第85話:一匹斬っては肉のため
予定外のダンジョン探索が始まった。今日の目的はお肉。オークをひたすら狩って肉が一定量ドロップするまでひたすらオーク狩りだ。それに、【聞き耳】がレッドキャップに対してどのぐらいの活躍を見せてくれるか確かめる場でもある。
スライムとゴブリンを無視して進み、ゴブリン族と少し戦って真っ直ぐレッドキャップゾーンまで来た。さて、【聞き耳】の効果は……こっちにいるな。三時方向から足音がする。そっちへ寄ってみると、たしかにレッドキャップがこちらを向いてこっそり近づこうとしているのがわかったので、さっさと飛びかかって倒す。
「なんでわかったの? 」
彩花が不思議そうにしている。完全にこっち側からは死角になっている位置なので目視では追えなかったんだろう。
「先日隆介とコボルドを倒しに行ったんだが、その時に【聞き耳】のスクロールを落としたんで借金のかたに引き取ったんだ。レッドキャップの足音ぐらいならこれで追えるということがわかった。多分オークぐらいの足音の大きさだとより確実にわかるようになると思う」
「スキルのおかげなのね。私も何かスキルを覚えたほうがいいのかしら。そうすればもっと幹也の役に立てるのに」
「そうだな、あえて言うならレッドキャップから出てた【忍び足】をもう一度拾いたいところだな。二人そろって持っていればレッドキャップや他のモンスターに気づかれることは少なくなるだろうから、こっちから一方的に襲い掛かれるようになるかもしれない」
「うーん、でも200000円のスキルなのよね……ここで拾えたら拾う、積極的には狙わない、ってあたりかしら」
「多分そうなる……と、十二時方向正面、また一匹よってきた」
会話しながら進むが、【聞き耳】の効果は会話ぐらいではかき消されるスキルではないらしい。結構敏感なスキルだ。逆に過剰反応しすぎて耳そばで大声で怒鳴られたりすると困ったことになったりはしないだろうか、そこが心配なスキルでもある。
正面からまっすぐ歩いてきたレッドキャップの攻撃を受け止め、その間に彩花が切り捨ててのワンツーフィニッシュだ。さすがに魔石しか出ない。先日も物欲センサーに引っかかってほしいものが落ちなかったので、今日のところは多分【忍び足】は落ちないだろう。目的はセンサーに引っかかっても割合落ちやすいオーク肉なので、そこは問題ではない。
そのまま見つかる範囲でのレッドキャップを数匹倒しながら順調に進み、我が家のオーク牧場へ到着した。ここからはひたすら肉の収穫作業だ。早速一匹目を見つけ、斬りかかりに行く。オークはこっちに気づき戦闘態勢を取るも、振りかぶり始めるより前にこちらが懐に入って一閃、胴体に深い切り傷を負わせ、瞬時に後ろへ下がる。
オークが傷付けられて深く苦しんでいるそのスキに彩花が追いついてきてオークの首をはねる。一匹目は無事に終わり、魔石が落ちた。良いペースだ、このペースで行けば一時間ほどで目的の量のオーク肉は取得できるかもしれないな。
「よし、サクサクいこう。【聞き耳】の効果で近くにいるオークの方向はある程度わかるようになったし、二匹連れと会える方向へ行きながらオーク肉をしっかり取って、目的の数が取れたら戻って料理だ」
「唐揚げ楽しみね。幹也料理は上手なんだから、普段からちゃんとやればいいのに」
「いつも言ってるだろ? 眠る時間を大事にしたいんだよ。でも早起きを始めた分だけ朝食はともかくとして、昼食は考えるようになったぞ。予算の許す範囲で色々と確かめてはいる。肉料理メインだけどね」
「オーク肉は予算のうちに入らないのね」
「そりゃ、ここで取れば実質タダだからな。後は一緒に出た魔石を土曜日に売りに行けば問題はなくなるし、お金も稼げて食事も満足にできて、言うことなし。ついでにレベルが上がって賢くなれればそれ以上に嬉しいことはない。というところか」
今日は唐揚げ、とれたて肉の唐揚げだ。肉が新鮮な唐揚げは美味しいからな。鶏に限らず豚肉の唐揚げも結構美味しいことを俺は知っている。秘伝のレシピも開発済みだ、是非彩花に味わってもらって美味しいと言ってもらえればそれ以上のことはない。
その為にもオークを見つけては狩り、魔石かオーク肉か睾丸が落ちるのを待つ。しかし、今日はなかなかオーク肉が出ないな。普段なら十体も倒せば一つぐらい出るもんだが、今日はそれほどのドロップ率になっていない。睾丸は一つ出たのでこれはまあいいとしても、やはり物欲センサーが作動しているのだろうか。
「なかなか肉落ちないね」
「魔石は必ず出てるからアカネが近くにいないからドロップ率が変化してる、というわけでもなさそうだし……まあ、もう二十匹ぐらい狩ってみて、結果のほどを確かめることにしよう」
そこからさらに二十匹ほど狩ったところで結果を見ると、オーク肉が三つ落ちた。どうやら確率に偏りがあっただけのようだ。もう十匹ほど倒せば目的の四つには届くだろう。帰り道すがらオークを狩っていると、予定個数である四つに達した。
