第73話:ソロ攻略四層
授業が終わって家まで真っ直ぐ帰ってきた。さすがに隆介も二日連続でダンジョンに潜る気はないらしい。彩花も自分の用事があるようなので今日は一人で帰ることになった。一人で帰るということは、思う存分俺達専用ダンジョンで楽しむ時間が取れるということでもある。
ちょっとした空腹を満たすためにコンビニで腹の足しになるものを買うと、そのまま帰ってきて、まず食べて胃袋が途中で情けない悲鳴を上げだすのを防いでおく。その後で、夕食を作り出す。またパスタだが、今日の具材はオーク肉の欠片とほうれん草。オーク肉をスライサーで削ってベーコン代わりに投入すると、そこにほうれん草を入れただけのお手軽レシピだ。
彩花が見ていたら、「もっと栄養のあるもの食べてよ」と苦情が入りそうだが、今日は彩花は居ないので安心して手抜き料理に集中できる。
ラップしてレンジに入れておいた。これで帰ってきて腹減りで何もしたくなくても、レンジで温めるだけで美味しいご飯……美味しくはないか。食べ慣れたご飯をいつでも胃に入れることができる。
「今日は夕食を作るのが早いってことはダンジョンに潜るのね? 」
「ああ、昨日手に入れたスクロールの調子をもう少しばかり体に合わせたいんだ。そのための調整時間ってところかな。ついでに奥の方まで潜ってきて、今の自分の実力でどこまで行けるか体験してくるよ」
粉のスポーツドリンクをペットボトルに流し込んで水で溶かしながらアカネに返答しておく。アカネはスクロールを使ってるタイミングを見てないはずなので質問ついでにまた一つ強くなったぞ、ということを言葉で伝える。
「まだ次の層はできてないけど、リザードマンの出る地域がちょっと広くなってるから迷子にならないでね。今の所注意事項はそれだけかしら」
「リザードマンが広くなったってことは、二匹連れも増えるってことか。それはちょっと厄介だな」
「まあ、二人でダンジョンに潜ることを考えたら二人分のモンスターが現れても不思議はないかなってところね。幹也のスタンスに合うように改造していくつもりだし、結城さんも一緒に潜る前提で作っておく場所があっても悪くはないでしょう? 」
「まあ、二人いるのに一匹しかいなくてどっちかが手持ち無沙汰になる、という状態を回避できるならそれはありかな。最悪そっちに近寄らないって方法もあるし、アカネにダンジョン作りは一任してるんだ、作ってもらっていることに感謝こそすれ、苦情を言うつもりはない……と、そういえばなんだが、五層にボスがいるのは知ってるよな? それがオークチーフなんだが、こっちのダンジョンの五層のボスは作るのか? それとも三層のあれがボス部屋ってことにしておくのか? 」
念のため確認しておく。割と大事な所ではあるし、五層にもまた別のボスがいる、というなら一苦労しなくてはならないだろう。
「五層のボスは置かないつもりよ。先出しで三層にボス部屋を配置しただけだから五層はシンプルにダンジョンだけを巡る形で行こうと思うわ」
五層にボスは湧かないらしい。一安心だな。これでボスが湧いてうろついてます、という話になるならちょっくら面倒くさいことになっていたかもしれない。
「そんなわけで、新しいところを巡って地図を作ってくるのを目的にうろついてくると良いわよ。三匹までは湧かないはずだから、今の幹也ならリザードマン二匹相手でも充分戦えると思うし」
「そうか、じゃあ行ってくるかな」
「私も一応ついていこうかしらね。変な挙動してるようなところがあるといけないし」
アカネも付いてくることになったのでサクサク進めるな。よし、装備を整えて早速ダンジョンに出陣だ。二時間ぐらいを見積もってしっかり体を動かしてこよう。レベルも上がったばかりだし、レベルも9から10にあがるにはそれなりに経験値を稼がないとあがらないはず。しばらくはモンスターごとの一喜一憂はない感じで大人しく魔石集めと運が良ければ……に対処していこう。
ダンジョンに入り、真っ直ぐレッドキャップエリアを超えるところまで進む。道中のモンスターは探すことなく、見つけるか狙われたら倒す、という方法を取っているため、道中の魔石はそれほど増えてはいない。真っ直ぐレッドキャップゾーンを抜け、途中で出てきたレッドキャップはアカネの索敵能力で確実に倒していく。
さすがにものの数匹でドロップに期待はしていないし、ここでドロップを狙うのも少々面倒だしな。粘ればもう一枚ぐらいスクロールを落としてくれるかもしれないが、それは今日のメイン作業ではない。
オークゾーンも一応通り抜けていき、奥へと進む道の途中にある二匹連れゾーンも、一人で最短戦闘を行うためにオークの腕を切り飛ばしてその間に胴体を切って無理矢理黒い霧に還す、という形で進んできた。一応オーク肉を落としてくれたので、ビニール袋に入れて保存。戻ったら洗って冷凍庫だな。
ここまで二十回ほど戦闘を行ってきたが無問題。三層までは完全に体が慣れたな。レッドキャップだけまだちょっと苦手意識はある。これも金を溜めてスキルを手に入れれば何とかなるはずなのでそれまでの我慢だな。
