第96話:ケイブストーカーとドロップ品の困りごと
レッドキャップゾーンを抜けて、初めて足を踏み入れるケイブストーカーの存在する地帯。流石に他のパーティーはそう多くなく、十分なスペースとモンスターの数が期待できそうな感じになっている。
「さすがになりたて探索者が足を踏み入れることは想定外、ということかな。全然人いねえでやんの」
「レッドキャップもそうだったけど、一人で通り抜けるには少々勇気がいるってことかしらね」
「まあ、一人ならレッドキャップ地帯さえ抜けてしまえばオークとタイマン張って安全な探索が出来るからな。その点で言えば、まだなりたてほやほやなのは俺達もそんなに変わらないと思うんだけどなあ」
たしかに、潜り始めてからまだ三カ月だ。初心者と言えばそう。しかし俺と彩花に関しては初心者を大きく突き放すだけのステータスを持ってしまっているので、既にそういう意味では初心者卒業していてもおかしくはない、と言えるのではないか。
「さて、ケイブストーカーだが振動には敏感に反応するらしい。なので、怪しいところを見つけると……こんな感じで音を鳴らしてやれば出てくるはず! 」
俺がその辺に落ちていた石を壁に投げつけ、いい音をさせる。すると、音に反応してケイブストーカーが出てきた。どうやら天井に張り付いてこちらの様子をうかがっていたらしいが、目で見るよりも音で感知する方を優先するらしく、壁に当たった石の場所に向けて糸を吐き出していた。
「まさか真上とはな。しかし、これで戦いの形は決まった。俺が糸を巻き取って地面に落とすから、二人は協力してトドメ刺しに行ってくれ」
「わかったわ」
「おう、俺が盾役なのにそっちに体張らせてすまんな」
俺が糸を吐き出したケイブストーカーの糸を手に取り、軽く粘着質であることを確認する。そしてそのまま糸を巻き取り、無理矢理地面に打ち付けるように引っ張る。引っ張られた分だけ地面に落ち、着地こそまともにさせるものの、着地地点には彩花と隆介が待ち構えていた。
それぞれの得物を使ってケイブストーカーを穴だらけにしていく彩花と隆介。こうなればあっちも身動きを取り直すこともできないし、糸を切断して逃げようとするも、隆介の槍が胴体を貫通していて地面に貼りつけられている状態だ。逃げようにも逃げられない。
そして、顔のついている部分に彩花が攻撃を仕掛けて顔を潰す。そのモンスターの名前や存在個所にそぐわないつぶらな目が、彩花の斬撃により潰され、そしてケイブストーカーは黒い霧になって消滅した。
「ふぅ、同じ手で来るならこれが割と楽な手段になるのかな。そのたびに誰かが狙われることになるのは変わらんが、出来るだけ隆介に押し付けていきたいところだ」
ケイブストーカーが黒い霧になるとともに、俺の手元で絡まっていた糸も消滅した。これも本体扱いになるらしい。どうやらケイブストーカーの糸を絡めて絡めて、糸として流通させられないようだ。倒せば消える。ドロップする糸はまた別に存在する、ということなんだろう。これもダンジョンの不思議である。
「押し付けられるのは構わんが、そういう趣味はないからな」
「ああ、ただ、盾に絡めて盾で引き寄せれば、防御と攻撃が同時に出来て便利にならんか? 」
「適度に盾を鳴らしながら進めばその内引っかかってくれるかもしれないわよ」
「さすがにそれは周りに迷惑な気がするけどな。でも考え方としてはありかもしれないな」
感想戦もそこそこに、次のモンスターを探しつつ、四層のリザードマンエリアへ向かって歩き出す。このケイブストーカーエリアは四層へ続く道が最も長く、その代わりに四層から五層へ向かう道が一番短くなっている。
逆に、一番短いのはオークエリアとなっている。その為オークエリアのほうがモンスター密度も高く、おひとり様でもなんとかできる相手のため、駅前ダンジョンの場合はオークが一番混んでいる、という状況になっているのだが、今日なんかだとオークエリアの奥の方まで混んでいそうだな。こっちを選択して正解だったかもしれない。
ふと、聞き耳スキルに反応があり、壁を見るとこちらの様子をうかがっているケイブストーカーを見やることができた。二人に合図を送り、隆介に盾を叩いてもらう。すると、面白いように盾に向かって糸を吐き出し、糸と一緒にこちらに飛んできた。糸を収納することで体当たりを仕掛けてきた格好になった。隆介はその体当たりをしっかりと受け止め、逆にケイブストーカーに槍で一突き。ケイブストーカーが悲鳴を上げる。
「キィイイィィイィ! 」
悲鳴を上げるも、しっかりと刺さっている槍のおかげで身動きが取れないケイブストーカーを、俺と彩花の追撃でしっかり顔を切り刻んでいく。俺に続いて彩花の一撃が入ったところでケイブストーカーは黒い霧になって消滅。後に糸と魔石を落とした。二匹目でこれは結構運が良いほうなのかな?
