第63話:デートはダンジョンで 2
結局肉が三つ落ちるまで彩花は帰らなかった。流石にお昼ご飯の時間もあるのでそろそろ帰ろうと言い出したのは、彼女のレベルがもう一つ上がってからだった。
「これでレベル4ってところかしら。ここから上がりにくくなってくるのかしらね」
「二人でいるから経験値が分配されてる可能性も考えないとな。どういう分配をされているかなんて研究している学者もいるらしいが、詳しいことはまだよくわかってないらしい。少なくともその場にいるだけでも経験値の分配が行われているらしいことは判明しているけど、そもそも経験値という概念自体薄いんだからここまで経験値の差がわかるようなダンジョンが他に存在しなきゃ確認のしようがないよね」
「幹也の時はどうだったのよ? 」
「俺の時は……ひたすらゴブリンと戦ってたかな。だからもしかすると、ある一定の範囲に居る人に等分配されてる、という辺りが一番現状に近いんじゃないかな」
「まあ、レベルが上がったんで私もより可愛くなってるはずよね。どうしよう、月曜日学校に行ったら噂されちゃうかもね」
確かにそうだな。俺もレベルが1から2に上がった段階で隆介に人物確認をやらされたぐらいだ。1からいきなり4にあがった彩花をみたら、他の人は仰天するかもしれないな。
「その時は彼氏が出来たから綺麗になった、ってことにしとくわ。良いわよね? 」
「……彩花が嫌じゃなければ」
「じゃあ、それできまりっ。さあ、帰って勉強しましょ。オツムの出来がどれだけよろしくなっているか楽しみだわ」
腕にくっついてくる彩花。可愛いが、こういうキャラだったかな? もうちょっとツンとしてたような気がするが……まあいい、俺の前だけでこういう姿を見せてくれる、というならそれはそれでごちそうだ。
「こっちもご馳走様。二人とも楽しそうで何よりだわ」
アカネのほうを見ると、幸せそうな俺達から青い光を吸い取って成長の真っ最中だった。鼻血が出るなら出そうな空気を真に受けて、にやにやとしている。二人の幸せオーラで勝手に成長してくれるならそれはそれで手間がかからないから良いな。
レッドキャップゾーンを静かに歩き抜け、ゴブリンたちを邪魔にならない範囲だけで倒し切ると、無事に入口まで戻ってきた。
出入口を抜けて靴を脱ぎ、防具を外して武器を元に戻しておくとさあ、お昼ご飯だ。さて、何を作ろうかな。
「お昼何が良い? オーク肉一枚を贅沢に使った生姜焼きとかそういうリクエストも受け付ける」
「むしろそれで! 分厚いまま焼いて半分こしましょ」
「じゃあ生姜と調味料を混ぜ込んで……しばらく寝かせる必要があるな。そのほうが美味しくなる。これなら事前に準備しておけばもっとおいしくなったはずだが、時間がないので時短といこう」
塩・胡椒で下味をつけて、酒を振りかけて、ほんの少しの間馴染ませておくと、その間にたれの部分をしっかりと量って混ぜておく。中火で肉を焼き始め、両面焼き色がついたところで混ぜておいた調味液を投入、とろみがつくまで両面にたれを回して良く焼きながら表面にたれがしっかりまぶされていくようにすると、丁度中に火が入ったぐらいで焦げ目がつき始め、酒と砂糖とみりんとしょうがのいいにおいが立ち込め始める。
「お腹空いてきた……2000円の生姜焼きと考えれば贅沢よね」
冷蔵庫に入っていたサイダーをちびりちびりやりながら彩花がご飯をよそい始める。付け合わせのキャベツも切ってくれているし、手際は良いんだな。二枚の皿を準備して、それぞれにキャベツを乗せて後はお肉の登場を待つだけ、という形にセッティングしてくれていた。
片方の皿に肉を一枚ドンと乗せると包丁で半分に切ってもう片方に乗せる。時短オーク肉の生姜焼き、完成だ。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
「わたしもー」
アカネが青白い光と共に料理の出来栄えを吸い込んでいく。流石に手間暇かけてない分だけ量は少なかったようだが、食べられないことはない、という感じの感想だ。また角煮を作ってたっぷりとご馳走を味わってもらうことも考えないとな。
「んー、柔らかくて美味しい」
彩花から誉め言葉が一番に出る。どれどれ、俺も一口……角煮ほどではないが柔らかいままのオーク肉が口の中でほぐれ、しょうがと酒の香りが鼻に入って何とも美味い。このレシピは行けるし、肉をスライスして薄切りの状態で生姜焼きを作ればより美味しいものが出来上がるな。これはレシピ集に一品加えておこう。
「ふぅ……今日の料理も中々悪くなかった。これは俺のレシピに入れておこう。最悪オーク肉を細かくして、生姜焼き風パスタにするのも有りだ」
「パスタから離れたりはされないのですか」
彩花から丁寧口調で苦情が飛ぶ。
「朝も見た通り、出来るだけ寝ておきたいんだよね。その為に朝昼パスタは経済的にも効率的にも悪くないから。夕食はこういうものをちゃんと作るからセーフってことで一つ頼むよ」
苦情をさらりと流す俺。
「仕方ない子よね。ストイックな所は否定しないけど」
「朝、ご飯を炊いておいて正解だったわ。これでご飯が無かったらパスタと生姜焼きになる所だった」
