第一七話「第二次世界大戦開始」
-それは避けられない運命か、太平洋戦争へ突き進む日本は戦時体制を整えていく。だが、同盟国には史実のイタリアやドイツに加えて米国の`母`たる、英国が加わっているのが最大の違いだ。日本と再び組む事になった英国は日本からの技術交流により建造中のライオン級戦艦などに日本のもたらした技術を反映。ワシントン軍縮条約の形骸化に伴って、大きさなどが変えられ、50000トン級戦艦に拡大され、主砲は42cm砲と変えられた。それの見返りに航空エンジンなどの技術が日本に渡っていった。その成果は現れ始めていた。
-1943年 フィンランド
「ブァグションッ!!……うう。寒い。これだから北国は嫌なんだ」
この年から遙は連合艦隊からフィンランドへの軍事顧問団に転属となり、参謀として着任していた。陸海空三軍の部隊を抽出して派遣された軍事顧問団は機甲師団や航空部隊など
が主であった。航空部隊には`零戦虎徹`の異名で後世に名を残す岩本徹三や吉田好雄、若松幸禧などが配属されており、機は当時最新の零戦二二型や二式単座二型の寒冷地仕様
、空技廠が半ば強引にねじ込んだ`十三試艦上爆撃機`の先行量産機や中島が完成させた`十四試艦上攻撃機`などで固められていた。
「露助のこの時期の戦闘機は確かYak-1への更新が始まっているはず。零戦とは戦ってみないとわからんな」
この世界での零戦はこの時点で既に時速580キロの高速を得ているが、ソ連機はドイツ軍をも苦しめている。結果がどう出るかは誰にもわからない。もはや史実とは歴史は離れ始めたのだから。
「守勢だから相当の準備が必要だが、君はどう思う」
軍事顧問団の団長であり、史実で守勢の戦いで武功を残した「中川州男」大佐が遙に質問をする。数年間の近代化で以前(支那事変)より遙かに装備が充実した日本軍だが、物量はフィンランドやドイツ軍の部隊と合わせたとしても遙かにソ連軍の優勢なのだ。それを迎え撃つには相当な策を寝る必要がある。陸軍や海軍・空軍の垣根にこだわっているようでは史実同様にシベリア送りにされるのがオチだ。
「ハッ、こうなっては陸・空の立体作戦しかありません。幸いこっちにはカール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム閣下がおられます。歩兵などにゲリラ戦法は徹底させてますね?」
「ウム。閣下の部隊直々に訓練してもらったから練度も士気もすこぶるいい」
「航空部隊には掃射などの地上援護を。制空部隊には爆撃の支援も行うように通達を」
「あいわかった」
彼らに別の部屋に設置された電探担当人員からの報告が入る。電話越しの声が上ずっている。どうやらビンゴのようだ。
「宣戦布告から数時間ですが、電探に反応があります。ソ連の航空機と思われます」
「ご苦労。航空部隊に緊急発進を許可する。通達を」
「ハッ」
彼の副官の一人が伝令に走る。外には寒冷地塗装の飛行機の姿が見える。史実ではここまでの寒冷地に日本軍は進出しなかった。歴史が変わった事が妙実に分るというものだ。
ややあって金星エンジンの音が響いて来る。これが`第二次大戦`最初の空戦となるだろう。中川州男は離陸していく零戦二二型を窓越しに敬礼をしながら見送っていた。
そして同時に陸戦での戦端が開かれた。装甲車や歩兵などの進軍を匠みにカモフラージュした各国軍が迎え撃つ。
「全車、一斉掃射用意!!撃てぇぇっ!!」
雪中に隠れた三式中戦車、一式中戦車三型、三号戦車、四号戦車などの混成機甲師団が一斉に主砲を放ち、スキー兵の射撃にソ連兵が倒れていく。ここに大戦の幕は切って落とされたのだ。そして進撃するソ連兵の背後に火の手が上がる。ソ連兵を怯えさせるドイツ軍による爆撃が開始された。そしてその第一陣を務めるJu 87を駆るパイロットの名は「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」であった……。