第87話:勉強会 1
土曜日がやってきた。呼んだの彩花だけでなく隆介もだ。しかし、お互いにはそのことを伝えてはいなかった。ニコニコ顔で彩花が玄関に来て、隆介がサイダーを飲んでいる姿を見て破顔した瞬間は中々のものだったと思う。
「なんで小林がここにいるのよ」
「それは俺のセリフ……だが、俺も成績上位者だからな。俺も勉強会に呼ばれて本条先生の教えを受ける側の立場だ。ついでに逆襲を狙うチャレンジャーでもある。その為の勉強会、というところだろう? 」
「まあな。俺の勉強範囲外で隆介の勉強範囲内だった、ということもありうる。彩花にとってはどっちもテストの順位的には先生だからな。俺も隆介の知っている俺の知らない範囲や解き方が欲しいし、隆介も同じだろう。ならわからないところを教え合うのが早いと思ってな。後、隆介は彩花と俺が付き合ってることを知っているから比較的呼びやすい相手だったこともある」
「そうなのね……まあ、いいわ。今日一日よろしくお願いしますね小林セ・ン・セ・イ」
わざと角が立つように隆介のことを呼ぶが、それにも慣れているのかさらっとかわして俺の部屋に丸卓を置いて勉強を始める。
「さあ、黙々とやろうぜ。にしても結城、幹也のところに装備置かせてもらってるんだな」
「行くときは一緒だからね。どうせならってことでまとめて管理してもらってるわ。おかげで家でダンジョンの話をしなくて済んでるのはありがたいことよ」
「ふぅん。俺も行くときは基本一人か幹也とだからな。最近は一人で潜ってる様子もないし、幹也と週一で通ってればいいぐらいに稼げるようになったってことか……あ、そこ当てはめる公式が違うぞ」
「どれ……ああ、こっちの公式を使うのね。まあ、そういうことよ」
隆介が物おじせずに雑談しながら彩花の面倒を見てくれているので自分の勉強にある程度集中できる。勉強会と言いつつ、俺と彩花が順調にダンジョンに通えているのかを探っているが、彩花も肝心なところは隆介に話していないため、話題が矛盾することなく続いているようだ。
「しかし、彼女いない歴と年齢が一致していた幹也がいきなり結城なんて高嶺の花を掴むとはな。良いか幹也、二度と手放すなよ。他の女の子で満足できなくなってしまうかもしれないぞ」
「彼女から愛想を突かされない限りは俺はそのつもりはないよ……と、隆介、そこの項目の回答はイだ。ハンガリーだけ言語圏が違うから当てはまらなくなる」
「なるほど、そういう……まあ、仲良くやってるみたいだし俺が口出しすることではないがな……と、そっちは手堅いな。中々俺が口を挟むところがない」
隆介が自分のテキストと俺のテキストを見比べ、矛盾点や間違いがあったら指摘しようと構えているが、どちらも中々譲った部分がなく、勉強会は主に彩花の面倒見をメインとする中で進んだ。
「なあ、もしかして結城って集中し始めると周りが見えなくなる感じか? 」
「ああ、間違いやつまりがなくて集中が切れる以外は基本的に黙々と勉強できるタイプみたいだ。俺にもそこまでの集中力はない。中々のもんだぞ」
「そうなのか。ということは多分この会話も聞いてない感じか」
「多分な。わざわざ引き戻して集中を切らせると悪いから、自分で集中モードを切るまではそっとしておこうぜ。そのほうが本人のためでもある」
隆介と頷き合って、ヘルプが来るまでは集中させておこうということになった。隆介と俺は雑談しながらお菓子とジュースを交えて勉強を続ける。今はアカネが居ないので、うっかり唾液交換をして見えてしまう心配もない。都合のいい時に居ないんだな、とふと笑いそうになってしまったが、隆介が疑問に思わなくもないだろうから心の中に仕舞っておこう。今は勉強に集中だ。
◇◆◇◆◇◆◇
午前中、俺と隆介は世界史、彩花は数学を中心に勉強をしていたため、ぶっ続けでほぼ一教科を丸ごと復習していく形になった。おかげで頭の中は暗記科目で目一杯になった。もう後は忘れなければ大抵のことは覚えていられるだろう。この記憶力の良さもレベルアップの恩恵か。隆介のほうはどうなっているかは解らないが、元の頭の良さがある分だけ油断はできない。
「さて、昼食だが……」
「私が作るわよ。幹也に任せたらパスタになるでしょう? 」
「まあ、そう、なるな……」
「ご飯は炊いてあるわね。後は冷蔵庫をちょっと失礼するけどいい? 」
「ああ、好きに見て使ってくれ。食べられてまずいものは入ってないはずだ」
しいて言うなら大分小さくなったオークの肉塊だが、これも料理するついでに小さくしていけばいいだろうし、多分それは彩花も考える所だろう。
「よし、ピカタを作るわ。オーク肉は自由に使わせてもらうわよ」
「がんばえー彩花ー」
心から声援を送っておく。そのやる気の無さそうな態度にムッとする彩花。
「一応言っておくけど、私家庭科の成績は5だったんだからね? 」
「それは知らなかったな。これは幹也よりも期待できるかもしれん」
「俺も5だっただろうが。ガチの一人暮らし舐めんなよ」
ちなみに隆介は3である。隆介の数少ない弱点だが、隆介自身はそれを自分の彼女に教えてもらうということでカバーしていた模様。つまり当時の彼女の補佐がなければ2や最悪1で補習、ということもあり得たんだろう。
