第一六話「川西飛行機と中島飛行機の血と汗」
久しぶりに更新しました。
-日本軍は航空機の近代化に力を入れていた。1942年の段階で設計段階に入っていた`キ84`とN1K2-Jは現時点で最も実用化が近い次世代機であり、最重点機種であった。
-川西飛行機
「最初から欠点が分るというのもなんか変な話だ」
同社の設計技師であり、史実でも紫電改などを設計した菊原静男技師は海軍から出された次期主力戦闘機の一つ`紫電改`の設計図を基にさらなる是正に取り掛かっていた。発動機が史実の`誉`より大型のハ42に指定されたため、誉用の機体の改良型を作ると、機体規模が大きくなるからだ。航続距離の延伸も可能になったのはうれしい誤算だが。
「武装は30ミリ砲4門、防弾も強化するとして……」
史実での武装は近いうちにパンチ力不足になるのを認識していた彼は海軍航空技術廠などの部署に搭載火砲の開発協力を依頼。それを聞きつけた同盟国であるドイツは技術提供協力を行い、MK 108 機関砲を長砲身化したものがラインメタル社の日本進出と引換にその製造技術が日本に提供された。史実では局地戦闘機として作られながら、零戦の落日によって本来の開発目的とかけ離れた「制空戦闘機」の任を負うことになってしまった紫電改は本来の局地戦闘機として、正しく産声をあげつつあった。武装・信頼性・運動性などの全ての点で史実のそれとは別機と言えるほどの性能で……。
「紫電は私が生み出す最高の飛行機にして見せる」
それは史実で飛行艇の設計者として名を残した彼が紫電という戦闘機を作った事は余り知られていない事を覆さんとする意気込みだった。紫電改が米軍の調査で結果的に海軍最強の称号を手にした史実を変えるべく……。そして三菱の烈風の登場まで十分モデル寿命を保てる性能を持たせるために……。
―中島飛行機
こちらではキ84の開発に取り組んでいた。空・海軍の次期主力戦闘機の契約を結ばれた中島飛行機は意気往々と史実の設計を基に是正と艦載機としての再設計を行っていた。一撃離脱戦・巴戦双方に対応可能な機動性・機体構造の頑丈さ・600キロ台の速度を両立させるべく策を練っていた。設計的に言えば、現有の鍾馗の発展型なのは彼らの方向性が正しいことを示していた。
―史実では陸上機として運用されたキ84を艦載機運用が可能なように改良する。`着艦フックを装備しりゃいい`という後世の中途半端な知識を持つ人間達は言うが、実際はそれ相応の空母運用用に改良を施さないといけない。翼の折り畳み機構、着艦に耐えうる強度の機体構造や主脚など……。折り畳み機構は米軍のものを模倣する形となった。(史実での米空母の多量航空機運用への対抗心もあるが)
軽空母で一線機を多く格納するには役立つ。
「ふふふ……見ていろ米軍。お前らがやった方法を使ってギャフンと言わせてくれる」
中島飛行機ではこのような言葉が飛び交っていたとかいないとか。戦闘機部門の大口契約を勝ち取った彼らだが、既に戦略爆撃機の開発が極秘で始まっている。`富嶽`。日英独を挙げての一大戦略爆撃機開発プロジェクトで創りだされる3カ国共通機。その開発者の日本代表として彼らは参加していた。
3国の航空技術の結晶はB-29とB-36を超えられるのか。
「我が中島飛行機の血と汗の結晶`富嶽`。必ず米軍を打ち砕けよ」
中島飛行機創立者「中島知久平」は富嶽に社運を賭けていた。富嶽さえ完成出来れば、最前線からB-29の製造工場は愚か核兵器の研究施設があるロスアラモスさえ攻撃可能となる。核で広島・長崎・小倉のどれかを消滅させるという歴史上類を見ない暴挙を阻止するには富嶽による本土空襲が必要なのだ。
―米国が盟主となって、同盟国などを思うがままに操る世界などゴメンだ。日本は旧史でそれをやられたが、今度は我が帝国の足元にルーズベルトやトルーマンをひれ伏せさせてくれる。富嶽と疾風でな。
戦闘機開発の目覚しい進歩。そして連合艦隊内でここ数年に渡って行われている訓練「商船護衛」と対潜掃海」。駆逐艦などを中心にした対潜部隊の設立と対空戦闘の訓練。対潜兵器や対空砲信管の近代化などと同時に、海軍が取り組んでいる「対空砲火の統制管制射撃」。精度を増すにはVT信管の実用化が待たれるが、練度も重要だ。また艦に通達される情報量の増大に対応すべく、全艦に戦闘指揮所の新設が決定され、改装中だ。建造中の武蔵や空母には最初から戦闘指揮所が導入され、それに沿った運用が想定されている。事実、この時、史実でアメリカ軍が用いる戦法はもはや日本海軍の手中にあったのだ……。米軍はそんな事を知る由のないまま、史実通りかつ、予算の関係で遅れて軍備増強を行っている。エセックス級の建造はまだ行われておらず、旧型戦艦の代価としてノースカロライナ級を建造している段階だと情報部(戦争に当たって諜報力の強化が叫ばれ、41年度予算で既存の陸軍中野学校や東機関などを統合・拡大して設立した秘密戦部門)からの報告もある。
「ノースカロライナなど大和の敵ではないが……問題はアイオワやモンタナだ」
日本海軍は大和の火力を考慮し、ノースカロライナ級やサウスダコタ級はさほど脅威には見ていないが、集大成となるアイオワ級やモンタナを恐れていた。特にモンタナはその性能は一般人にも知られており、長門や陸奥では到底勝てない大戦艦として有名であった。それ故に大和型の公表の是非が討論されていた。
「国民はモンタナを非常に恐れている。どうにかできないか」
「大和を公開しますか」
「馬鹿を言え。最新鋭艦を素直に……」
「しかしこのままでは国民の士気に関わります」
「うぅむ……」
「主砲などの性能は一部伏せて公表するしかないな」
討論は4日間ほど行われた。結果、その年の7月20日。火消しのプロパガンダも兼ねて、大和は『我が帝国海軍の新鋭超弩級戦艦」として国民に性能を一部伏せながらもお披露目され、新聞の一面を飾った。
その際のある新聞記事の煽り文句は「新戦艦の名は大和。海軍期待の大戦艦竣工ス!」だっかとか。