第三八話「閃電、煌く」
閃電の活躍です。
―1943年現在、日本が実用段階、もしくは開発中・戦力化中の戦闘機は両方合わせておおよそ11機種あまり。実用機として稼働中なのは「二式戦闘機`鍾馗`三型」、「零式艦上戦闘機二二型甲」、「十四局地戦闘機`雷電」、「三式戦闘機`飛燕`」、「五式戦闘機`飛燕改`」「十七局地戦闘機`閃電`」の6種類。戦力化中なのは初のジェット戦闘機の「六式戦闘機`火龍`」(正式採用後に六式の名を頂いた)。開発中なのは「四式戦闘機`疾風`」、「十七艦上戦闘機`烈風`」、「十八試甲戦闘機`陣風`」、「強風」からの派生の「紫電改」であった。
―日本 三菱重工業
「零戦はあれで最終生産型なのに、何で今更マイナーチェンジをまた?」
「零戦の九九式20ミリは他の機種と弾薬の互換性が無かったからな。マイナーチェンジと言っても改造キットによる簡易的なもんだよ」
零戦の主力装備「99式20ミリ機銃」はマイナーチェンジを重ねてきて使用され続けたもの、他機種にホ5などが採用され始めた事で弾薬などの互換性が問題となっていた。それを解消するために日本軍は鍾馗三型との互換性を重視してホ5へ機銃を換装するための改造キットを三菱に造らせた。それは零戦の最後の姿であり、戦う翼としての能力を失いつつあるも、零戦が軍に愛されているゆえに後継者達が登場しつつあっても第一線で戦い続けているための措置でもあった。これは旧史で零戦が後継機に恵まれないがために最後まで第一線機であり続けたのと似ていた。
「零戦ほど愛された機体はそうはないんじゃないか」
「ああ。戦闘機のスパンは戦時中だと短いし、旧史の米軍は3世代ほど変わってるからな」
「`ベア`か。あれが米軍レシプロ機の頂点だったっていうが……不運な機体だよな」
「ジェット戦闘機の前にはレシプロ機はおもちゃに等しいかんな……ベアはジェット戦闘機に移り変わる時期の登場だったし、相対すべき日本軍は既に無く……哀れだぜ」
彼らは新旧史双方を第一線機として活躍を見せた零戦の愛され方に嬉しさを見せつつも、米軍機が世代交代を繰り返してたどり着き、最終的に生み出された機体―レシプロ機の頂点の一つとなるはずであった―F8Fベアキャットがとうとう米軍自身の手で使われなかった事に同情していた。彼らはF8Fが自らが旧史で死産に終わった烈風と似たような運命を辿った(ベアキャットは実戦投入されたが、米軍によるものではない)のは、`旧史で死産に終わった烈風の執念のようなものだったのだろうか`と考えた。旧史の日本は工業力が貧弱だったがために必要とされた時期に必要な機体を送り込む事ができ無かった。それはマリアナ沖海戦での大敗北の要因を担った。米軍は日本には無かった工業力がある上に、基礎的体力が高かったせいで贅沢をしすぎたといえる。資源が`欲しくてもない`がために万能機を作るしかない日本、個別特化機をいくらでも持てるアメリカ。間に合わずに終わった烈風と完成したベアキャットはその違いが現れた例だろう。
「烈風はどうなんだ?」
「ああ、ハ43の改良タイプにするようだ。大型化は避けられないがね」
彼らは烈風の試作を必死に行っていた。今日は模型による風洞試験の日。設計図通りに模型を作るのも一苦労がいる。模型は`大型化した零戦に疾風、流星の逆ガル翼のエッセンスをかけた`ような感じのもの。風洞試験は航空機の実用化までには必須であり、コンピューターのシュミレーションなど無い時代においてはこれが唯一の実験法でもあった。
施設には堀越二郎技師を初めとする面々がいた。ロールス・ロイスの面々も中に混じっている。日本が手塩にかけて生み出すという烈風に興味があるのだろう。日本最後のレシプロ戦闘機になるであろう機体はイギリスの援助も加わってじっくりと育てられていた。
「それでは実験を開始します」
一同は大きいある一種の筒の中で空気の流れを測定されている烈風の風洞模型の周りの空気の流れを見る。閃電の時よりは幾分楽な(烈風は常識的な形であったので、測定も閃電より楽)仕事だ。
こうして、烈風は生み出されていく。烈風は吹くのだろうか。
