第68話:再戦、圧勝
二人で一気に中に入り、扉は開けたまま。最悪いつでも逃げられるようにしておけば退くことも難しくないだろう。
オークチーフが動き出す。前回と同じく「グモオオォォォォ! 」という咆哮を上げ、こちらへの威嚇をする。彩花は咆哮に反応してしまい、足がすくんでいるみたいだ。
「彩花、威圧に負けるな。いつまでも立ちすくんでいるとその間に斬られるぞ」
「う、うん。これもスキルなのかしら」
「多分ね。ボスらしくていいスキルだとは思うけど、俺のレベルなら耐えれるらしい」
オークチーフが走り寄ってきて山賊刀をこっちに向け振り抜いてくる。俺の剣で受け止めると、ガキンといい音がした。どうやら向こうのほうが若干良い物を使っているらしく、音の響きが違う。
そのまま剣でがっちりと防御しておく。前回は剣が欠けるのを嫌って受け止めはしなかったが、今回は彩花がまともに戻るまで俺が受け止めていなければならない。十数秒かかるだろうがその間はしっかり守ってやらないとな。
「彩花、頑張って威圧を跳ね返せ。まず動けるようになるまではしのいでおく」
「う、うん……がんばる」
その間に数合、オークチーフと打ち合う。どうやら力の分でも同程度にまでは成長してくれているらしい。押し合いにも負けず、腕を大きく振りかぶって攻撃に全振りしたオークチーフの攻撃を難なく防ぎきることができている。打ち合いしてる間にこっちの防御を崩されることはなさそうだな。
ただ、打ち合うたびに腕が痺れる。剣が弾かれて手のひらの皮が剥けそうだ。だが、受け止められている以上問題はないだろう。
そのまま押し合いを続けている間に彩花が動けるようになったのか、俺の背後から移動してオークチーフの側面に回った。側面から更に背面に回り、背中からオークチーフを刺す。刺した場所が悪かったのか、オークチーフは痛がるそぶりも見せずにこちらにかかりっきりだ。
「彩花、防具がないところを優先して刺していくんだ。この際急所じゃなくていい。そっちに意識が行きそうになるまで攻撃を続けててくれ」
「わかった! 」
彩花が背中から攻撃を続ける。オークチーフも背中でチクチクしている彩花を相手にするのが面倒そうだが、こちらでしっかりと攻撃を抑えているため防戦にも向かえない、ということでストレスを与えているのは間違いない。
「GAAAAAAAAA! 」
うん、うん、いい悲鳴だ。鬱陶しい、とでも言ってそうな叫び声をあげながら後ろを振り向こうとするが、後ろを向いたらこちらの剣が相手の身体を適切に切れ込みを入れていく。どっちに反応しようか悩んでいたら、俺と彩花二人分の攻撃がオークチーフを襲う。徐々に黒い霧をあちこちから吹き出し始めた。ダメージを受け始めたのが間違いないらしい。
「ちょっと、全然効いてないじゃない!」
「効いてる効いてる。それなりにタフだから効いてないように見えるだけだ」
そのままオークチーフの山賊刀の向きをこちら側に抑えたまま、彩花が回り込んでは背中への攻撃に集中する。だんだんオークチーフの防具も形が崩れていき、着こんでいる革鎧も徐々に崩壊を始める。
オークチーフが大振りで剣を振り下ろしてくる。俺はわざと受け流しきらず、肩をかすめさせてでも隙を作った。
「今だ、彩花!」
彩花の剣がオークチーフの脇腹を深く貫く。ほぼ同時に、俺の刃も胸元を裂いた。巨体がよろめき、咆哮もなく崩れ落ちる。
「ラスト一発、もう一撃! 」
「ええ! 」
最後の一撃を、とボロボロになったオークチーフの革鎧の上から剣を心臓に向けて突き刺し、それと同時に彩花が背中から同じところへ刺し直す。
オークチーフは今度こそ力尽きたのか、その場に倒れ込んでそのまま動かず、そして黒い霧が盛大に飛び散り、霧散した。オークチーフを撃破したということで間違いないだろう。
「ふぅ……お疲れ……お」
「しぶとかったー……お? 」
どうやら二人ともレベルが上がったらしい。俺がレベル9で彩花がレベル5かな。
「やった! またレベル上ったっぽい! 」
「俺も上がったらしい。さて、ドロップ品だが……これは俺に使えって話かな? 」
後に残ったドロップ品は魔石と、オークチーフが持っていた山賊刀……らしきものがドロップされていた。スキルスクロールのドロップはなかったようで一安心だ。また【精力絶倫】なんて出た時にはどういう顔をすればいいかわからない。
山賊刀は鞘付きでドロップされた。どうやら鞘もセットでドロップしてくれる持ち歩きに安心設計らしい。これもダンジョンの謎って奴だろう。しかし、今の武器よりは使いまわしが効きそうであるし、今後はこっちの武器を使っていくことにしよう。
「俺が使ってもいいよね? 」
「いいわよ。その代わり、幹也の使ってる剣を代わりに私が使おうかしら。小剣よりも頑丈そうだし、重さは多分気にならないわ」
「どれどれ。試しに持ってみ」
彩花に俺の剣を渡して振らせてみる。うん、振られてる様子もないし、丁度いいんじゃないかな。
「大丈夫そうだな」
「うん、このぐらい丈夫ならオーク相手でもリザードマン相手でも引けを取らないと思う。私もちゃんと戦力になるわよ」
「充分戦力にはなってくれているけど、小剣で頼りないならそっちを使ってみるといい。悪ければ元に戻したり握りを替えてもらったりして体になじませることもできると思うし」
