第69話:小テストと勉強日
今日は世界史の小テストがあった。予習復習がバッチリおこなってあるおかげでその場で採点したテストは満点。おかげで、中間テストの点数がまぐれではなかったことを証明できた。
「見違えたな本条、良い塾講師にでも恵まれたのか? 」
教師もでき栄えに唖然としているらしく、ひたすらべた褒めだった。周りの生徒からの反応も違う。見た目が良くなっただけでなく頭までよくなった。その原因はダンジョンにあるんじゃないか、と密かに噂になっているのも仕方がないところだろう。
休み時間に隆介にテスト結果を見せてどんなもんよ? と比べてみたが、隆介も満点を取っていた。
「これもダンジョン効果かもしれないな。思いっきり体を動かすおかげで勉強するにも身が入っていい感じに点数が取れたぞ」
レベルが上がってないはずの隆介でも効果があるのだから、これはダンジョン活動の影響である、ということが上乗せされてしまったみたいなところはあるが、隆介としては元々得点が取れる所に、勉強の合間にダンジョン活動を挟むことで良い感じの血行促進になっているんだろう。
「しかし、だ。これで期末テストは手が抜けなくなったな。本気で勝負しに行かないと幹也にまた上をいかれてしまう。由々しき問題だ」
「なんなら、俺の家でテスト勉強でも良いぞ? 勉強代は菓子そちら持ちでいくらでも教師役を買ってやる」
「なに言ってんだ。結果が出るまでがテストだからな。次こそ幹也に上をいかれないように頑張らないといけないところだ。敵に塩を送ってまで頭を垂れに行くほど俺も鈍っちゃいない」
どうやら期末テストまでは敵対勢力扱いになるらしい。まとめて勉強を見たほうが都合がいいからなんだけどな。でもまあ、二人分の装備があるところとか、専用ダンジョンのことは見えないとしてもいかにイチャイチャしてるか見せつけることになるかもしれないしな。今の隆介には少々毒かもしれん。
しばらくのところは俺と彩花で静かに勉強して期末に向けて粛々と勉強するのがいいだろうな。彩花にメールで「勉強していかないか」とメール送信。しばらくしてメールが返ってきた。「わかった、行く」だそうだ。今日は勉強会だな。
「なんだ、勉強デートか? 」
「そんなところだ。土曜日は毎週ダンジョンデートだから、他の日は勉強するという理由でもつけないとうまく回らないからな。できるだけ集中できる環境で……となると、人に見られることを考慮しても家でデートするのが一番早い」
「ヤるのか? 」
隆介が親指を人差し指と中指の間に挟んでハンドサインをしてくる。
「ヤらねーよ。……今はまだ」
そう、今はまだ、だ。せめて責任取れるぐらいの度胸と器量ができてからでも遅くはないだろうとは思う。もしかしたら攻められて仕方なく、なんてことにもなるかもしれないが、その時はその時だ。覚悟はしておこう。
「ちゃんと勉強するんだぞ。保健体育の勉強ばかりじゃダメだからな」
「だからそっちの勉強はしないっつうの。そこまで行くのはまだ早いだろ。付き合い始めてまだ数日だぞ」
「恋愛の炎というのは何日付き合ったかで燃え上がる強さが決まるわけじゃない。初めて会ってその場で結ばれて、それからずっと一緒にいるケースだってある。俺の両親がそうだったらしいがな」
「こんな日にお前の両親のなれそめを聞くとは思わなかったよ。まあ、参考程度に聞いておく」
人の色恋は色々あれども、俺たちの場合はどうなのか。ダンジョンで助けたのが縁、というのはそれなりにドラマチックであったのは確かだ。ただ、彩花がどの段階で俺に興味を持っていたのかはちょっとわからない。が、別にわかる必要はないんじゃないかとも思う。色々と理由はあるだろうし、レベルアップのおかげでちょっと顔がよくなってそれで自分のストライクゾーンに入ってきた、という可能性だってある。
結果として今一緒に居られるならそれでいいのだ。この後別れることになったとしてもそれはそれ、これはこれ。今を楽しんで一緒に居られることが幸せならそれでいいと思う。何より、初彼女なのだ。もっと俺は舞い上がって空で空中三回転一回転半ひねりを加えて踊り出してもいいぐらいだ。
「まあ、俺の初恋……ではないけど初恋愛なんだ。隆介も精々温かい目で見ていてくれ」
「そのまま幸せでいてくれると色々心配せずに済むからな。まあ、恋愛感情の維持にやりくりする時間をちゃんと取ることだな。お互いの時間を使い合って楽しむことこそ肝要だ」
「先輩の意見は大事にすることにしておくさ。さてそろそろ休み時間終わるぞ。戻らなくていいのか」
「もうそんな時間か。惚気を聞くのに夢中で気づかなかった」
「はいはい」
隆介を教室から追い出すと、次の授業の準備を始める。次はコミュニケーションか。まだちょっと苦手意識はあるが、まあ何とかなるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
放課後、まっすぐ家に帰って勉強に使いそうなものをひとしきりリビングに用意しておくと、しばらくしてチャイムが鳴る。のぞき窓で確認して彩花だと確認すると、そそくさと中に入れた。
「こんにちは」
「いらっしゃい、どうぞ中へ」
「失礼するわ」
中に入って扉を閉めた瞬間、くるりと振り返って抱き着いてくる。
「わーい幹也だー」