彩花は肉を解凍しながらパタパタと料理を作りはじめている。隆介は見てるだけ。俺は手伝おうかと声をかけたが、これぐらい一人でやって見せるからどこに何があるかだけ教えてくれればいいわ、と言われたので隆介と顔を並べて見ている。
キャベツを切り、オーク肉を食べやすい大きさに切ると塩胡椒を振って裏表になじませると、小麦粉を振りかけて均一にまぶしている。卵をしっかりと溶きほぐしてついでにチーズも追加している。かなり美味しそうに見えるな。
フライパンに油を入れて温めると、次々に卵にくぐらせながら焼いていく。かなり手慣れているな。もしかしたら俺と同じで、昼食のメニューは時間があれば自作、なければ冷凍で済ませるということなのかもしれない。彩花、結構できる子だったんだな。
焼き目が付いて肉が焼けたのを確認したところで次々に皿に山盛りにして行く。全ての肉を焼き上げたところで、冷蔵庫からキャベツを取り出し千切りにして山盛りにして、その後ピーマンを残ったチーズ溶き卵で味付けして焼いていく。素材を余すことなく使おうという腹積もりらしい。最後に残った卵を卵焼きにして丸めて終わりにする。
「できたわよ。食器が流石に人数分無いからバラバラだけど、とりあえず四品作ったわ」
うーん、俺にも同じ時間で同じものが作れるかと言われたらちょっと怪しいかもしれない。流石の発想の早さと実行力だな。さて、肝心のお味のほうは……
「うん、美味しい」
普通にうまい。特にチーズを溶いた卵の衣が良い感じに味をつけてくれているのでご飯が進む。これは中々良いな。
卵とチーズが程よくかき混ぜられていて味にムラがない。肉もしっかり火が通っていて、肉の脂も内側から感じられる。肉、コメ、野菜と順番に食べても問題ないぐらいだ。そしてピーマンのシャキシャキ感がまだ失われていないので食のアクセントも充分。キャベツもしっかり食べて、食事が進む。
「凄いな結城、これはいいぞ」
「どうよ。小林のために作ったわけじゃないけど、幹也のために作ったご飯をついでに食べさせてあげてるだけなんだからね。今更こっちにすり寄ってきても駄目よ」
「わかってるって。でも美味いものは美味いからな。素直に感想を言うことは大事だ」
「そう……ありがとう」
あ、ちょっとデレた。彩花自身も簡単な後片付けを終えて箸をつけ始める。自分で食べて笑顔になっているので、満足な出来だったんだろう。
「うん、美味しく出来たわ。良かった失敗しなくて」
「……なんか、学校とは違うな結城」
「学校では猫被ってるから良いのよ」
隆介が口が堅いのはどうやら女子の間でも知られているようで、彩花がつい本音を出す。
「ということは学校では幹也と出会う度に我慢してるってことか。素直になればもっと気楽に生活できそうなのに」
「それは駄目よ。自分に歯止めが効かなくなるもの。ほどほどで抑えておくほうが二人だけ出会った時にたっぷり甘えられるからそれでいいの」
後から来たにもかかわらず彩花も中々の食欲を見せる。お腹が空いているのは皆同じか。一人で取り過ぎないようにほどほどにしておこう。彩花の料理の腕がしっかりしていることが確認できただけも心は少し満たされた。今日は彩花の手料理までごちそうになっていい勉強会になったな。もう午後からダンジョンに潜って全てを台無しにしてもいいぐらいの日だ。
「午後からはどうする? どの教科に行くんだ? 」
「俺は現代文と古文かな。隆介は? 」
「俺は生物と化学だな。結城は? 」
「私は国語全般かしらね。ちょっと現代文の怪しいところを攻めていく予定よ」
それぞれやることを決めたところで食事終わり。綺麗に平らげてしまった。もうちょっと量があっても良かったが、味のほうは抜群に文句なしだ。少なすぎるというわけでもなかったのでまあ腹八分ということで納得しておこう。
「ふー、満足した。久しぶりに人の手料理食べた気がする」
「お粗末様。機会があったらまた作るわ」
「俺もこれだけ満足する食事は久しぶりかもしれないな。結城の意外な一面も見れたし今日の収穫は中々のものだった」
彩花が少しムスッとする。なんだか隆介に値付けをされたようなのが気に入らないのだろう。
「私としては午後から二人でゆっくり勉強でも良いんだけど。小林はまだ居座るわけ? 」
「今日一日は幹也に勉強を教え込んでくるという言い訳をしてこっちに来てるからな。昼飯食ってきてそれで解散、というわけにはいかんのだよ」
「二人ともその辺でストップ。午後も大人しく勉強を続けよう。わからないことは何でも聞いてくれ、答えられる範囲で答えるからな」
ここで俺がマウントを取っておけば二人の意識の軸は俺に向くはずだ。それで二人のいさかいが収まるならそれでよしとしておく。
「まあ、そう言っていられるのも今のうちだけだからな。精々言わせておいてやる」
「わたしもがんばるもん。幹也と肩を並べるとまではいかなくても、結果を残せばそれでいいだろうし」
よし、二人の意識がこっちに乗り移ってきた。さあ大人しい態度で午後の勉強に勤しもうじゃないか。
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