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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第7話:レベルアップの恩恵

 翌日、筋肉痛にはなっていなかったが、体のあちこちがなんだか軽い。どうやら本当にレベルアップというものをして、身体能力も向上しているようだ。これがオツムのほうにも影響してくれていると便利なんだけどな……と思いつつ、塩パスタを作って食べる。


 そうだ、スライムの魔石を換金しにいかないとな。近くのノーマライズダンジョンのギルドによって換金して、それから学校に行こう。そうと決まれば家でうだうだしている暇はない。


 いつも通りアカネにお供えをして、おさがりさんとなったありがたみのある塩パスタで朝食を食べ終えると、そのまま塩パスタをもう一回分作って弁当箱に詰め込む。


 後は購買で野菜ジュースでも買っておけばかろうじて脚気や壊血病は免れるだろう。後は今日の魔石の買い取り分だけ少しでも小遣いが溜まれば毎日ちょっとずつだけど金を稼ぐことができる。この魔石、一体いくらでやり取りされるものなのだろう。


 それもギルドの買い取り場に行けば解るか。ギルドは二十四時間開いているという話らしいし、学校に遅刻しないように早めに出るとしよう。


「それじゃアカネ、学校行ってくる。後ついでに昨日拾った魔石もいくらになるか計算してもらってくるよ」

「行ってらっしゃい。私は引き続きダンジョンを作りつつ、レベルアップについて調べておくわね」


 それぞれやることがあるのはいいこと。どちらかが暇でぽつんと置き去りになるのは、なんだか寂しさが訪れるからな。アカネが家にいる間独りぼっちでいるんだなあと考えると、ちょっといたたまれない気持ちになってくるのは確か。


 その点、ダンジョンを作るのに精を出してくれるなら俺も安心して学業に勤しめる。お互いの成果は帰った後で報告することにしよう。


 学校へ行く前に、途中にあるノーマライズダンジョンのギルドで魔石を鑑定してもらう。今回換金してもらうのはスライムの魔石が二十個だ。いくらになるかは解らないが、少なくとも0円ではないはずだから期待に胸を膨らませて魔石を取り出し、換金してもらう。


 どうやら魔石の純度と重さによって価値が違うらしく、魔石をルーペで覗く換金担当の人が作業する。価値を判断した上で数を数えて出てきた金額は4000円だった。どうやら、スライムの魔石は一個200円というところらしい。


「まだ学生よね? 学生なのにスライムの魔石をこんなに集めて勉強のほうは大丈夫ですか? 」


 心配されてしまった。ほんの小一時間潜っただけなんだけどなあ。でもまあ、一時間で4000円稼げたと考えれば下手なバイトに比べて段違いの収入だ。今後もちょくちょく潜って金にして、さっさと稼ぎきって防具を隆介から買い取る算段をつけていくことにしよう。


 そのままお金を現金で受け取り、学校に向かう。教室に入ってしばらくボーっとしていると、いつも通り隆介が教室に乱入してきた。


「おっす、幹……幹也? 」

「どうしたんだ隆介、聞き返すようなことをして」

「いや、なんか昨日までとは一瞬違う人物に見えたから本当に幹也なのか確認したくなっただけだ」

「変な奴だな。昨日も俺も連続した俺だぞ。違うように見えたのなら、コンタクトでもつけてみたらどうだ」


 隆介が怪しげに俺を観察しだした。確かに幹也だよな……とつぶやきながら、髪の毛をいじったり顔を引っ張ったり腹を触ったり色々と観察している。


「そろそろ怒ってもいいか? 」

「悪い悪い。幹也に違いないのは確認できた。そういえば、ダンジョンはいつ潜るんだ? 」

「そうだな土曜日にでも潜ってみようと考えてる。次の日学校があるのに夕方からダンジョン、ってのもちょっと何か不安な要素が残るといけないしな」

「うむ、そのほうがいいだろうな。充分注意していくんだぞ。初めてのダンジョンで怪我して二度とダンジョンなんか潜らない! なんて人もそこそこ居るらしいからな」


 なるほど、初回トラウマって奴か。その点俺はもう一回潜ってしまっていることだし安心だな。よほどの数に囲まれたり、奇襲されたりしない限りは大丈夫だし、スライムに限って言えばもう後れを取ることはないだろう。


 授業のチャイムが鳴り、隆介はまだぶつぶついいながら教室へ戻っていった。そして授業が始まるが……なんだか今日は教師の教え方が上手いな。先生は変わってないはずだが、いつもよりわかりやすい授業を展開してくれている。要所要所のポイントも解りやすく解説してくれているのでノートも自然にまとまりやすい。前回までのノートと比べると明らかにわかりやすさが違う。


 これは……俺が変化したのか? 俺が賢くなった? これもレベルアップのおかげってことか? 疑問が浮かぶが、今の所レベルアップの恩恵みたいなものは体が軽くなったり頭がすっきりしていたりぐらいしかなかったが、授業の理解力まで上がるとなればこれは本物と考えてもいいんだろう。


