第82話:貸した金返せよ 3
火曜日、隆介が非常に下手に出ながらなにやら用事があるような言い回しをしてきた。
「本条様に置かれましては本日も御機嫌うるわしゅう存じ上げます」
「気色悪いぞ、とっとと本題を言え本題を」
「うん、ではいつも通り。ダンジョン行かないか。昨日一人で向かってみたのはいいがなかなか良い稼ぎにならなくてな。幹也が居てくれるならそこそこ深いところまで潜れるし、その分稼ぎもいい。借金を返すためにもどうか力を貸してほしい」
「素直でよろしい。じゃあ帰ったら早速出かけることにしよう。しかし、そんな調子で大丈夫なのか? 期末までもうそんなに時間がないぞ」
「そっちのほうはどうにかできそうだからな。今回も負けはするかもしれないが20位以内には入れるように努力するつもりだ」
次は負けないから、貼り出し一枚目からは落ちない、にランクダウンしているが、それでも好成績を残すつもりはあるらしい。まあ程よい運動は頭への血流もよくするし、こっそりレベルアップというチートを使わないにせよそれなりにいい順位を確保できるように頑張ってはいるんだろう。
やばいと感じていたらダンジョンになんて潜ってられないだろうから、そこは信用していいんだろうな。俺のせいで隆介の成績が下がった、なんてことになれば俺まで隆介の家に呼ばれてお叱りを受ける可能性すらある。それは勘弁してほしい。
早速家に帰ると、装備を持ち出して水分だけいつもの粉スポーツドリンクを溶かしてペットボトルに詰めるとバッグに入れて持ち出す。今ある在庫の粉スポーツドリンクがなくなったら今後はコンビニで普通に買って持っていくでも収入面で問題はないだろうから、使い切るまではもうちょっとお世話になるかな。
駅前ダンジョンに着くと、隆介はもう来ていた。自転車を停めて並んで入場列に入る。
「今日は手っ取り早くオークまで行って、そこでひたすら稼ぐことにしよう。モンスター密度からしてもそのほうが数を狩れると思う」
「オークじゃなくてコボルドとかケイブストーカーのほうへ行かないのか? 」
隆介が意外なことを言いだす。
「そうだな、二人なら何とかなるかもしれないが、どっちも戦闘経験がないんだよな。もしかしたらコボルドのほうが数が出る分魔石落としやすいとかそういう部分もないとは言えない。しかし、二人で相手できるものなのかな? 念のために向かってみて、二人でコボルド相手にしてるパーティーがいるかどうか、後は混み具合なんかも見定めてからやっぱりオークのほうへ行く、というのも有りだ」
隆介に折衷案を提示しておく。飽きたらオークで更に飽きよう、という話だ。
「じゃあ、コボルドのほうへ行ってみようぜ。幹也となら二対四とかになっても何とかできそうだしな。最悪俺が盾になって引き付けてる間に幹也が横からズバズバと切り裂いていく、なんて役割分担でも良い。オークばかりは……正直飽きる」
飽きるほど狩るというのは決して悪いことではないんだが……まあ、隆介がその気になってる間に俺も一度コボルドチーフとコボルド、というパーティー戦を仕掛けてみるのも悪い話ではないのかもしれないな。
「じゃあ、行ってみるだけだぞ。合わないとか数が多すぎるとか、いろいろ問題が出てきたらその時は黙ってオークに戻ろう。それでいいか? 」
「ああ、構わん。せっかく広いダンジョンなんだ、全部を味わってしまうのも悪くないだろう」
相談の結果、今日はオークではなくコボルドチーフとそのお供コボルドを相手にすることになった。コボルドの落とす魔石がいくらなのかは解らないが、コボルドチーフのほうはそれなりにお金になりそうな予感はする。もしかしたらオークをひたすらグルグル回るよりも、集団戦である以上こっちのほうが金の周りは良いかもしれないし、何もわからない状態で彩花と二人で回ってみるよりは精神的に安全だ。
入場を終わり、ゴブリン族の場所を抜けるまでは同じ。その後、幅広い空間であるレッドキャップの領域を抜けていき、普段とは違うルートで奥へ行く。道中で二、三回レッドキャップに遭遇したが隆介が遭遇したのを含めて問題なく対処できた。隆介なりに、レッドキャップの戦い方というものを学んでいるらしいな。
いつもと違う場所へたどりついて、ここからが三層その二、コボルドチーフとコボルドが集団で襲ってくる地域になる。ここを抜けると、また違うルートを得て四層のリザードマンエリアにたどり着く。
地図はあるので迷うこともなく、まずは最初のコボルドチーフを見つけないといけないが、さてどのぐらいで出てくるのか……と探していたら、早速四人組の二足歩行の犬を見つけた。どうやら一番大きい犬がコボルドチーフで、残りがコボルド、ということらしい。
コボルドチーフの大きさは俺や隆介の背丈と同じぐらい、175センチメートルほどだろう。それに比べてコボルドたちは二回り以上小さく、130センチメートルかそれより少し大きいぐらいだ。
