第65話:おもり
駅前ダンジョンに急ぐ。レベルのおかげか、飛ばしてもそれほど疲れない。全力を出す前に信号で引っかかってしまうので全力で自転車を漕いだことは今の所ないが、今の自分の脚力を存分に発揮した場合、どのぐらいのスピードが出るのかは一度試してみたいところ。まあ、危ないからほどほどで良いんだけどな。
駅前ダンジョンへ自転車を停め、入場列の横で突っ立っている隆介に声をかける。
「待たせたか」
「なんの。待っているのは嫌いじゃない。待たされるのは女の子に限って許すけどな」
早速入場し、一気にゴブリンエリアとシールドゴブリン、ゴブリンアーチャーが出る辺りまで進む。
「さあ、今日はこの辺で探索だ。きっちり俺を守ってくれよ。あまり積極的には戦闘に参加するつもりはないが、暇つぶしには参加するつもりではいる。前回は……正直放置プレイを強要され過ぎてて飽きたからな。ほどほどに楽しませてもらう予定だ」
「よし、俺の今日の予定はキッチリお前を守ることと、【盾術】に使われないような立ち回りを心がける、というところか。課題が解ってると解決がしやすくていいな」
隆介に続いて一気にゴブリン族ゾーンへ到着する。シールドゴブリンとゴブリンアーチャーが出てくる、俺にとっては通い慣れた場所だが、隆介には守る特訓としては充分に機能する場所ではある。それに、包丁槍でオークの相手をするのはちょっと難しい。おそらくレッドキャップを相手にするにも、今の武器ではまだ戦えるとは言えないだろう。
包丁ではさすがに刃が薄すぎる。もうちょっと分厚い槍先のものを用意するか、槍そのものを交換する必要があるだろう。だから今の隆介の装備や実力ではここまでが限界だろうと思っている。
早速現れたシールドゴブリンに対して、俺とシールドゴブリンの間の直線上に構える形で隆介が立ち位置を取る。その姿勢はいい。ただ、これが複数になるとなかなか面倒な作業になるだろうな。
今の所は一匹だけなのでいいが、これが二匹や、ゴブリンアーチャーが混じってくると話が変わってくる。どっちを優先して倒し、どのように動き回るか。それが試されている場面になるだろう。
「よしこい! こっちだ! 」
「ギャッギャ! 」
盾を叩いてシールドゴブリンを威嚇する隆介。威嚇に乗ったシールドゴブリンが隆介にシールドバッシュを繰り出してくる。
「ギャ! 」
シールドゴブリンのバッシュを盾が弾かれないようにうまく受け止めると、包丁槍を盾の隙間から差し込んでゴブリンに攻撃を加える。ゴブリンはもう片方の手に持っているこん棒で受け止めるも、こん棒ごと弾かれて体勢を崩す。
その間に逆にシールドゴブリンに隆介側からシールドバッシュを食らわせ、ゴブリンの体勢を崩させ、そのスキにもう一度包丁槍でゴブリンに攻撃を加える。今度はゴブリンの胸にうまく刺さり、刺さった槍を抜こうとゴブリンが体勢を変えようと試みるが、隆介が包丁槍に体重をかけて抜けないように踏ん張る。シールドゴブリンはついにシールドとこん棒を投げ捨て、両手で包丁槍を抜こうと試み始めた。
「抜かせないぞ、このまま押し込んでやる」
ググっと押し込んで更に体重をかけていき、ゴブリンを押し込んでいく。そのままゆっくりと包丁槍が押し込まれていき、あるところまで押し込んだところでゴブリンの抵抗は止み、ゴブリンは黒い霧になって消滅した。
「お前にしては時間をかけて戦ってたが、何か考えがあってのことか? 」
「まあな。これを高速で繰り返していけば、という型稽古みたいなもんだ。次からはきっちりやるから大丈夫だ。さあ、どんどん探していかないと、時間効率が下がるぞ」
隆介が気を取り直して次を探し始める。隆介の後ろを警戒しながらついていく。そのまま二、三回の戦闘を挟んでみたが、俺を守るようにする姿勢は崩すことなく順調に乗り切っている。一匹が相手なら問題なしってところだな。離れた二匹に対してどう対応していくかは解らないが、うまくやり遂げてくれるだろうと信じて隆介に一任することにする。
しばらくして、ゴブリンアーチャーとシールドゴブリンのコンビが現れた。さて、ここでどうするか。隆介は後ろへ下がって俺を守るようにカバーする形に入った。こっちが後ろに下がることでモンスターが前に出てきて、更に障害物を利用して守る角度を限定することで、できるだけ敵を直線状に配置することに成功している。
「良い格好だ。守る相手が手ぶらであってもこの配置なら守りきれるだろうよ」
「それを狙ってだが……そろそろ手を出してくれると嬉しい」
「まあ、この形で防御をすることで戦闘になり辛くはなるが、守りについておおよそ理解してくれたことは通じた。このぐらいで良いだろうな」
そのまま隆介の肩をポンと叩くと、前へ出てシールドゴブリンのシールドを剣で弾いてそのまま胴体に一発入れる。そして抜いた後で、首を狙って剣を差し込んで首を切り落とす。
「早いな……こっちも負けてられないぞ」
隆介がゴブリンアーチャーに向かっていく。一歩二歩と一気に駆け寄ると、弓矢を番えられて発射体制になっていたゴブリンアーチャーに向けて切りつけ、その矢が発射される前に弓の弦を切って攻撃手段を失わせる。仕方なく素手に矢を掴んで応戦してきたところを、包丁槍の長さをうまく利用してゴブリン以下の存在になったゴブリンアーチャーを撃破する。
