第62話:デートはダンジョンで 1
翌日。朝早くに彩花は来た。どうやら待ちきれなかったらしい。普段は日曜日は遅く起きるので、寝間着でのお出迎えになった。
「彩花、朝早いんだな」
「幹也が遅いんでしょ。その様子だとご飯もまだみたいだし、適当に一品作ってあげるわ。その間に顔洗って身支度してくると良いわよ」
彩花に急かされるように部屋に追いやられると、仕方なしに着替えて顔を洗い、戻ると生野菜の胡麻和えのようなものが出来上がっていた。後、パスタを茹でておいてくれたらしい。
「どうせ幹也なら朝からパスタだと思ったから茹でておいたわ。あとは野菜の一部を使ってちょっとした一品を作っておいたから味の感想を頂戴。それと、ご飯を炊いておいたからお昼はお米が食べられるわよ。アカネさんは? 」
「いるわよ。幹也が着替えてるのをガン見してたわ。結城さんは朝早くて偉いわね。幹也はダンジョンに行かない日はギリギリまで寝てるから、日曜日は遅めの起床なのよね」
遅れてアカネが部屋からふよふよと浮いて出てきた。アカネも眠りモードから起き上がったらしく、軽く伸びをしている。丸まって空中で眠っていても体が凝ったりするんだな。
「なるほど、覚えておくわ。パスタソースは何が良い? 」
「確か一人用のペスカトーレが賞味期限近いはずだからそれで」
「どれどれ……あったわ、たしかに一番期限は近いわね。それでも十分時間に余裕はあるけど」
茹で終わった鍋でそのまま温めてもらい、温まったところでフライパンでパスタを炒めながらソースを投入。魚介のいい匂いがふわっと広がる。
「わーい彼女飯だ……うん、これ中々美味しい」
「そう? よかったわ」
声には出さないようにしているようだが、耳が少し赤いところを見ると照れている様子だ。
「ちなみに結城さん、あなたの思考も幹也の思考も近くに居たら私に駄々洩れだからね。喜ぶときは思い切り喜んでいいのよ? 」
「今喜ぶとパスタソースが飛び散るから後にするわ」
合理的だ。そして、パスタが出来上がりテーブルに置かれる。
「いただきます」
「いただきまーす」
青白い光がパスタと野菜のきんぴらから立ち上り、アカネに吸収されていく。
「なるほど、お供え物扱いになるのね。それで神力とかいうのをちょっとずつ吸収していくと、そういうわけなのね」
「そうよ。だからもっと気軽に手のかかった料理を出してくれると嬉しいわ。結城さんの頑張りに期待がかかるわね」
パスタを食べる。魚介の旨味が凝縮されたソースが何とも言えず美味い。後、口の中が割と乾くので弁当には向かないな。弁当に入れるならもっとあっさり系か、カルボナーラあたりが良いだろう。明日の学校の昼食は決まったな。
「ねえ、午前中でもう一レベルあがるかな? 」
彩花がもくもくと食べる俺の姿を見ながら笑顔で問いかけてくる。
「んー、ゴブリン地帯を抜けてレッドキャップを抜けて、オーク辺りで戦ってたら上がるかも」
「そう、じゃあそれを目標にしましょう。オーク肉が落ちたらお昼はオーク料理ね」
「何作ろうかな。簡単に和風ステーキ辺りかな。角煮は手間も時間もかかるから昼食には向かないしね」
オーク肉料理か……豚肉の代替なら肉じゃがとか生姜焼きなんかもあり得る。まだ確実に落とすと決まったわけではないオーク肉に夢を見ている彩花だが、冷凍庫にまだオーク肉の塊が残っているので最悪それを使えばいいな、と考えている俺とはちょっと対照的だな。
待たせるのも悪いので、出来るだけ早く良く噛んでパスタを食べ終え、胡麻和えも美味しく頂き朝から野菜も摂ったしお腹も膨れたし、しばし水分を取って休憩してから早速探索開始だな。
装備を整えてさあダンジョンに入ろうか……としていると、何かダンジョン前でもじもじしている彩花の姿があった。
「どうしたの? 入らないの? 」
「入る前に……キスしてくれた方がやる気が出るかなって」
なんだこのかわいいいきもの。彩花ってこんなかわいかったっけ……ああそうか、レベルがあがってる分可愛さもあがっているんだな。
彩花を軽く抱きしめると、そのままキスの体勢。彩花は目を閉じて待っているのでこちらから出迎えに行く。
「幹也からキスをするなんてあらやだ、私じゃまかしらね。きゃー」
後ろで騒いでるアカネに青白い光が漏れていく。人の幸せ成分を吸収しているらしい。キスを終えてちょっと赤くなっている彩花の肩を軽くたたき、お姫様にお目覚めの時間を伝える。
「さあ、行くわよ」
赤くなった顔を誤魔化すように先にダンジョンに入る彩花。そんな所もかわいいと思ってしまうのはレベルのせいなのか、それとも彼女だという証を立てたからか。まあ、ほんとうのところはどっちでもいい、女の子の可愛い姿を見れたのだからそれだけでも充分ありがたいものなんだろうな。
「さて、デートの邪魔しに行くわよー。今の二人じゃ索敵もままならないだろうし、二人の世界に入り込んでる間にレッドキャップ辺りが邪魔しに入るかもしれないから監視役は必要よね」
なんだかんだ言ってついてくる気満々のアカネをひきつれて、俺専用……ではなくなった、俺達専用ダンジョンに入る。
ダンジョンの中はいつも通り。地図がある俺の手元を覗き込むように彩花が一見すると、さっさとレッドキャップ地帯に向かうようになった。どうやらさっきの一瞬で地図を記憶したらしい。瞬間記憶が得意なタイプらしいな。