-フィンランド
「うひゃあっ!!やっぱ零戦じゃ振り切れんか!!」
Yak-9の追撃に焦りを見せる遥。 Yak-9はカタログスペックはU型で時速675キロの速度を誇る。航続距離は日本機とは比べるまでもないが、速度は脅威である。Yak-1の後継機として配備が始まり、前線の荒鷲共も手を焼いている、ソ連期待の戦闘機。ソ連にもベテランやエースが出始めている以上、雑魚とは
言えなくなってきている。左捻り込みで何とか20 mm機関砲の火線を躱す。旋回性能がピカイチな日本機でなければ、撃墜されていただろう。
「左捻り込みもそうそう使えん。さて……どうする?」
遥の零戦二二型の燃料は長距離偵察任務の都合上、半分以上を消費しており、帰還に必要な量しか残っておらず、全力運転は燃料切れを起こしてしまう危険性がある。援軍が快速で向かったそうだが……。
「五式戦闘機はたしか金星じゃなくってマーリン積んだ型も作られたはず……それか?」
川崎が産み出した五式戦闘機は金星を積んだ型に加えて、マーリンエンジンを積んだタイプも造られていた。フィンランドに送られてきたのは英国軍機との整備の利便性の兼ね合いでマーリンタイプのはず。閃電が主力というので五式はその護衛だろうか。閃電は初期生産機が送られてきたので数も少ないはず。五式が護衛扱いというのも変だが。
「……ふう。助かった」
遥はレーダの反応を確認すべく、回復した2.0の視力で地平線の先を見通す。すると20機前後の編隊が近づいてきた。閃電は5機で、後は五式戦闘機が見える。危ういところを脱することは出来たと安堵する。
「こちら南郷茂男大尉。おまたせしました、参謀」
「南郷か、恩に着る」
南郷茂男とは史実でも「ニューギニアは南郷でもつ」と言われたエースパイロット。兄は南郷茂章少佐。兄弟でエースというのも凄い。彼は本国の343から転属し、着任したばかりのはずだが、即出撃したらしい。三式空二号無線電話機(三式空一号無線電話機の改良型としてこの時期から配備開始された航空無線)越しから伝わる声に安心感を覚えつつ、九死に一生を得る形で遥は帰途についた。
「閃電がもう接敵したようです」
「はやいな」
「700キロ出せますからね」
閃電は局地戦闘機という触れ込みなので、一撃離脱戦法が得意だ。推進式の特異な機体がソ連機に痛打を与える。一撃離脱戦法を駆使する閃電にエカテリーナ・ブダノワらは狼狽する。日本の変な新型機はYak-9以上に速いからだ。
「は、速い!」
「日本も新型を投入した……!ゼロとは違う……」
彼女らは日本の奇妙な新型機に戸惑いつつも何とか対応する。しかしもはや赤軍の撃墜王といえる自分やリディア・リトヴァクはともかくも、他の面々は物の役にも立たずに撃墜されていくのが見える。
折角の高性能も新兵では引き出せないと見える。
「どうするリディア」
「ジークの偵察は妨害出来たし、いちおう目的は達した。引き上げましょう、空戦が任務じゃないしね」
「了解。アイツの相手は任せたわよ」
リディア・リトヴァクは任務の目的は達したと判断、部下たちなどにに引き上げるように無線で伝えると、物凄いスピードで接近してくる新型機を向かえ撃つ。お互いに正面きって機銃を撃ちあい、すれ違う。20ミリ機関砲と30ミリ砲の火線が入り混じり、交錯する。
結果は閃電の30ミリ砲がリディア・リトヴァクの機体に風穴を開けた。構造が木造であったのが幸いし、まだ飛行はできそうである。取り敢えず撤退はできそうだ。木造であったのが功を奏したようだ。安堵し、戦場から離脱する。
彼女は後にこの時に相対した新型日本機を後に「侮りがたし」と評したという。こうして、閃電はその威力を振るった訳である。フィンランド部隊にとっては嬉しい一報であった。ただし、遥がもたらした報告は雲行きの怪しさを伝えていた。
-クレムリン肝いりの大攻勢作戦「バグラチオン作戦」は間もなくであった。スターリンの意気込みの怒号は軍をも動かしたのだ。
「フィンランドを踏み潰せ!!親衛重戦車大隊を総動員しても構わん!!同志諸君、奮起せよ!!」




