第95話:ダンジョン解禁、即潜り
今日から探索解禁日。朝食のパスタもしっかり胃袋に入れ、昼食のパスタをカルボナーラで作り終えた後、弁当を包んでバッグに入れて、水分は途中のコンビニで仕入れていくものとする。
「模試が終わって早速ダンジョンなんて、探索者が板についてきたわね」
「久しぶりのダンジョンだからな。妙な所で体が付いてこなくて怪我したり……なんてことは避けたいし、今日は三人で潜るからできるだけそれぞれの負荷が小さくなるように動きたいところもある。まあ、気楽にやってくるとするよ」
「私は続きを作っておくわね。三人だから大丈夫だとは思うけど、無理はしないようにね」
「ああ、行ってくる……と、彩花はまだかな。そういえば彩花の装備はこっちに置きっぱなしなんだった」
仕度もそこそこに装備品一式に着替えて、彩花が来るのを待つ。念のためスマホで「準備完了、いつでも出られる」とチャットは送っておいたので、気が付けば早めに到着するかもしれないな。
しばらくしてチャットが返ってきていた。「今向かってる途中。もう少し待って」だそうだ。隆介にもチャットを送っておくか。「彩花が到着次第ダンジョンに向かう。多分三十分以内には現着する」
隆介からは「そっちに時間合わせていくことにする」とだけ返ってきたので、これで遅刻者なくダンジョン探索が再開できそうだ。そういえば、隆介の彼女の誕生日は夏休み中になるのかな。それも聞いておくとするか。それによっては隆介の探索強度を引き上げてやって、しっかり彼女さんをカバーできるように鍛え上げてやらないといけないからな。
少々上から目線だが、少なくとも隆介よりも俺と彩花のほうがダンジョンでは先輩だし、モンスターの動きもよくわかっているのでそのあたりを確認し合いつつ、今日のダンジョン探索に時間を充てよう。
しばらく五層や六層の情報を仕入れている間に彩花が部屋にたどり着いたので、おはようのハグをした後で、彩花が着替え終わるまで引き続き六層の情報を仕入れる。スケルトンがどんな攻撃パターンや太刀筋、それから殴る角度なんかを分析し、どのように避けたり受け止めたりすれば効率的に動けるかを調べる。
ざっと頭に入れた範囲だと、ガリスケルトンの剣はそれほど鋭くなく、重さもないので受け止めるのは難しくないことと、デブスケルトンのとげ付きこん棒については重さはあるものの、武器で受け止めるか盾で防げば問題ないらしいこともわかった。
問題は雷撃をしてくるスケルトンと弓矢を持っているスケルトンで、こいつらが一緒に出てきたら要注意とある。そこまで深く潜らなければ今の所問題はないかな。今日の目標は五層から六層の入り口付近にかけてを目標にして行こう。
「着替え終わったわよ……調べもの? 」
「一応今から行く場所と、その先の階層の情報を再確認ってところ。スケルトンが出る所までは足を伸ばしてみたいんだよね。せっかく三人で潜るんだし」
「私としては二人のほうが嬉しいんだけど……でも、幹也がそのほうがいいと考えるにはそれなりの理由があるんでしょうし、付き合うことにするわ。それに、小林も一緒ってことは何か理由があってのことなんでしょう? 」
彩花が理解を示してくれる態度で物を言ってくれるが、実際はもっと簡単な理由で隆介を連れまわしている間の稼ぎで俺の借金をとっとと返してほしい、という話なのだが、そこまで彩花に話しておく必要はないだろうな。何か別の理由をでっちあげておこう。
「まあ、三人での連携を試しておきたいのが一番かな。隆介は確実に俺と彩花を守るポジションにいながら戦うことになるわけだし、俺たちも守られながら戦う、という行動に慣れておく必要があるからな。いざもしも壁役が存在する状態で戦闘を行うことになっても、壁役がどんな行動原理でこちらに対して働きかけるか、というのを考えながら行動するのも必要だからな」
「なるほど……別に小林のためだけ、というわけではないと。こちらも慣れる必要があるってことね。それなりに納得したわ」
「さて、出ようか。今から出ると連絡しておいて……よし。さあ駅前まで行くぞ」
「アカネさんは付いてくるの? 」
「来ないってさ。三人でゆっくりどうぞ、だそうだ」
「そう、索敵が楽だから来てほしかったんだけど、ちょっと残念ね」
アカネを置いて二人自転車で駅前まで移動する。並んで走るのはマナーが悪いので、俺が先行して彩花が後ろについてくる形になる。十数分ほどかけて到着すると、装備をきちんとチェックして付け直し、隆介に到着したと連絡を入れる。すると、既に入場列付近にいるらしい。流石にあっちの方が家が近い分早いな。
姿を探すと、入場列に並ぶか並ばないかあたりの微妙な所で待っていたので、手を挙げて合図。向こうもこっちに気づいて合図を送り合うと、改めて三人そろって並んで入場する。
「二人そろってきたのか。仲のよろしいことで」
「私が装備を幹也のところに置きっぱなしなの知ってるでしょう? だから着替えてから来たのよ」
「そういえばそうだったな。で、今日の予定はどうするんだ? 」