道にも迷わず……というほど迷い道があるわけじゃないが、真っ直ぐ二層部分を目指して途中のスライムでドロップ品と経験値を稼ぎながら元気に歩いていく彩花の後ろをついていく。やがて肩を並べ、ゴブリンゾーンへ到着した。
「昨日来たのはここまでよね。今日の目的はこの奥よ」
「一応言っとくが、駅前ダンジョンほどモンスター密度は濃くないからな。ドロップ品がその分以上に落ちるのと、経験値が入る都合上、後、元々ソロ用のダンジョンとして設計されているから、という都合もある」
「じゃあ、私一人でも行こうと思えば行けるの? 」
「そういうことになるけど、二人で行く方が気楽じゃない? 黙々と作業せずに済むし、確実に目に見える成果は上がるし」
「それもそうね。じゃあ行きましょ。とりあえずレッドキャップのゾーンにたどり着くまでは色んなゴブリンが出るんだろうから、それに期待しておくわ」
彩花が率先してゴブリンを殴りに行くので、そのフォローが大変だ。新しいダンジョンで確実に金になる、というこの状況は彩花にとっては天国みたいなものなんだろう。十匹倒してもドロップがないとか、そんな一喜一憂をしなくて済むのも理由だろうが、経験値倍率がバグってるおかげで人の何百倍ものスピードで成長できる自分が楽しいらしい。
「幹也、ちゃんと見てるか、首輪につないでおかないとダメよ。あのままどこまでも飛んでいきそうだわ」
「そんな気はする。楽しそうだから本人は良いんだろうけどさ」
アカネとやれやれ……と心労を共にしながらゴブリンゾーンを抜け、シールドゴブリンとゴブリンアーチャーが出てくるエリアに差し掛かる。
「ここでも出てくるのねシールドゴブリン。でも一人で戦える今なら怖くないわね」
「ゴブリンアーチャーもいるから注意するんだぞ。大体同じ場所にセットでいるから」
「わかった、注意はしておく」
そういいつつ、シールドゴブリンを盾にしてゴブリンアーチャーの矢を受け止めさせたり、やりたい放題している彩花はなんというか……無邪気だな。子供にハイになるおもちゃを与えてしまってやっちまったかと思う親の心境だ。
もうちょっとしたら落ち着いてくれるだろうか。普段戦えなかった分の鬱憤やドロップが必ずある嬉しさに狂喜乱舞しているようにも見える。あれが俺の彼女か……駅前ダンジョンで同じことをし始めたら流石に注意しないといけないか。
「ねえ、そろそろレッドキャップじゃない? 」
「そうだ、ここからは静かにな。たまに二匹来るから引っ掛けないように注意しながら進まないと」
「駅前ダンジョンでもそうだったけど、ここでもレッドキャップは面倒ね」
「レッドキャップ対策のスキルをいくつか持っておくといいらしいぞ。ここではレッドキャップ本人が落とす【忍び足】以外出ないけどな」
そっと静かに歩きながらレッドキャップ地帯を進む。レッドキャップが前方に居たので、指を出してハンドサインで彩花に連絡。素直に従う彩花にやっと落ち着いてくれたか……という気持ちと、ここから真面目に探索を始めるか、という気持ちで満たされていく。
前方を歩いていたレッドキャップは俺の【忍び足】で気づかれることなく、逆に後ろを取ってステルスキル。そいつ以外に三匹相手にしたが、傷一つなく会敵できたのはアカネがこっそり教えてくれていたからだろう。やっぱり索敵みたいなスキルが欲しいもんだな。駅前ダンジョンをどこまで潜ればそんなスキルスクロールが出るんだろうか。それとも、複数のスキルを併合して実質的に索敵と呼べるものが出来上がるのか。
考えはともかくとして、目的のオークエリアまで来た。ここからは足音や叫び声に注意する必要はないので、二人で軽く腕を組みながらオークを探す。見つけたオークは同時に飛びかかって、二人で足の腱を切って転ばして、近いほうが心臓を狙って一突き、で終わる。
「ちなみにレベルが上がってくるとこういう手段も取れるようになるぞ」
オークに真正面から向かって、こん棒を持つ手を切り落として攻撃できなくなって屈もうとするところで首をはね落とすというプレイを見せつけた。
「なるほど、レベルが上がればそこまで出来るんだ」
「武器の差もあるかもしれないけどね。こっちのほうが射程が長いから」
「それなら、懐に入り切ってから弾き飛ばすって手段もありよね。勉強になったわ」
早速やって見たそうな彩花を横目に、次のオークを探す。見つけたのでそっちを指さすと、あっという間に駆けつけていった彩花が俺と同じ戦法を試してオークを切断しようとするが、どうやら切り込みが浅かったらしく、完全にオークの腕を跳ね飛ばすまではいかなかったらしい。しかし、首は落とせたらしく課題は残るがおおよそ形にはなっていた、というところかな。
「腕を切り落とせなかったのは問題点かな。安全が確保できないのに懐に飛び込むのもちょっと見てて怖いかも」
「そこまで心配しなくても大丈夫よ。懐に入った時点でオークはもうこん棒を振るえないんだから、もう片方の手を使うしかないわ。そっちに注意してたら問題ないわよ」
さて、二匹のオークは倒したが、まだ肉のドロップはなし。これは肉が落ちるまで続けるんだろうな。彩花の顔をそっと覗き込むが、彼女の瞳はまだキラキラしていて、帰る気配はなかった。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