和気あいあいと三人で食事し終えて、昼からは勉強の時間。彩花は暗記項目を次々と読み込んでいき、質問を出すがスラスラと出てくるようになった。流石にレベルが一気に上がると頭の冴えのほうもよろしくなるのか、前に教えていた数学や物理に関しても公式を思い出して当てはめることで簡単に正解していく。これなら期末テストはかなり悪くない点数を取れるようになるんじゃないかな。もしかしたら二十位圏内も狙えるかもしれないぞ。
「私、暇」
アカネが本当に暇そうにしている。二人で集中して勉強をし始めたためか、構ってほしいらしい。しかし、せっかくの勉強タイムだし、彩花はアカネのつぶやきすら聞こえないぐらいに集中している。
「本職に戻ってきたらどうだ、別に勉強にまで付き合ってもらう必要もないわけだし」
「まあ、それもそうなんだけどね。貴方たちの勉強で私も学べることはあるのよ、常識とか世間とか。ただ、それらが一切なくて本当に勉強にだけ二人とも集中してるからここで学べることはあんまりないかなって。私が先生するわけでもないし。ちょっと出かけてくるわ」
アカネはふよふよと窓から外へ行った。きっと迷える人々を導きに行くか、自分の祠に戻るかしているんだろう。きっと夕飯には帰ってくるだろうな。
そんなやり取りすら耳に入らないように、彩花は集中している。次々に単語帳を読んでは記憶し、文脈を構成して英語の書き取りをしている。俺も試験前はこんな感じだったんだろうか。つい最近の話なのに覚えてないな。ただ、気が付いたらそれだけの学力が身についていたのは確かだろう。
カリカリと、ペンを走らせる音だけが響く。ここがわからない、という質問すら飛んでこない。多分、わからなかったら自分で調べてとっとと正解を導き出すか、本当にわからない所がないのかまでも判断がつかないほど集中している。
ちょっとトイレに行こうと身動きをしても、彩花は動じない。完全にゾーンに入ってるな。これは休憩を取ろうと言い出すのも野暮ってものだ。そのまま本人がやりたいだけやらせてやるのが一番だろう。トイレに行ってついでに水分補給して戻る。そしてまた勉強。
図書室や自主学習室でもここまで集中して勉強している奴は居ないのではないか? むしろ寝てないよな? と心配するほどに集中しているので、少し置いてきぼりにされている感すらある。勉強熱心なのはいいことだが、これはこれで少し寂しいな。
ちょっといたずら……とか普通なら考える所かもしれないが、彼女の成績がかかっている勉強をそんなちょっとした子供心で邪魔するのはもったいないだろう。俺も真面目に取り組むか。
◇◆◇◆◇◆◇
「彩花、彩花」
「ふぇっ、何、どうしたの? 」
「どうしたも何も、もう外暗いぞ」
結局昼飯を食べてから五時間弱、ひたすら勉強に集中していた彩花だったが、外が暗くなって流石にもう遅い時間だということを伝えなければいけない。そのまま泊まっていく勢いで勉強に集中していたからな。
「やだ、もうこんな時間なのね。あれ、アカネさんは? 」
「本業の道祖神をしてくるって随分前に出かけたぞ。泊まっていくわけにもいかないだろうし、今日のところは帰ったほうがいい。充分勉強できただろうしな」
「そうね、彼氏をほったらかしにして勉強してたわ。もう少し何か、こうすることがあったかもしれないわ」
「まあ、いずれはそうなるかもな。随分集中していたけど、成果のほうは出そうか? 」
適当にパラパラッとページをめくって例題を出題してみる。例題を全て言い終える前に解答を出されてしまった。
「丸暗記でもしてるのかって位キッチリ覚えてるな。これなら期末もこの調子で覚えていけば大丈夫そうだ」
「家に帰ってもきっちり勉強してたと言い張れるわね。昨日今日とありがとう、おかげでなんだか色々とスッキリしたわ」
「それじゃ、また明日学校で。学校でどういう反応を見せてくれるか少し楽しみでもあるけどね」
「いつものちょっとツンとした感じの私と、今みたいな私、どっちが好みかしら? 」
少し色気のある表情でどちらかの選択を迫ってくる彩花。どっちが好みか……
「贅沢を言えば、今の感じを俺の前だけで出してくれる方が好みかな。俺だけが知ってる彩花の姿ってことで独り占めしたい」
こんな歯の浮くようなセリフを吐けるようになるなんて、俺も昨日今日で成長したな。
「じゃ、そうするわね。それじゃあ幹也、また明日」
チュッ、と頬にキスをされると、そのまま振り返らず帰っていった。若干にやけたままの自分を自覚しつつ、彼女が口づけていったところをそっと触れると、そのまま唇に当てて唇同士でキスしたつもりになっている。
「そんなことしなくても、唇にくれって言ってたら多分彼女、してくれてたわよ」
うわぁびっくりした! アカネ帰ってきてるなら帰ってきたと先に言ってくれよ。
「丁度タイミングが重なったのよ。それにしても「俺だけが知ってる彩花の姿」なんてよくそんなセリフが言えるようになったわね。私感動しちゃったわ」
……ずっと居たんじゃねえか。しっかり見てたんじゃねえか。
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