第九話「初陣 中」
久しぶりに更新です。ショートショートです。話数を替えました。
-零戦と鐘馗の航空隊は米軍義勇航空隊との交戦に入った。この2種は史実の大戦中期以降に施されるはずの改良が初期段階で施されたために大戦中期レベルの性能を有した。
この当時の戦闘機としては強力な部類に入る20ミリ機銃を装備し、さらに防弾も施されたこの2種は正にこの時期では最精鋭の機体と言ってよかった。機銃については2つの形式が試されていた。海軍機の九九式二〇ミリ機銃(隊長機には九九式二〇粍一号機銃3型相当の物が装備されている)、陸軍機系の一式十二・七粍固定機関砲の後継モデルと目される二式二十粍固定機関砲の試作型。前者が主に装備されているが、一部は後者が装備されている。いわば新兵器の実験のようなもので、戦果を多く挙げた方が空軍(統合航空隊)の制式装備になるのだ。
制空権確保のために米軍義勇軍と交戦に入った部隊はその機動性と火力で米軍を圧倒した。
「くそっ!!JAP共の分際で……チョコマカと動きやがる」
F2Aバッファローのパイロットは現行のClaude(96式)の後継機であろう日本の新鋭機の神がかり的な機動性(この零戦は史実の零戦21型が32型のスピードを持ったような特性を持つ)を発揮し、自分たちを翻弄するのに苛立ちを募らせていた。国民党空軍との戦闘で鍛えられたらしく、見事な編隊機動の動きをみせている。見とれている間にも、目の前で僚機がまた一機火を噴く。どうやら敵は自軍の機銃より大口径の機関砲を装備し始めたらしい。
「クソッタレめ!Claudeとはケタ違いの火力じゃないかよ」
彼は日本機の大火力に思わず悪態をつく。敵新型機は96式や97式などの従来の日本機の弱火力を覆す威力を発揮している。たかがJAPと侮っていてはこちらが落とされていく。彼は部下に直ぐ様指示を飛ばす。
こちらは日本側。空戦は大まか優位に進めることは出来ているが、思わぬ盲点が発見された。それは主に零戦に装備された九九式二〇ミリ機銃で起こった。
「くそっ!!もう弾切れだ!」
これはこの時期に生産された九九式二〇ミリ機銃初期型特有の欠点で、低初速・敢行弾数が少ない(史実よりは幾分マシな弾数だが)のが欠点であった。機体の性能はどうにか出来ても武装は全体的にはまだカバー出来なかった。それが物の見事に露呈したのだ。飛行時間1000時間以上の熟練者は無駄弾を出さずに命中できているが、経験不足の若手搭乗員、特に増員として本土から送られた新兵にすぐに弾を撃ち尽くす傾向が多く見られた。
「……こりゃ上に文句言わんといかんな」
零戦装備の飛行隊長は自らは一般機より弾の余裕があるとはいえ、20発しか残せていないことに苦い想いをしつつ、せめて弾を120発以上は敢行出来れば……とある意味贅沢な悩みを抱えていた。
「二番!!突っ込め!!」
「了解!!」
彼は僚機に無線で支持し、巧みに編隊を縦横無尽に動かす。こういう時に航空無線機は実に役立つ。新型に変わったことを感謝しつつ、バッファローの編隊を落とす。こちらの損害は若い連中の機体が被弾したのが三,損失はゼロ。対して米軍は当初の九機の内四機を喪失している。新型の初陣としては上出来だ。悔しいのは12試艦戦より鐘馗隊の方が緒戦能力は上で、数機の増援と一撃離脱戦法で戦っている。バッファローを手短に片付けて鐘馗隊の戦闘に馳せ参じなくては。彼は歯噛みして悔しかった。(これはエリコンの他に、一部の機体に史実で言うところのホ5の試作モデルが装備されていたおかげ。エリコン20ミリの初期型の敢行弾数は二桁に過ぎないが、ホ5はまだ制式装備前の試作モデルとは言え、史実の資料を基に作った為に敢行弾数に余裕があり、100発を越える。この効果により零戦より戦闘継続時間が長くなっていたのだ)
零戦&鐘馗の戦いはまだ続く。初陣は勝利で飾れるだろうが、武装に課題が残る一戦にはなるだろう。