隆介も彩花も今日の進捗は俺任せで良いらしい。気楽ではあるが、もうちょっと自分で考えてもいいような気もする。まあ、好きにやらせてもらえるんだからその間に精々お互いの連携なり立ち位置なりを学んでいくことにしよう。
「今日は五層から六層前半部分に向けていこうと思う。道中はせっかく三人居ることだし、ケイブストーカーが出現する方向へ行こうと思う。一応一通りモンスターを体験しておきたいというのが一つと、もしかすると一番楽なルートかもしれない、というのが一つ。後は三人居るんだし、向こうが複数いない限りは問題なく進めると思う。事前に仕入れた情報によると、この駅前ダンジョンでケイブストーカーが複数同時に出現するのは稀らしいから、安心して進むことができる。ケイブストーカーを倒したらそのままリザードマン、そしてレッサートレントで樹液を最低一つは出して、それからスケルトンの居る六層まで行きたいな」
地図を広げながら入場列の順番を待ってる間に話を整理する。二人とも真面目な顔で話をふむふむと聞いている。
「ちなみにお弁当は五層のボス部屋の前で食べることにしよう。あそこなら他に人もいるし、最悪レッサートレントが湧いても他にも人がいることが経験上わかってるから、モンスターの取り合いになるかもしれないが、誰もいなくて自分達以外に対応する人がいない、という可能性はないと思われる。前に彩花と潜った時もその傾向があったからな」
「一応体験済みってわけか。ちなみにその時ボスは倒したのか? 」
「倒したわよ。もしもボス待ちがいなくて戦える状態にあったら試しに戦ってみる? 結構面倒くさいわよ」
「それはまあその時々で臨機応変に動こう。さて、そろそろ入場列が終わるぞ」
入場手続きを行って、ダンジョンに入る。夏休みだからか、駅前だからか、普段より人が少し多めに感じる。これはちょっと旨味が薄いかもしれないな。できるだけ奥の方で戦っていく方がいいだろう。オークを選ばなかったのも今回はそれが正解のルートになりそうだな。
ゴブリンやシールドゴブリン達は自分たちと同じか近いぐらいの年齢の人が相手をしていて、道中は言い方を柔らかくするなら移動に優しい、悪く言うなら何もつまみ食いが出来なくて歩くだけで暇の道になった。
レッドキャップにたどり着いて多少人気は減ったものの、ここでもレッドキャップはこちらに夢中、という具合にはなってくれず、聞き耳を立ててみるものの、周辺にはレッドキャップの気配なし。これはケイブストーカーに出会うまでモンスターとは出会えずじまいになりそうかな。
「夏休みだから人も多いだろうとは思っていたがここまでとはな。まあ、単純計算でここまでで四分の一の高校三年生がダンジョンに潜れるようになってるわけで、試しに潜ってみようって奴が浅い狩場で楽しんでいるのは、勉強の息抜きとしては良いんだろうな」
「まあ、そういうことにしておこう。それで、ケイブストーカーってのはどんな魔物なんだ? 」
隆介には珍しく、事前情報を入れずにダンジョンに来ているな。とりあえずいつものオークルートを通ると考えていたからかもしれないな。
「まず、蜘蛛のモンスターだ。大きさは俺達と同じぐらいからちょっと大きめ。二メートルぐらいあるらしい。そして、尻尾から糸を出して絡めとり、身動きを封じてからゆっくりと消化液を体内に注入して、体の内側からドロドロにさせてから食べるモンスターのようだ」
「聞くだけで身体がかゆくなってきたんだけど」
「その糸自体はそれほど強固ではないらしく、切断は容易らしい。複数人が同時に捕まったりしなければ問題はないだろう。それと、弱点は顔だ。基本的には誰かがおとりになって糸を吐かせてる間に残りのメンバーが倒しに行けば問題はない、というところまでは前提知識だ。後は実際に戦ってみないとパターンやらなにやらを把握するまでに時間がかかると思う」
ふぅ、と説明を終えたところで聞き耳に反応、真後ろから来てるな。後ろを振り返ってレッドキャップを切りつけに行く。レッドキャップはこっちが気づいていないと思い込んでいたようで、急な俺の反転に驚いて体の動きが止まり、弱点であるナイフ以外の全身をさらけ出してしまっている。
ふっ、と力を込めてレッドキャップに斬りかかり、上下に胴体を泣き別れさせたところで黒い霧になって消滅した。ようやく一匹目のモンスターの相手をすることが出来たな。これ、今日はどの階層でも同じ調子だったりしないよな?
レッドキャップが魔石をくれていた。今日初めての収入だし、今日は専用ダンジョンの魔石は一切持ってきていないので、最悪この一つだけが今日の収入、ということにもなりかねない。
「とりあえずファーストドロップはとれた、と。最悪これを三等分だな」
「それは贅沢な時間を使うことになりそうだな。まあ、収入をあてにしてるわけじゃないが自分の力をもっと上げたいのは確か。しっかり戦っていこう」
「少なくとも隆介が樹液を持ち帰って家で美味しいパンケーキを食べられるように配慮してやらなくちゃいけないからな。そこまでを第一目標にして頑張るとするか」
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