第98話:骨 1
樹液を三本そろえて彩花に持っていてもらうと、それ以外の荷物を俺と隆介で分担して持つ。これで、彩花の荷物は持ち帰り用の荷物、俺たち二人は換金用の荷物、ときちんと分けて荷物を持つことができた。
「さて、魅惑の骨エリアに行くか。生前は美少女だったかもしれない骨たちが薄着で襲ってくるぞ」
隆介のテンションが上がり、謎の表現によってスケルトンと戦うためのやる気を鼓舞させてくる。
「その言い方はなんだか癪に障るけど……面白い表現ではあるわね」
「隆介は骨でもいける口なのか。俺はもうちょっと肉付きのいいほうが好みなんだが」
「俺もどちらかというと骨よりは肉付きのある方が好みだな。ただ、自分の説得で骨から肉に変化させていくのも男の甲斐性のような気もする」
「幹也はどうなの? その……もうちょっとポチャッとしてたほうが好みなの? 」
彩花が自分の胸元を気にするように下へ俯きながら質問をしてくる。
「今の彩花が一番かと言われるとわからないが、他の彩花を知ってみるのも悪くはないと思う」
その質問に対し、耳傍で囁くようにして本人にしか伝わらない声でそっと告げる。彩花はその声に反応して少し赤くなり、聞くんじゃなかった……みたいな顔をしながら小さく縮こまっていく。
「ダンジョンの真ん中でイチャイチャできる余裕があるうちはスケルトンも安全そうだな」
しっかりと目撃している隆介を横目に、少し顔が赤くなった彩花と隆介を同時に見やり「そうかもな」とだけ答えてスケルトンの生息する方向へ進みだす。
そこからさらに数回のレッサートレントとの戦闘を終えると、明らかに空気がカラッと乾燥し、そして他の階層よりも冷たさがにじみ出てくる場所へたどり着いた。岩場だったダンジョンの風景も変わり、壁が石造りのような形に変化する。
「なんか雰囲気出てきたな。さながら地下墓地って感じだ。スケルトンが横向きに安置されていても仕方がないというか……さすがにそういうリポップの仕方はしないだろうから問題はないと思うが、とりあえず出会うまでは注意しないとな」
「まあ、すぐに出てくるとは思うぞ。そんなに出現数が少ない階層でもないはずだからな。どこで襲ってくるかがわかるまでが一区切り……と、そろそろ来るかな? 」
「何、聞き耳に反応でもあるの? 幹也」
「カシャカシャと音が聞こえる。明らかに人の歩く音ではない。そこの曲がり角の先だな」
指さした先から、見えはじめているモンスターの姿。シュッとした顔つきに剣と盾を持ったガリスケルトンの近接型が現れた。
「一匹だけか? 」
「そうみたいだ、落ち着いて対処していこう。三人で囲んで剣で叩けばいいだけだ、難しい作業は要らないぞ」
スケルトンが走り込んできて、隆介がスケルトンの剣を盾で受け止める。きっちり抑え込んで、盾で受け止めている間に俺と彩花が斜め後ろ側に回って、後ろからスケルトンを切る。切られたところから骨がポロリと落ちて、地面に転がる。そのまま二人で骨を少なくしていくと、ある一定数まで骨を切り落としたところで心臓部分に存在する核みたいなものを露出させることが出来た。
こいつを壊せば倒した判定になるのかな? と山賊刀を肋骨の隙間からねじ込み、核に攻撃を加えると、ビクン! とスケルトンが脈打つような姿勢を取る。どうやらこれを壊せばいいらしい。そのまま山賊刀を深く差し込み、核を割るような形で更にねじ込む。そして核が切断されると、スケルトンはバラバラになりながら黒い霧になって消えた。
「うん、盾役がいてくれると非常に楽だな」
「それは何よりだ。これで後は盾がちびらなければ言うことはないんだが……どうやら今の所心配はしなくて良さそうだな」
隆介が受け止めていた盾の調子を確認して、さっきの攻撃ですり減ったり凹んだりしていないことを確認している。
「後はもうちょっと楽に倒せるようになるためにはどうすればいいのかしら? やっぱり心臓のところにあった核を狙いに行ったほうが早いのかしらね? 」
「そうかも。何回か戦ってみて、最短手順で勝てる方法を探していくとしよう。しばらくは一匹で出てくるだろうし、二匹の場合は一匹は俺が抑え込むから、その間に隆介と彩花で抑え込んで一匹確実に倒すようにしてみてくれ」
二人はわかった、と声をそろえて言うと、次のスケルトン探しに入った。しばらく道を進むと、また曲がり角で鉢合わせになるような形でスケルトンと遭遇、隆介が盾を構えたまま体当たりし、吹き飛ばしたところを彩花が追いかけていく。
隆介のぶちかましで地面に倒れ込んだスケルトンの核を、彩花が直接剣で肋骨の隙間を縫うように刺して破壊、スケルトンを倒せた。さっきよりは時間がかからず倒せたが、吹き飛ばしの分だけ無駄が多かったかな。これを手前に引きこんでその隙間を狙っていく方がよりスマートな倒し方になっていただろう。
まあ、何にせよもう数戦やってみて最も効率的な倒し方というのを身に付けていくのも今日の探索のうちだ。拾える魔石はついでぐらいに考えて、のんびりやってみよう。