 次の授業も、その次の授業も同じように、いつもよりもすんなりと内容が頭に入るようになった。おかげで確信が持てた。これはレベルアップの影響だな、と。つまり、もっとモンスターを倒してレベルが上がれば学校の成績もよくなっていく、ということになるのか。まだ試してないからわからないものの、次のレベルアップで更に理解力が深まれば間違いないと断言できるぞ。


 昼休みに塩パスタと野菜ジュースを腹に詰め込んでいるところに、隆介がふらりと現れた。一応言っておくが、隆介以外に友達がいない訳じゃないからな。ただ、絡んでくる割合が高いのが隆介だ、というだけだ。他にもいると言えばいるんだ。


「今日の調子はどうかね、兼業探索者君」

「そんな一日二日で変わるわけでもないし、まだ潜ってすらいないんだから何か変わるわけないだろ」

「それもそうか。おれとしては月曜日にまた違った姿のお前が見られるかもしれないと思うと楽しみで胸が躍りそうだ。今日の昼食もこのパン一つで満足できそうだよ」


 そういう隆介の手には大盛ツナタマゴサンドが握られていた。あっちも懐事情は似たようなもの、早く稼げるようになって隆介に残りの金を渡して探索者としても仕事をして生きられるんだ、ということを見せつけないといけないな。


「しかし、探索者って本当に儲かるのかなあ。そこまでガッツリ儲かるという話を聞いたことがない」

「それについては運の部分も大きいらしいぞ。いくら強くてモンスターを倒せても、モンスターが素材や魔石をドロップしないことには無料奉仕になってしまうらしいしな」

「ということは、モンスターは必ず何かくれるというわけじゃないわけか」

「そういうことらしい。だからまあ、お前の日ごろの行いやこれまでの品行方正さに関わってくるんじゃないか? 」


 品行方正のいい奴は探索者になろうなんて思わないとは思うんだが、俺もそう良い奴というわけではない。しいて言えばお地蔵様を一つ助けたぐらいしか思い浮かばないが、それがあのダンジョンに関わってくるんだとしたら、あのダンジョンの存在は俺の大きな助けになってくれているのは確かだろうな。


「次の小テストは来週後半らしいぞ。探索もいいが、勉強もしろよ? 」

「そのつもりではいる。ダンジョンに行くのは土曜日、明日だ。日曜日は……空腹を友にして精々学業に精を出すことにするよ」

「しかし、わざわざ家で作ってくるところを見ると、本当にギリギリの生活って感じだな。普通は塩パスタとまではいかなくても何か購買で買ってくるぐらいのことはするもんだが」

「せっかく料理が出来るんだ。けちるギリギリのところまではけちりたいんでな。それに何より塩パスタは腹だけは膨れてくれるからな。一週間やり続けることはできないにしろ、三日ぐらいは塩パスタでもなんとかなるところだぞ」


 一人暮らしで金欠は幾度も経験してきた。振り込まれる生活費にも限度はあるのだ。その中で無理くりやっていくにはそれ相応の技術と経験が役に立つ。俺だって伊達と酔狂だけで一人暮らしをしている訳ではないのだからそのぐらいのやりくりスキルはある。腹が減っては勉強もできないからな。


「こっちは最悪、女の子の手作り弁当という秘技があるからな。腹減って死にそうという感じで付き合ってる子に恩赦を乞えば、一日ぐらいは作ってくれる可能性がある」

「それ、本人の前で言うなよ。バレたら一気に引かれるぞ」

「お前しかいないから言えるんだよ」

「へいへい、それは信頼の厚いことで」


 塩パスタを胃袋に納め、野菜ジュースを飲みかろうじて足りないミネラルを補うと、伸びをして空を見る。やはり、昨日よりも視力や聴力が敏感になっているように感じる。風が吹き、女の子のスカートが捲れる瞬間を見逃さずに追う俺と隆介。


「何色だった? 」

「淡いグリーン。あれは上下揃いのセットと見たね。きっと勝負下着だな」

「そこまで考察できるのか。流石親友だな」

「まだ新しそうだったからな。古い使いまわしなら上は何色でも構わないだろうが、あのスカートの中身はまだ新品同然の様子だった。これは上下セットで買ってちゃんと着まわしてるか、この後デートの予定があるかだな」


 そこまで考察できるのも細かいところまで見える視力があってのもの。やはり、レベルアップの恩恵というのをこんなところでまで感じ取ることができるとは思わなかった。


「そこまで見えたのか……お前やっぱりなんか昨日までと違くね? 」

「そう言われると、あそこまでくっきり見えたのは初めてかもしんない」

「探索者になるとそういうのも鋭くなったりもするのか? 」

「だからまだ一回も潜ってないってば。そんなに簡単に人が変わるようなら、世の中の学習塾はほとんど潰れてみんなダンジョンに通う探索者になってるはずだ。だからたまたまだよ」


 たまたまとは説明しているものの、本当に俺専用ダンジョンの効果とレベルアップのおかげだとすると、これから風が強い日は目の保養がたくさんできて健康にいいことになりそうではある。昼休みはそうやって、爽やかな青春に包まれながら過ぎていった。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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