「うん! 」
満面の笑みで振り返る彩花。剣をもらってうれしい女の子……というのは置いといて、とりあえず前回ほどの苦戦はしなかった、ということでいいんだろう。
とりあえず小剣は邪魔だろうと言ってこっちで受け取り、俺は山賊刀をこれからメインウェポンとして使っていく。小剣は……とりあえず彩花のだし、彼女が中古に出すなりなんなりするだろう。しばらくは俺の剣を使ってくれる様子だから武器としては安全にはなるのかな。
「大荷物のドロップになったし、一度帰るか」
「そうね。剣が三本あっても邪魔なだけよね。一旦帰って、それからまた来ましょ」
二人で来た道を戻り、まだ湧きなおしていないレッドキャップを安全に通り抜けてそのまま真っ直ぐダンジョンを出て、一旦小剣とドロップ品を置いて、オーク肉を洗って冷凍庫に入れた後もう一度入りなおす。
再びスライムからだが、オーク肉はもう十分手に入れているのでお土産に持ち帰っていくにも問題はないし、丁寧にビニール袋で包んであるのでこれお家へ持ち帰って食べてね! と彩花に持たせることもできる。多分オーク肉についてはここで手に入れた分には自家消費するのが最も安全なんじゃないかと思っている。
オーク肉を何日放置したら腐るのか、なんて実験もしている人はいるだろうが、ダンジョンの換金カウンターで換金する際に保存処理は施されているはずなので、長くても三日ぐらいは常温放置でも問題ないような気はするが……やはり自分の口に入るものではあるのでできるだけ短い時間で換金に回すなり自家消費のために冷凍庫へ入れるなりしておくのが確実なんだろうな。
普通のゴブリンを適当に相手しているところでいつもの探索終了の時間が来た。これ以上長くなると彩花の家にも迷惑がかかるからな。ダンジョンに潜ってくる、と家には言ってあるんだろうし、彩花にそろそろお時間だと説明する。
「ここにダンジョンがある割にはあんまり長い間潜らないのね」
「職場が近いからと言って残業するのはあまりいいこととは言えないからな。適度に戦って適度に帰る。今日に限って言えば、ボスに再戦できたことで目的は果たしてるんだから、それより後はオマケみたいなもんだ。土曜日にこれを換金がてら長めに潜ってアリバイ作りってところだな」
「じゃあ土曜日は駅前ダンジョンでいつも通りデートってことね。毎週デートの約束があると思うと一週間乗り切れそうよ」
嬉しいことを言ってくれるなあ。ついニヤニヤしそうになってしまう。いや、今こそニヤニヤするべきではないのか。よし、ニヤニヤしよう。
「土曜日は五層へ向かうか。五層にはボス部屋があるし、ボス部屋に挑戦したふりをしてオークチーフの魔石を提出すればいいしな。ただ、オークチーフの魔石が必ず落ちるかどうかはわからない……か。ちょっと調べてみるか」
ダンジョンから出てスマホでオークチーフの情報を調べると、オークチーフは必ず魔石をくれるらしい。これで一つ懸念事項は解決かな。二回ボス戦に挑んだことにしておけばいい。後は山賊刀と、スキルスクロール、そしてオーク肉の塊を確率でドロップする。今回はオーク肉とスキルスクロールのドロップはなかったが、山賊刀は落としてくれた。
どうやらこの山賊刀はそれなりに活躍の場があるらしく、十層ぐらいまでならこいつで充分という情報も得られた。中古の流通価格は二十万円ぐらいらしい。結構高級な武器であることには違いない。ここでこいつを拾えたのは戦力強化にきっちり役に立ってくれるはず。
魔石をベッドの下に入れると、彩花にもオーク肉の冷凍仕掛けの物を渡してこれで一品作ってもらうと良い、と持たせる。
「お土産もできたし今日はなかなか楽しかったわ。また土曜日の駅前か、暇な日に来るからその時はメールするわね」
「こっちも、隆介の付き合いで駅前ダンジョンに居るかもしれないからその辺はうまく合わせていこう」
「うん、それじゃあまた明日ね」
明日も会ってくれるらしい。別れ際に軽くハグすると思い切り抱きしめあげられてきた。レベルが上がってる分力の入れ具合がまだ解ってないらしい。苦しいが、嬉しい苦しみだ。
「ギブギブ。レベル上ってる分力加減まだうまく行ってないから。帰ったら十分気を付けて」
「あ、そうだった、ごめん。でも、力いっぱい抱きしめられたからいいわ。しっかり幹也の香りも補給できたし。防具は置いていくけどいいわよね? 」
「ああ、何なら洗って乾かしておいてもいいけどどうする? 」
「そう? じゃあお願いしようかしら。土曜日までには乾くわよね」
「明日は潜れない、ということだけ認識してもらえてればいいかな。さすがに一日あれば乾くと思うし」
「じゃあ任せたわ」
彩花が家に帰っていく。見送ると、俺の防具も洗って乾かすか、ということで風呂に入るついでに防具も洗う。まだ洗う前の防具をじっと見る。まだ彩花の香りが残っているその装備をそっと鼻に……
「じーっ」
鼻に……当てようとして、アカネが静かに見つめているのを確認して、そっともどして洗い始めた。チャンスはいくらでもあるんだからここでこっそり香りを楽しむ必要はないんだ。思い直してじゃぶじゃぶと洗い始める。
「うん、踏みとどまったのは良い傾向ね」
「うるせえやい」
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