この変わり身の早さは芸術点の配点の必要すらあるな。普段の彩花と今目の前にいる彩花が別人に見えてくる。考え事をしてたら唇をそのまま奪われた。短めだが、たしかな恋人同士の印。嫌がる必要はないのでそのまま受け入れる。
「入ってきていきなりいちゃつくなんていい度胸してるわね。私はガヤの数に入れてくれないわけ? 」
俺の部屋から出てきたアカネが呆れた顔をして出てくる。そういえばアカネが居たのをすっかり忘れていたな。完全に二人の世界に入り込んでいた。
「全く、幹也も幹也よ。完全に鼻の下伸ばしちゃって、見てらんないわ。私はダンジョン拡張してくるからそのまま二人でイチャイチャしてると良いわ。でも、勉強しに来たなら保健体育以外の勉強もちゃんとするのよ」
要らんことを言い残してアカネはダンジョンへ入っていった。アカネに完全に気をそがれたので抱きしめ合っていた手を離し、見つめ合う。
「普通に勉強、するか」
「そうね。アカネさんの言う通りになるのは何か癪だわ」
リビングには参考書とテキスト、それから授業で使ったノートと新しいノート、と一通り用意しておいた。
「さあ、勉強し放題だぞ。ヒアリングとリーディングは自信がないが、手伝いが必要なら手伝うから」
「わかった。でも先に暗記科目と数学ね。こっちは自分でなんとか解ける所まで解いて、解らなくなったら質問することにするわ」
再び静かな勉強が始まった。カリカリ……とノートに書きこむ音と、時々頭をかいたりんー? と考えるときに出る彩花の癖の言葉以外は外の喧騒しか聞こえない、とても静かな勉強風景だ。
ただしいデートだな、と思うところがあれば、向かい合わせではなく隣同士並んで勉強しているところが距離感の近さを教えてくれている。
「ここ、なんだけど……」
「そこは……こうして……この公式を当てはめれば……」
「なるほど、そうやって解くのね」
言葉少なに会話を交わすだけに徹する。レベルが上がった彩花の集中力は凄まじいものがある。俺が声をかけても気づかないこともあるぐらいだ。勉強デートとはいえちょっと置いてきぼりを喰らってるようで少し寂しいが、彼女が楽しそうに勉強をしているのを邪魔するのは悪い。このまま集中していよう。
◇◆◇◆◇◆◇
外が暗くなり始めたところで彩花に声をかける。
「そろそろ時間かな。今日も大分集中してたな」
「なんか、集中力が凄く高まっているらしいわね。勉強にこれだけ集中できるなら他の面でも色々と捗りそうだわ」
「後は結果を出すのみか。期末テストはどんな結果になるかが楽しみだな」
「前回の中間ではダンジョンに通ってて成績を少し落としてしまったからね。今回は挽回するわよ」
「期末の結果でいい成績が残せれば次の統一テストでもいい成績が残せそうだ。一気に選択肢が広まるぞ」
「もしいい成績……全国でも上位の成績を残したら、やっぱり幹也は良いところへ行ってしまうの? 」
彩花が寂しそうな顔をして尋ねてくる。
「うーん、今の所そのつもりはないんだよな。この辺なんだかんだで住みやすいし、ダンジョンも近くにあるし、ここには専用ダンジョンもある。ここから通える範囲で大学を探すさ」
「そうね……ここの周りの大学なら私でも通えるかな? 」
「期末と模試の結果によるだろうけど、あんまりいい成績取りすぎるともっと上の大学へ行けと言われそうではあるな」
中間に続いて期末と模試と、続けて好成績を修めたらよりグレードの高い大学や旧帝大あたりに勝手に押し込まれる可能性もあるが……学部が合わないとかで何か言い訳を考えておかないといけないな。
「じゃあ、手抜きするの? 」
「それは……しないかな。校風にあこがれたとか家から近いから生活リズムを崩さずに済みそうとか、色々適当に理由をでっち上げて誤魔化すつもりではある」
「ふうん……私はどうしようかしらね? 私も幹也と同じ大学に行きたいものだわ」
「いくら恋人とはいえ、進路までは口を出さないからな。自分のやりたいこと、なりたいもの、それに一番むいてそうな大学に入るのが一番いいんじゃないかな」
例えば……例えばだが、探索者学科みたいなものが設立されてそれに入るとか、そういうことでも起こらない限りは進路を変えることはないだろう。今の所は地元の大学の工学部辺りを狙っていこうと思う。
どこか地方の研究科にダンジョン研究科みたいな学科が創設されてそれに向かっていく、という流れがあるならまだしも、今の所そういう話は聞いたことがないので安心して地元に居られるだろうな。
「まあ、もう少しだけ進路については悩む余裕はある。期末の結果を見てからでも遅くはないだろ」
「それもそうね。今日明日で決めることでもないし、ゆっくり考えましょう。で、お夕飯はどうするの? 」
「ちょっと買い物に行ってそれから食材を逆算して決めようかなと。肉はオーク肉があるからまだまだ持つのでそれ以外だな。最近は野菜も高くなったがそれ以上に稼げてるから生活には問題ない感じだ」
「そういえば、オーク肉は好評だったわよ。また取りに行きましょ。じゃあ、んー」
お別れのキスをせがまれたので、ハグと合わせてしておく。またサイダーの香りがしたが、特売箱売りのミニ缶サイダーしか冷蔵庫に入っていない俺のせいでもあるので、他の味が味わいたいなら中身を変えるべきなんだろうな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