「糸を落としたが……これは買い取りいくらなんだろう? 」
「そういえば調べてなかったな。ちょっと待ってろよ……5000円らしい。一匹二匹ではそうそう落ちないレアものだそうだ」
「そいつは良い話だな。それだけでここを通った甲斐があるというものだ」
「オークの玉より安いのは市場価格との兼ね合いなのかしら? それとも、あっちの方が出にくいのかしら? 」
彩花が玉について考えているが、俺の体感する割合で語ることが出来ないので、ケイブストーカーについては回数を重ねて通って、倒した回数で割っていくことでおおよそのドロップ率が……調べたら出るか。帰ったら一度調べておくのもいいかもな。少なくとも今やるべきではない。まだ探索の行き道の途中なんだ、こんなところでちんたらしているから日本は中国経済にさっさと追い抜かれてしまった。
ケイブストーカーのいそうな場所や雰囲気を俺が【聞き耳】で察知し、隆介が盾を叩いて音を鳴らし、音に反応したケイブストーカーを三人でタコ殴りにする。このやり方で二十体ほど倒したところで四層の湿っぽい空気に切り替わった。ここからはリザードマンのエリアだ。
四層を歩くという意味ではオーク側から来るよりも時間的距離は短いが、いきなり二匹連れで出てくるらしく、パーティー戦をそのまま延長するような戦い方でうまくいくらしい。実際、いきなり二匹出てきたので一匹を隆介に抑えてもらったまま、残りの一匹を俺と彩花で完全に挟み撃ちにしながらさっさと倒し、次に隆介の相手しているリザードマンを三人でボコボコにする、という数的有利を活かし続ける戦い方でここまではうまくいった。
ケイブストーカーのドロップもそこそこ出たし、リザードマンはさすがに槍をくれるとまではいかなかったが、魔石をちゃんとくれたのでここのリザードマンは良いリザードマンだったのだろう。
四層を短く抜けて、五層までやってきた。湿気が無くなり、一層や二層と同じような空気と湿度の程よい、過ごしやすい環境が広がる。ここが本日のメイン階層であり、目標である、最低一つは樹液を確保する、という内容に従って行動を開始することになった。
流石に五層まで抜けてくると、初心者っぽい探索者はほとんどいなくなっていて、そこそこに空いたダンジョンが口を広げて俺達を待ってくれている。五層もそれなりに複雑なマップにはなっているし、折れ曲がったり広間があったり分かれ道や行き止まりがいくつかあるものの、地図を確実に持っている俺達にとっては何の問題もない。ここを何の地図もなくただひたすら彷徨えと言われたらかなり厳しいところだったに違いない。
五層に入って早速レッサートレントと鉢合わせする。一対三なので、それぞれ蔓一本ずつとして対応しておけば問題ない。
「蔓を切ったやつから本体にダメージを与えていくということで」
「了解、さあ何処を狙ってくるのかなっと」
と、隆介のほうに二本いって俺のほうに本体の太い蔓が一本飛んできた。彩花は隆介のカバーリングに入り一本を切り落としにかかると、そのまま本体へダメージを与えに行く。俺も本体の方の太い蔓を切り、伸びてこないことを確認するとレッサートレントの顔部分にたたきつけるように山賊刀を切りつける。
最後に隆介が蔓を槍先でなんとか切り落とし、こっちに応援に来ようとしたが、その間に俺と彩花でレッサートレントの顔部分を再度攻撃して今度は完全に切り落とすことに成功。上下に泣き別れになったレッサートレントが、切り離されながら黒い霧に変わっていく。
「流石隆介、蔓にもモテてるな」
「あんまりうれしくないモテかただけどな。もしかしたら俺に二本来てる間に本体叩いた方が早かったかもしれないぞ」
「蔓二本に引っ張られて小林が上下にちぎれるようなことや、そこまで行かなくても脱臼や骨折されても面倒だしね。一人一本の当たり分をこなした方が結果的に早いと思うわよ」
「なるほど、相手の引っ張りの強さを考慮に入れてなかったな。感謝する」
「今からもまたモテるかもしれないからしっかりがんばるのよ」
彩花に軽く蹴りを入れられて、痛ってなっている隆介に少しジェラシーを感じつつも、次のレッサートレントに向かう。このまま五層をしばらくボス部屋の周りをグルグル回るようにして、目標である所の樹液のドロップと魔石のドロップをしっかり拾っていこう。
その後一時間ほど五層をグルグルと回った結果、樹液が二つ、魔石が七つドロップすることが出来た。一時間で魔石七つはそれなりに効率的に拾えたような気がする。専用ダンジョンでは100%落ちるために同じと考えることはできないが、それでも開始一時間で樹液が二個も拾えた。樹液の買い取り価格は2000円なので、魔石と並んで中々の金額の買い取りが予想される。
「とりあえず一個は隆介が持ち帰るとして……この一時間で4000円ぐらいにはなったかな? 」
「中々の高感触だな。午前中はそのまま回って、昼食を取ってから六層に移動することにするか」
「そうね、今いい調子で稼いでるならそれに越したことはないわ。無理に階層移動してテンポが狂うよりは今のペースを維持しましょう」
三人とも同じ感想のようなので、午前中の間もう一時間ほど、ボス部屋の周りをぐるりと回って資金稼ぎの時間に回した。
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