第八話「初陣 上」
零戦や鐘馗の初陣編その一。歴史に変化があります。
―日本の航空開発は早いペースで進んでいた。零式艦上戦闘機は金星搭載型が`金星51型`搭載で1939年末に初飛行に成功。武装も栄より馬力の余裕があるために機銃の増設も可能になった。
まずは乙型がテストとして、中国戦線に送り込まれた。これが零戦が歴史にその姿をみせた瞬間である。
―1939年末 中国大陸のとある航空基地で`それ`は鎮座していた。次期主力戦闘機として配備開始された12試艦上戦闘機。速度540キロ(機体の設計と発動機の推力式排気管式への改良により速度が増した)、20ミリ機銃の武装と96式を遥かに上回る航続距離を持つこの機は39年当時の世界水準では十分に第一級の性能を持つ。また急降下性能も史実の五三型程度にまで強化されており、防御も一応は施されている。(発動機の馬力の関係で無いよりはマシ程度ではあるが)
これまでは重慶への爆撃の援護として働いていた戦闘機隊だが、支那戦線の拡大が止まり、満州国防衛の為に回される機甲師団(戦車師団)以外は撤退をする事になると撤退戦での制空権確保に駆り出されるようになった。日本が新型機の配備を始めた事を察知した米国の策略で、ソ連に提供されたり、義勇航空軍に前倒しで開発・配備されていたP-39「エアラコブラ」の大火力に96式艦戦などが思わぬ苦戦(練度の差で持たせてはいるが、穴だらけにされて飛行不能に陥る機体が続出していた)を強いられた。そこで零戦や鐘馗が切り札として本国から送られてきたわけである。
ちなみにエアラコブラ登場の報を受けた軍の反応は以下のとおりで、
遼も停泊中の赤城で知り合いの下士官からこの報告を受けていた。
「何ぃ!?エアラコブラだぁ!?」
「ハッ。支那にてP―39が確認され、九六式では苦戦を強いられています」
「アレじゃ37ミリ機関砲持ちには勝てないからな……よく損失出ないなオイ」
「我が軍の練度は高いですからね。なんとかそれで補っていますが……」
史実では零戦に翻弄されたエアラコブラだが、この歴史においてはなんと前倒しで完成・配備され、96式や97式を苦戦させている。何事も日本の思い通りには行かないという事だろう。日本軍にはいい薬だ。しかしエアラコブラが配備されているのなら、他の機種も一部は既に開発が始まっていると考える
しかない。
「まいったな……すぐに提督たちに報告しないと!こりゃ大事だ」
彼女はすぐに小沢治三郎にこの事を報告。そこからさらに山本五十六に、そして統合航空隊の塚原二四三にも伝わり、航空機メーカーの重役も交えての緊急対策会合が行われた。
「米軍が義勇航空軍にPー39を配備していたか。我々がこうして戦力向上に務めている以上、敵に察知されぬはずはない。たぶん向こうも対策を練ったのだろう」
「現有機では苦戦は免れません。早急な新型機の配備を兵たちは望んでおりますが……三菱の方はどうなのです?」
「現在12試艦戦の先行量産機が30機ほど完成し、急ぎ量産体制を整えております。我社としてはこの先行機を試験名目で支那に送れる準備は整っています」
三菱の重役がこう言うと、負けじと中島飛行機側も発言を行う。
「ウチも2式単座戦の量産機をすぐに軍に提供できます」
中島が三菱と完全に張り合っているのは明白だったが、今は一機でも多くの新型機が欲しい。軍側はこれを受け入れ、支那への補給物資として急ぎ手続きを進める事を2つのメーカーに確約した。
因みにその他のメーカーはまだ模型の空洞試験の最中だったり、エンジンが開発中などの理由でこの時の会合に出席できなかった。特に川崎飛行機と川西飛行機はそれぞれの新型機が完成すらしていないことを口惜しがったとか。
結果、12試艦戦と2式単座戦は制式採用内定の通知が出され、先行量産機がそれぞれ支那戦線の最前線の航空隊に実用試験名目で配備された。これら新鋭機は旧来の機体を遥かに超える性能を持っており、海軍空母航空隊・統合航空隊双方の希望の星と見なされている。米軍機などに思わぬ苦戦を強いられた航空搭乗員は編隊空戦の重要性を認識し、本国から派遣された武官などの講義を受けつつ、研究を重ねていった。
そこに新鋭機の配備は渡りに船だった。特に歓迎されたのは火力と航続距離で、九六式や九七式よりも長時間の作戦行動が可能という点が受けたのだ。生き残って、腕を上げた搭乗員達が操れば一騎当千とも言える強さを発揮できる。史実と異なり、編隊空戦を重視する日本軍航空部隊の攻勢での初陣が始まる。
「さて、いよいよコイツの出番なわけだが……」
基地内で搭乗員達は意気軒高と新鋭機への搭乗を選んだ。96式は敵新鋭機の前にはもはや旧式化は明らか。一式は元陸軍航空隊系の本土の航空隊しか保有していないので、零戦と鐘馗は航空隊の救世主なのだ。
「上は制空権の確保を命令しています。コイツなら敵に勝てますよ」
「何でも敵は`エアラコブラ`だそうだ」
「例の`零戦にやられた`奴が早めにでてきたんですね」
「そうだ。ウチらがこうして航空機の近代化に務めている以上、敵だってそれ相応の施策はするだろう。アレならこの機体の敵じゃない」
39年になると遼がもたらした未来情報はある程度閲覧が解禁され、兵士たちも制限付きだが閲覧が可能となった。理由は対米戦への備えで、兵士たちはそれぞれ敵の新型機と戦術への対策をするようになっていった。この航空隊は最前線で戦う部隊の一つで、`ロッテ戦法`の研究の役目を追っていた。そのため無線機は新型の18試空1号無線電話の試作機の試作機を導入している。
「管制塔から報告です。陸軍の連隊が敵編隊の襲撃を受け、救援要請を出しています。敵の機種はF2Aとの事です」
「バッファローか。こっちの方面には配備されていないと聞いていたが」
「おそらく対策の一環でしょうね」
「いいだろう。侮ってるメリケン野郎どもの鼻をへし折ってくれる。出撃準備!」
号令で各搭乗員は零戦と鐘馗に乗り込み、発動機を始動させる。
ここにアメリカ合衆国義勇軍と統合戦闘隊の直接対決の幕が開いた。アメリカ合衆国義勇軍に史実では支那に配備されていないはずの機種もある現状。何事も思惑通りには行かない事を日本軍は認識し、改めて兜の緒を締めた。
というわけで久しぶりに更新です。日本が行動すれば米国だって何かアクションはおこすだろうという事で、39年時点で登場している米軍機を
登場させました。