。マリアナ沖海戦での馬鹿なほど(機動部隊の生みの親でありながら航空戦を理解していなかった旧史に於ける自分を客観視して)の愚手を切ってしまったこと、航空への理解が薄かった自分を恥じ、この新史に置いては航空関連知識を猛勉強し、1944年時には空母機動部隊の指揮官として成熟していた。そして部下への態度もできるだけ改めた(これは戦後にある元赤城乗員が小沢を一般将兵の気持ちが理解できない男だと批判した事が小沢本人に告げられ、彼自身、それに衝撃を受けたため)。


(この儂は旧史で多くの部下を死地へ旅たせてしまった。しかも戦果をろくに挙げられぬ状態で……無駄死にだと批判されても仕方がない。できることはその償いだ)


彼は旧史マリアナ沖海戦で空母「大鳳」、「翔鶴」などの母艦航空隊に全滅に等しい損害を受けさせてしまったのに、敵には出血を強いることができなかった事を気に病んでいた。

それを知ったのは1942年頃。`起きていない`未来での事だが、小沢は自身の航空戦での未熟さが多くの将兵を死に追いやった事に恐怖した。それ以降は水雷の要領で考えていた頭の転換を進め、空母機動部隊に関する知識を猛勉強し、それを実践。今では山口多聞と並び称されるまでになっていた。


「飛龍と蒼龍を護衛本部に貸しだしたが、うまくやってくるだろうか。」

「大丈夫ですよ。新鋭機と熟練搭乗員は上手くやってくれます」


彼は前線での一線空母機動部隊の指揮官であるが、裏方の空母部隊の事も気にかけていた。

ソ連戦では海上護衛総司令部が血の犠牲のもとに任務を遂行しているからだ。今年(1944年)の2月からは、麾下の正規空母の内、何隻かを航空護衛任務の熟練度の完熟を名目に護衛本部に貸し出している。1944年以降、護衛本部に優先して配備されているのが最新鋭の改夕雲型駆逐艦である。帝国海軍はこれをF情報に則り、改夕雲型は総合的戦闘能力の強化に主眼が置かれて建造された。同盟国の大英帝国から対潜装備「ヘッジホッグ」を提供された事も手伝い、建造は促進された。1943年末に起こった同本部所属の対潜艦隊の初陣ではまだヘッジホッグは一部新鋭艦に装備されているに過ぎない装備であり、潜水艦刈りには相当の苦労を強いた。その反省点を生かし、帝国海軍は軽空母を`対潜空母`へ分類変更し、新規建造を行なっている。(艦載機大型化による一線空母の大型化も起こっていたせいもあるが)







―1943年末 海上護衛総隊所属駆逐艦「江風」 艦橋


「艦長、ソ連潜水艦は上手く逃げまわっております」

「わかっておる。僚艦と協力して`アカ`共の頭に爆雷を食らわすのだ。冲鷹に魚雷を食らわせられた礼をしてやれ」


彼等はこの時点の日本軍では厳重な対潜監視を行なっていたつもりであったが、ソ連側に掻い潜られ、空母に一発食らわせられた。一杯食わされた駆逐艦側としてはお礼をしなければ気がすまない。海域を血眼になって捜索に当たっているが、かれこれ4時間になるが、一向に捕捉できない。他国に比べ、性能が悪いソ連製の潜水艦でここまで自分らを手玉に取るのは何者だと考える。


「艦長、ソナーに捕捉しました!!方位!東南西」

「よし!!急行せよ!!」


江風は34ノットの速度で現場に急行し、爆雷投下準備を始める。この時期に竣工し始めていた改夕雲型とは違い、搭載量を多くしただけの旧来の爆雷しか搭載されていない白露型ではこの種の任務の精度には限界がある。搭載している30発の内、8発を投下する。


「大盤振る舞いだ、当たってくれよ」


要員達は一気に投下される爆雷に運を託す。ヘッジホッグ開発以前の対潜戦闘はこういう確率論も含まれる。ヘッジホッグも確実では無く、命中確率が信頼できるほど高い兵器は後世の対潜ミサイルを待たねばならない。




投下された爆雷は水中へ沈降していき、ソ連潜水艦を脅かす。ソ連潜水艦はドイツUボートのように無音待機はできないが、指揮官によっては駆逐艦を狩れる。それを証明するかのように、8発の爆雷をやり過ごす。


「……どうだ?」

「終わったようです」

「よし、さっきの軽空母に止めを刺す」

「艦長?」

「日本の対潜能力ははっきり言って低い。先ほどの攻撃もそうだ。ジョンブルなどには遠く及ばん。やはりJAPはそこまでの人種よ」


彼は生粋の潜水艦乗りであった。そのため、匠に日本艦隊を翻弄した。ソ連では潜水艦は沿岸警備用が主であったが、今回の任務にはそれらの区別もなく動員された。その内の比較的練度の高い艦が彼の座乗艦であり、冲鷹に一発ガツンと当てたのもその艦であった。



「艦長、爆雷は当たらず!!敵潜水艦は空母に向かっています!!」

「何!?露助にそんな腕のいい艦長がいたとは……!雪風と時雨に打電!本艦とで奴を追い込む!!」


日本側は爆雷が外れた事への衝撃と、飽くまで貪欲に空母を狙う赤き海の狼に戦慄する。彼等は帝国海軍の中では比較的年式の新しい「白露型駆逐艦」で追い立てているもの、元来艦隊決戦用に造られたためにその性能的限界を露呈してしまった。(それでも第一線部隊にさえ、未だ大正年間建造の老朽艦である、峯風型駆逐艦や神風型駆逐艦までもが残存している状況では恵まれている編成であるが)



この戦闘の経過は後に日本を震撼させ、空母と戦艦重視であった建艦計画に一石を投じ、最新鋭の改夕雲型駆逐艦、対空護衛用の改秋月型駆逐艦という二大最新鋭駆逐艦群の一大建造を促進させるのである。



-白露型とソ連の潜水艦との戦いはまだまだ続く。



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