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蒼空の連合艦隊  作者: 909
第二次世界大戦~第一幕 対ソ戦~
37/64

第三三話「陸奥の爆沈」

戦艦陸奥の爆沈事件です。

 -歴史の釣り合い取りというのはかくも恐ろしいものである。


-戦艦「大和」


「お、おい!アレは……」

「主砲弾用九三式一号装薬の爆炎だぞ!!」

「あそこにはたしか陸奥が……まさか!?」

「陸奥が沈んだっていうのかよ……!松田艦長に報告してくる!!」

「あのさ、おれ……なんか主砲塔みたいなのがぶっ飛んだの見たぞ」

「そりゃ間違いない!!」




望遠鏡で海を眺めていた兵たちは信じ難いものを目撃し、艦長に報告した。それは日本海軍最大のショックと言われる事件の光景だ。轟音と共に一隻の戦艦が真っ二つに割れて轟沈していく。その船は長門の妹の陸奥である。三万トン以上の大艦があっさりと真っ二つになり、海の藻屑となっていく。



-大和 艦橋


「連合艦隊司令部に打電……`陸奥、爆沈ス`だ……」

「はっ……」


大和の艦橋は静まり返っていた。兵たちから陸奥の爆沈が報告されたからだ。皆、あまりのショックに放心し、目がうつろだ。連合艦隊旗艦を長門ともども二〇年努め挙げた艦がこのような最期を迎えたのはショッキングであり、下手をすれば鎮守府長官レベルの首が飛びかねない事件になるのは間違いないい。戦艦「大和」はこの時、「陸奥、爆沈ス」と打電。報告を受けた連合艦隊司令部は困惑に襲われた。そのパニックによる通信は米軍もキャッチし、「日本の長門タイプが一隻事故で沈んだ模様。日本軍は大変混乱している」と本国に打電された。




こうして、1943年に日本は思わぬ事件で戦艦を一隻失う事になってしまった。旧史同様に戦艦「陸奥」の爆沈事件が起きたのだ。原因は不明。この事故に連合艦隊司令部は混乱したもの、取り敢えず旧史とは別の方向の対処法である「事件の公表」を選んだ。旧史と異なる状況なために一般人も多数目撃していたためだ。


「本日、参謀本部より発表。我が帝国海軍軍艦`陸奥`が原因不明の事故で沈没した模様。なお原因は不明である模様で連合艦隊司令部も困惑しており……」


ラジオのニュース速報で流れたこの報は国民を悲しみに包んだ。大正期より長らく連合艦隊、いや日本が世界に冠たる海軍国家として成長した証として、海に君臨した軍艦がただの一度も敵と砲火を交えること無く爆沈したというのはまさに悲劇で、同盟各国も弔意を示すなどの敬意を示した。陸奥を失った事で戦艦部隊の戦力の低下が大きいと踏んだ日本軍は陸奥の代艦として超大和型戦艦をもう一隻建造する事を決定し、44年度予算で認可されることになる。



-連合艦隊旗艦「甲斐」(完成した大和型の`3番艦`。本当は4番艦であったが、信濃が空母へ改装されるので繰り上がった)


「陸奥がまさかああいう最期を遂げるとは……歴史の釣り合いというのはかくも恐ろしいな」


山本五十六は陸奥の最期に旧史との多少なりとも釣り合いは取られる事にどことなく怖さを感じていた。そうなると対米戦での戦い-特に重要な戦であったミッドウェーなど……-では損害は覚悟しなければならない。


「これが釣り合い取りというものでしょうな。多少なりともそういう力は働くというものでしょう……ソ連戦はこの歴史独自のものなのでそういう事は心配ないのですが……大東亜戦では用心しましょう」

「ああ、それがよさそうだ。特にミッドウェーやマリアナにはな」


その2海域は日本軍にとって鬼門とも言うべき場所。命運を決めた海域といっても過言ではない。その2つの戦いでの敗者であるためか細心の注意を払う必要があるのだ。


「対米戦は近い。何としてもそれまでに疾風や紫電改を戦力化しなくては。露助は歯牙にもかけなくてよいが……」


ソ連はいずれ攻勢をかけるだろうが、冬将軍が来れば彼らとて、やすやすと行動はとれない。それに寒さになれれば冬将軍とて怖くはない。13世紀位にモンゴルが攻勢に成功した例があるからだ。軍備も寒冷地仕様にすれば行動は阻害されない。なので連合軍は全力でその例を研究中であり、たとえ攻勢ができなくとも守りに徹していればスターリンとていずれ持ち駒は尽きる。海軍に関してはソユーズ級以外は歯牙にもかけなくていい。問題はその後の対米戦だ。次世代型航空機がぼつぼつ出現し始めているのでは多分開戦して一年もすれば機種の更新は終える。次世代型の登場に手間取っているようでは旧史の轍を踏んでしまうのがオチだ。



「ハ43は全力運転試験段階です。双方の試作機も70機を超え、熟成を行っております」

「周辺技術の成熟を急がせろ。誉の悲劇は繰り返させるな」


誉が実力を発揮できなかった原因は数多あるが、その内の一つにエンジンの周辺技術の成熟度がエンジン本体に追いついていなかったというのがあり、欲をかいて無理をさせすぎた結果、年を追うごとの稼働率低下を招いた。それは旧史ハ43とて同様だった。それを避けるには整備体制の強化・生産工程の効率化・構造のある程度の余裕が必要である。さらに1500馬力以上のエンジン製造に慣れていないのが日本が2000馬力級の大馬力エンジンの開発に遅れを取っている原因であった。


「長官、露助の艦隊に動きが。」

「来たな。だが太平洋艦隊は貧弱だ。黒海艦隊などの別艦隊の艦挺を動かさねば我々には抵抗できん」


それはソ連艦隊の実情だ。ソ連海軍にはかつて栄華を誇ったロシア海軍の面影は無く、今や完全な沿岸海軍の様相を呈している。外征海軍を持つ日本との差は潜水艦以外の艦艇では大きい。

ソ連の戦艦は第一次大戦前のガングート級に加えてソビエスキー・ソユーズ級だが、後者以外は雑魚にすぎない。さらに空母を持たない。水上艦艇での戦闘なら余裕で打ち勝てるが、問題は水中だ。ヘッジホッグや新型ソナーがまだ駆逐艦や巡洋艦に十分に行き渡っていないのに戦えば`海中の鮫`に食われるだけだ。


「ハンターキラー艦隊の訓練は?」

「充分です。夕雲型の改装、編入も順次終了し、明日より日本海での対潜哨戒に取り掛かります」


日本軍は駆逐艦の対空・対潜能力を大急ぎで数カ年計画で強化していた。そこで建造中、就役していた中で新式の夕雲型や陽炎型を中心に行い、完了した艦で対潜哨戒部隊を護衛艦隊に先駆けて編成。先月に艦隊行動を取れるまでになった。旗艦は幸運を買われて陽炎型の「雪風」が拝命されている。


「出港のようです」


大和型などの表立った軍艦などからも見える駆逐艦達の出動。護衛のために飛鷹型空母も秋月型を伴って訓練も兼ねて出動する。空母2隻を中心にした陣形を組んで出動する光景は壮観だ。爆沈事件の後とは思えない。


「陸奥の将兵のためにも上手く事を運びたいですな」


山口多聞はそういうと手を合わせ、陸奥の冥福を祈った。


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