「これでどうだ! 」
「まあ、及第点だな」
「また及第点か。採点が厳しくないか? 」
「最初からどっちがどっちを倒すか考えておくべきだったのと、さっさと攻撃に移らなかった点がまだまだだな。まあ、頑張りたまえ。次からは普通に戦い始めるぞ。あんまりお前の相手ばかりしていても金にならんし、お前は俺が危ないと思った時にカバーリングに入るような形でやってみてくれ」
「おう、お前の動きについていけるかどうかはわからんが、せめてケツを守るぐらいはやってみよう」
隆介の動きが一気によくなった。やはり防御に気持ちを割かなくてよくなった分だけ攻撃に集中できるのだろう。
交互に、というわけではないが、適度に自分の獲物を交代させつつ、二匹三匹のシールドゴブリンとゴブリンアーチャーとの戦闘を行う。こっちは問題なし、慣れた戦闘だ。
隆介のほうは……ゴブリンアーチャーに少し手間取っているのは相変わらずか。どうやら遠距離攻撃は苦手らしい。盾で矢を防いでその間に突っ込めばいいはずなんだが、どうもその盾の扱いに苦労しているらしい。まだ【盾術】と自分の体の動きが馴染んでいないんだろう。
「もうちょっとかかりそうか、盾術の習得は」
「そうだな、近接戦なら何とかなるんだが、矢が飛んでくると体が勝手に動くように弾いてくれるからその意識と体の動きの差がまだうまく行ってない様だ」
ふむ……そういう不具合もあるという事か。スキルも覚えれば何でもいいというわけでもないらしい。隆介をいけにえにした形になるが、一つ知識として蓄えることができた。隆介には悪いが、そのままうまく使いこなしていてほしい。それが成れば、隆介本人にとっても実りになるはずだからな。
そのままゴブリンのところでしばらく経験とドロップ品を積み上げて、次のエリアに行くかどうか隆介に促す。
「どうする、次のエリア行ってみるか? 」
「そうだな……体験しておくだけ体験しておいてもいいかもしれない。行くだけいってみよう。案内を頼む」
隆介を連れてレッドキャップエリアに行く。ゴブリン族エリアの奥に居たため、レッドキャップエリアは比較的近くにあったので、少しの移動距離で済んだ。
「ここからがレッドキャップゾーンだ。奇襲してくるから注意しろよ」
「全方向に目をつけろということか」
「まあ、そこまではいわないが、できるだけ全方向に警戒する、というのは間違いない。足音とかもできるだけ聞き取れるようになるのが一番良いんだけどな。それ専用のスキルもあるらしいが、ここを抜けた先じゃないとドロップしないらしいからなかなか都合がつかないんだよね」
「こいつ自身は何を落とすんだ? それだけ厄介なモンスターならいいスキルを落とすと思えるんだが」
「【スニーキング】だ。お前には前に話しただろう」
「ああ、そうだったな。なるほど、そういうスキルを持ってるから見つけにくい、ということもあるわけか」
大まかに理解してくれたらしい。前後を確認しながらゆっくりと歩いていく。しばらくして、前方にレッドキャップを見やることができた。同時に、後ろにもレッドキャップがついてきていることを確認。これは囲まれるかな?
「四時方向、そっちは俺がやるから正面頼む。相手はナイフだから充分注意してくれ」
「解った。でも、この武器でなんとかなるのか? 」
「そう思ったら防御に徹して俺が倒すのを待て、じゃあ、一、二の、三」
同時にお互いのターゲットに勝負を挑む。さて、散々戦い慣れたレッドキャップだ。こっちは問題ないとして、隆介が上手く調整できるかどうかだな。
レッドキャップがナイフを腹に抱えて、一直線に突っ込んでくる。彩花の特攻スタイルの戦い方を思い出して少し笑顔になってしまうが、剣で完全に受けきるとこっちの武器にもダメージが入るかもしれない。
突進を全力で避けて、そのまま二回、三回とナイフを振るってくるが剣で往なしながら回避。胴体が空いたところで剣で心臓を一突きにしてレッドキャップを倒す。ちょっと時間がかかったか。隆介は大丈夫かな?
隆介のほうは良い感じに攻撃の応酬になっていた。さすがに包丁槍ではなかなか削れないらしく、いくつか傷をつけてはいるものの、致命傷に当たる攻撃はまだできていない様子。レッドキャップがどんな攻撃をしてくるかがわからない以上、防御に重きを置いてスキを見つけて攻撃する、というのは悪くない手段だと言えるだろう。
「援護する」
「助かる」
レッドキャップの攻撃を受け続けている隆介の裏から出て、二対一の戦闘になる。レッドキャップがどっちを攻撃しようか少し悩むそぶりを見せる隙に隆介が太ももに槍を差し込み、レッドキャップがたじろぐ、その間に剣を振り抜き、首をはねた。
「さすがに初体験でこいつはなかなかに刺激的だったな。何回か戦ってみて、それから対応を考えるか、武器そのものを変えるかが必要か」
「さすがにその包丁でナイフとレッドキャップの重さを支えるには分不相応だからな。さっきのゴブリンたちだけで稼いでなんとか新しい武器を買うしかないな」
「やはりそうか……よし、さっきの場所に戻ってもうちょっと稼いでそれから帰ろうぜ。無理に強いモンスターと戦うより数が居る戦いやすいモンスターと戦って稼いで帰ったほうがまだ合理的だ」
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