「うし、さあ帰って料理だ。レッドキャップもついでに狩って魔石の足しになってもらおう」
【聞き耳】でしっかりとレッドキャップの居場所を特定して【忍び足】で近づいてステルスキルを繰り返していく。レッドキャップゾーンを割と素直に抜け出られたのは好都合だった。これでまた一つ面倒くさいと思う場所が一つ減ったことになる。今後はしっかり聞き耳を立ててレッドキャップの居場所を探して倒していこう。
そのまま出入口までたどり着き、かなり早めだが今日の探索終了。お肉が四つ手に入ったのでこれを早速料理していくが……その前に着替えと荷物整理だ。ベッドの下のドロップ品収納箱に魔石を全部詰めこんで、防具を脱いだらそのまま料理のスタイルに入る。どうせ汗をかいているし、彩花が居る以上風呂に入るわけにもいかないからそのまま料理を始める。多少の油ハネや汚れは織り込み済みで行こう。
最初に米をセットして炊飯。これを忘れると後の行程が全部台無しになってしまうからな。ご飯だけは最初にきっちり炊いておこう。
さて、ご飯の炊飯を開始したところで唐揚げづくりに入る。まず、たれを調味してオーク肉をぶつ切りにすると、たれの中に漬け込んでよく揉み込む。ここでしっかりした味をつけないとただの素揚げと変わらなくなってしまうので馴染ませるように、そして奥までしみこむように、ぶつ切りのオーク肉には隠し包丁が入れてある。その隙間にたれが入り込むことによってより美味しくなるのだ。
たれ漬けが終わったら、卵を割り入れて更によく混ぜる。この卵がポイントだ。肉の味にまろやかさを付加してくれる。混ざったところで小麦粉を追加してどろりとして来るまでよく混ぜる。
一連の行動を録画してみている彩花に目線を送ると、バツ印が返ってきた。今は目線は要らないらしい。料理に集中しろという事だろう。小麦粉が良い感じに混ざったら片栗粉を更に追加。片栗粉を更に足した方がよりからっと揚がるようにだ。片栗粉はねっとりとではなく、全体に馴染む程度にざっくりとだけ混ぜる。
これで準備はよし。後は油の温度を上げて、180度になったら投入開始。できるだけ温度が下がらず、全体の食感をよくするために、少しずつ揚げていく。全部まとめて揚げると油が勿体ないのと、油の温度が下がってねっとり感が出てしまうため、三分割ぐらいにして揚げていく。
揚げる時間は好みだが、よりカラッと揚げたい場合は三十秒ほど余分に時間を使う。全体では時々裏返しながら五分から六分ほどあればいいだろう。一応でき上がった唐揚げの中を割って、中までしっかり揚がっているか調査するが、いい感じに中まで火が通っていて問題はなさそう。割った半分を食べて、味わいの確認。
よし、これなら人様にお出しできるな。残り半分を動画を撮ったままの彩花の口の中へ放り込んでやる。
「あつっ……でも美味しい」
彩花からも合格点が出たらしい。これなら良い感じに全部揚げられそうだ。次々に投入していき、揚がって出てくるオーク肉の唐揚げに焦点を合わせるように彩花がカメラを移動させ始めた。
全部揚げ終えたところで油の処理をして、道具を片付け始めつつ、唐揚げに大事なキャベツを千切りにして添える。三人分ぐらい作ったつもりだが、彩花が食べていくかどうかと俺の食欲によっては今日中になくなり、明日の昼食の弁当はまた別レシピを考えなければいけないだろう。
調理の後片付けが終わったところで炊飯器から炊けたと合図の音が鳴る。炊き立てご飯に唐揚げ。唐揚げ定食としては定番だが、後はスープがあれば完璧、といったところだろう。
「さて、食べていくか? 」
「今動画送ってこれ食べてから帰るって連絡したから食べる! 」
もう一人分ぐらい用意しても良かったかもしれないな。まあ、オーク肉を拾った分全部使ったわけではないので、明日の料理はまた別の肉が使える。しかも、一切冷凍してない綺麗なオーク肉だ。
アカネにお供えできないのが残念ではあるが、早速いただこう。
「いただきます」
「いただきます……んー、カラッと揚がってていいわね。しっかり油を切ってあるから口の中が油まみれになることもないわ。アカネさんもこういう時に居ないと勿体ないわね」
「そうだな……まあ、アカネが帰ってきたらまた作ってお供えするからいいさ」
アカネは無事に自宅にたどり着いて周りがどう変化しているか、ちゃんと把握できてるんだろうか。異変とか起きたりしてないだろうか。色々と心配になる。
「やっぱりアカネさんが居ないと心配? 」
「そういうわけじゃないが、ちゃんと無事に祠がメンテナンスされてるのかなあとか気にはなってはいる」
「そういえば私、アカネさんと幹也の出会いについて何も知らないわね。秘密にしなきゃいけない話だったりする? 」
「いや、秘密も何もないが……食事のついでに少し話しておくか。定食のスープの代わりだと思って聞き流してくれてもいいし、真面目に受け取ってくれてもいいが、これは現実の話だ。まずは……」
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