お互いに対面し合う。コボルドたちはコボルドチーフを守るように布陣し始めた。このまま集団戦に移行するんだろうか。俺も隆介も身構えて、いつでも戦闘が始まっていいようにお互いの武器を構える。
「GURUUU!」
コボルドチーフが吠える。するとコボルドが三匹、こちらに向かって駆け出してきた。どうやら自分では戦わず、まずはコボルドたちに戦わせて終わってから自分が戦うタイプらしい。予定より一匹少ないのは良いことなのか悪いことなのか。まあ、楽ができるのは違いないだろう。
コボルドの持っているナイフは小さい。コボルドの攻撃が届く前にこちらの山賊刀の射程に入るので一番近いコボルドが射程に入った段階で切りつけ始めた。
コボルドの攻撃がこちらに当たることなく、コボルドは黒い霧になっていく。続いて二匹目にかかる。隆介も、一匹目の攻撃を受けることなく先行して槍で攻撃し、コボルドを貫いて黒い霧に変えてしまっていた。三匹目を消した段階で、コボルドチーフがこちらに駆け込んでくる。
隆介が前に立ち、コボルドチーフの持っている剣を受け止め、しっかりと防御する。そのスキに隆介の横から飛び出て、コボルドチーフの側面から切りつけに行く。コボルドチーフは姿勢を変えてこちらの攻撃を革鎧一枚でしのいだ。意外と面倒な奴、なのかもしれないが、実質コボルドチーフとの集団戦、と見ることもできるだろう。
コボルドチーフがそのまま、革鎧を気にしながらも攻撃を受けてないことにほっとしたのか、再び隆介のほうへ向かう。今度は最速で飛び込もう。俺の最速なら隆介にも見えないかもしれないが、コボルドチーフにも見えない速さで攻撃をすることが可能なはず。
隆介に気を取られて自分の剣を振り上げているうちにコボルドチーフの懐に入り、山賊刀で切り上げる。コボルドチーフの革鎧ごと、切り裂いて顎まで達した斬撃がきっちり革鎧も破壊し、内部にまでダメージを与えたように見えた。そのスキを突いて隆介が槍で突き刺し、追撃の形になる。両方からのダメージを受けてまだ耐えるコボルドチーフ。しかし、ハァハァと息をしながらかろうじて立つその姿はもう一押し、という感じだ。
相手の攻撃を待つことなく、こちらから攻撃を仕掛ける。コボルドチーフはもうさっきの俺達の二撃でそれなりにダメージを受けており、息も絶え絶え、といったところ。ダメ押しの斬撃を加えて袈裟切りにすると、コボルドチーフは大した抵抗もなく倒れて黒い霧に変わっていった。
都合四匹倒して、魔石がコボルドチーフのものが一つ。毎回何かしらの魔石を落としてくれるなら戦うだけの価値はあるが……というところかな。
「どう思う? このまましばらく駐留してみて様子見するか? 」
隆介に戦闘の感想を聞く。
「思ってたよりは楽だが、思ったより面倒かな。コボルドチーフを楽に倒す方法が見つかるまでは戦い続けてもいいかもしれない。後は、毎回コボルドたちが先に襲ってくるなら簡単だ、というところかな。コボルドに混じって攻撃してくるなら少々面倒なことになる。そこまで確認して、それからオークに戻るでも遅くはないと思う」
おおよそ俺と意見が一致したな。次のコボルドたちを探そう。
「じゃあ、もうちょっと探ってみるか。別の戦闘パターンがあるかもしれないしな。その場合は戦闘が面倒くさかったらもう一人……この際彩花でも良いが、ちゃんとパーティーメンバーとして仕事ができる人間がもう一人ほしいところだ」
「そうだな……そういえばお前たちは平日はダンジョンデートはしないのか? 」
「あんまり通い詰めるのもアレなので、土曜日だけと決めている。その分みっちり稼いで帰ってきてるけどな。先日もボス退治まできっちりこなして帰ってきたところだ」
「それはお熱いことで。さ、次を探そうぜ」
次のコボルドチーフの集団を探す。二分ほどして、今度はコボルド二匹とコボルドチーフのグループだった。二対三だが戦力的には実質二対一。同時に襲ってくるかどうかだけが見ものだな。コボルドは相変わらずコボルドチーフを守るように、俺達の正面に立つ。さて、どう来るか。
「GURUUU! 」
コボルドチーフは数の利を生かさず、コボルドだけを先にこっちに突っ込ませる。どうやらコボルドチーフは戦術面ではあまり賢くないらしい。同時に来られていたらかなり分が悪い戦い……それでも無傷では居られるだろうが、無駄な体力を消費することは確かだっただろう。しかし、そうはならなかった。
俺と隆介で一匹ずつコボルドを倒し、コボルドチーフとの二対一になる。隆介が盾を叩いて鳴らし威嚇する。威嚇に乗ったコボルドチーフが隆介に向かってその剣を振り下ろすも、がっちりガードしたのと同時に俺が全力で近寄り、首から上下に泣き別れになってもらう。
今回は比較的楽に倒せたな。ドロップは……コボルドの魔石が一つか。小さいからそれほど金にはならないだろう。一グループで確実に一つ魔石を落としてくれるならそれなりの収入ペースにはなるかな? といったところだ。さて、次を探そう。
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