四層にたどり着き、リザードマンが出てきた。さあ、山賊刀に替えての初めてのリザードマンだ。どれだけ戦闘が楽になったか確かめてみよう。
リザードマンはいつもの形で突きのスタイルでこちらに向かってくる。じりじりと距離を詰めてくるが、こちらが半身になると、薙ぎ払いの姿勢に体勢を変えようとする。その瞬間に飛び込み、槍を持ち替えようとしたタイミングで前に出ていた左腕を切り落とす。
リザードマンは片手で槍を保持しようとして薙ぎ払いの姿勢を崩さないが、薙ぎ払いというよりただ槍を振るうだけ、という感じだ。片手を落とされた以上、両手で槍をしっかりと握って振るうことは難しいのだろう。そのままリザードマンの射程に入り、薙ぎ払いを山賊刀で受け止めるが、やはり片腕だけでの槍捌きでは威力も重さも伝わってこない。
「GYYUUuuuu」
リザードマンが軽くうなる。自分の思い通りにいかないことに腹を立てているのか、腕を切られたダメージを気合でなんとか乗り切ろうとしているのか。いずれにせよ手負いのモンスター、ここから苦戦していたら意味がないだろう。モンスターも苦しそうではあるし、できるだけ手短に楽にしてやらないとな。
そのまま背中から山賊刀を構える形でリザードマンの懐に瞬時に飛び込むと、全力の一閃。リザードマンが防御姿勢を取る前に懐へ飛び込み、そのまま肩口から腰までバッサリと切り込みを入れ、上半身と下半身を真っ二つにする。リザードマンはそのまま黒い霧になり霧散し、後には魔石だけが残った。
「ちょっと一匹に時間をかけ過ぎじゃないかしら」
「色々試しながらだから、もうこれ以上は問題ないさ。後は短い時間で戦っていくつもりだよ」
もっとアッサリとさっくりとやっていかないと、一対二になった時に対応しきれず瓦解するか、最悪怪我することになる。さっきの飛び込み袈裟切りを一発目からやるようにしむけるか。次の一匹でやってみよう。
さっそく次の一匹を探し、一気に戦闘状態からの加速で突きの姿勢のまま動かない……いや、俺の反応が早すぎて動けない、といった方が正しかったのだろう。先に動いて袈裟切りにかけて一気にリザードマンを倒す。戦闘時間三秒。うん、このぐらい素早いと便利だな。この戦法を使っていこう。
素早く倒して次へ。この戦い方なら短時間高効率でテンポよく巡ることができるだろう。さて次次ぃ。お、ぺったんぺったんと歩いているリザードマンを発見、忍び足で近づいて、気づかれないうちに近づき、一気に襲う。気分はレッドキャップだな。リザードマンはこちらに気づかない間に首を落とされあわれ終了。
そのまま戦いを続けていって魔石を溜めていく。十匹ぐらい倒したところで、リザードマンの数が増えてきた。一対二の仕事はここからだな。さっきまでの戦法で時間差をつけて倒していくことにしよう。
その前に水分補給だ。ここから集中して戦っていきたいからな。その前にきっちり体調を万全とはいかずとも途中でお腹が空いたり喉が乾いたりで戦闘に関係ないことに頭を悩ませることのないよう、その辺の石に座り込んでゆっくり休憩する。
五分ほどの休憩を終わらせて進むと、早速お目見えになった二体連れの片方に一気に近寄ってリザードマンをきっちり倒し、もう片方が気づいたころには片方は黒い霧。そしてまた一対一になるから三秒で片付けて勝利。この調子なら一対二でも一人なら何とかなるかな。彩花を連れてきて二対二の状況になった場合、彩花がどう動くかで決まるな。
「今の所大丈夫な感じか? 」
「そうね、不具合みたいなものも見つからないし、ここまでのところは大丈夫ね。もうちょっと奥まで見ておきたいわ」
「よし、じゃあ一番奥まで行ってみよう。案内を頼むよ」
「こっちよ」
ふよふよと浮いたままのアカネが先導し、奥へと歩いていく。道中のリザードマンも一対二でも問題なく倒せるようになった。これで四層までは確実にクリアできるな。駅前ダンジョンで本採用するまではキッチリ戦える、ということにもなる。
彩花抜きでこれだけ戦えるなら、五層に入っても問題はなさそうだ。予習してどういう攻撃してくるかのパターンを後で学習しておこう。
そのまま、最近できたというリザードマンが多めのゾーンを歩き回る。多めと言っても二匹三匹四匹と出るわけではなく、二匹ワンセットのグループが複数個所に居る、という形だ。アカネが見回って索敵をしながら、ダンジョンのバグや隙間に入り込んだり、ダンジョンの中の当たりチェックみたいなものをしている。
「ちょっとここ触ってみて」
「あいよ……通り抜けたぞ」
「バグね。修正しておくわ」
どうやら、壁の当たり判定が抜けていたらしい。あのまま壁を通り抜けていたらどうなっていたんだろう? ちょっと興味が湧いたが、戻ってこれないような、3Dゲームでよくある奈落に落ちるような事態を想像すると恐ろしくなってきたので手を引き抜いて良かった。
「直ったはずだわ。もう一回触ってみて」
「どれ……今度は大丈夫みたいだ」
「なら良いわ。ありがとう」
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