そのまま六層で一時間ほど戦ってみて気づいたのだが、レッサートレントもそうだがスケルトンも中々に魔石のドロップ率が良い。三割から四割ぐらいの確率で魔石をくれる。これ、奥へ行けば行くほど魔石のドロップ率が上がるような設計になっているんだろうか。もしくは、モンスターの強さと魔石の生成確率が正の相関関係を持っているのかもしれないな。これは後で調べよう。
今日はとにかくスケルトンでできるところまで深く潜ってみるのが目標だ。弓矢スケルトンやスキルを行使してくるスケルトンまで出会えればいいが、そこまで時間が持ってくれるかどうかはまだわからない。その前に時間切れで戻る必要性があるかもしれないしな。とりあえずここまで片道二時間ぐらいかかってるから……明るいうちに帰ろうと思ったら後二時間が探索時間の限界か。
「二人とも、清く正しいダンジョン生活を送るために、後二時間ぐらいで引き上げるつもりでいよう。あんまり遅くまでダンジョンに居座ると、夕飯の用意も必要だし、腹も減る。日暮れ後まで潜るなら潜るで、夕食の準備まできっちりしてから潜るべきだしな」
「確かにそうね。流石に今日は夕方で帰るつもりでいたから家にも夕飯は要るって言ってあるし、多少遅くなるとはいえ心配をかけるのも本心じゃないわ」
「まあ、俺の場合幹也のところで一泊してくると言えばそれで許可は下りるんだが……かといって遅くまで探索したからといって確実に儲かるわけではないからな。むしろ毎日コツコツ取り組むことのほうが大事だしな。今日のところはもう少しスケルトンを色々味わってから帰るとするか」
二人とも納得してくれたらしく、俺がタイムキーパーをやるからそのまま集中してほしいと言って聞かせる。スマホのアラームでおおよその帰る時間を指定しておいて、その間は探索に集中できるようにした。スケルトンは徐々に出現数が増えてきたが、今の所二匹までは同時に出てきている。
その内三匹四匹と出てくるようになるかもしれないが、その前にガリスケルトン以外のスケルトンがお目見えするだろう。とりあえずスケルトンが一匹しかいない時の対処方法は身に付けることが出来たため。今の所楽に探索を進められている。
「順調だな。このままうまいこと行ってくれると良いんだが」
「こいつって特殊なドロップとかないのかしら? 持ってる剣落としたりとかそういうの」
手が空いて丁度暇なので調べてみる。
「スケルトンは……特殊なドロップはないらしい。スケルトン全体に言えるが、スキルスクロールはともかくとして落とすのは魔石だけみたいだ。残念だったな」
「そう。でも、それはそれで荷物が軽くて便利だわ。下手に武器とか落とされて手荷物が多すぎて邪魔になるよりはよっぽどいいものね」
「そうだな。魔石だけって方がシンプルで、しかも金になるのが解ってるし、そこそこの回数戦えてドロップ率も高いと来ればこれ以上言うことなしなんだがな」
「ドロップ率も高いほうだから悪くはないと思うぞ。今日の稼ぎは……時間なりにまあまあってところじゃないか? 」
「そうか、なら一安心だな」
雑談しながら戦えるうちはまだ許容範囲で戦えてる、ということだろう。真剣に戦わないととてもじゃないが進めないならば雑談ではなく強気になるための軽口ということになるが、隆介はそこまでふざけた軽口を叩く奴じゃない、素直に厳しそうなら厳しいというタイプだ。
その隆介から苦情が飛んでこないということは、現状のスケルトンなら問題なく戦えるということだな。さて、またしばらく進むと今度はデブスケルトンが現れた。剣と盾の代わりに、とげ付きのこん棒を持ったちょっとスタイルがおデブにおなりあそばしている、スケルトンの変わり種だ。ちなみにこいつも同じく武器や防具はドロップしたりしない。安心して倒せる相手ではある。
隆介がまずは盾の耐久を確かめるためにデブスケルトンに接近して、一撃をわざと喰らって見せる。盾に当たる衝撃を確かめて、ふむ……と一人納得した後、二回目の攻撃を受けて、今度は当たった瞬間にはじき返してデブスケルトンの足元をおろそかにし、そこに足払いを仕掛けて転ばせる。隆介は自分一人でデブスケルトンの核を狙い綺麗に核を割ると、一人で倒し切ってしまった。
「問題ない感じか? 」
「得物が刃物じゃない分だけ恐怖心がないから、かえってやりやすいかもしれんな。殴られたら痛いのはどっちも同じだし、きっちり自分に向かってくるだけの攻撃を避けられるなら問題はないかも」
ふうむ……人一倍前面に立つ隆介がそういうならそういうものかもしれない。次のデブスケルトンが出てきたら試しに戦わせてもらおう。もしかしたら彩花でも一人で倒せるかもしれないし、ここで倒せるなら全力戦闘が出来る専用ダンジョンではより確実に倒す手段が講じられるということでもある。
もうちょっとだけ、スケルトンで色々試してみるか。
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