第61話:契約の時は契約書をよく読みましょう
そのままゴブリンを相手にし出し、自分の身体の動かし方を身に着けている彩花を後ろから眺める俺。ゴブリンも十匹ぐらい倒せばまたレベルが上がるだろう。しばらくの間は一匹しか出ないだろうし、二匹出てきたら一匹は対応した方が良いんだろうな。
「ねえ、そろそろドロップも拾ってくれると嬉しいんだけど」
「そういえば必ず魔石は落ちるのよね。スキルスクロールや他のドロップはどうなの? 」
「ドロップ率は単純計算で十倍ぐらいじゃないかな。魔石のドロップ率から換算すると、だけど。だからそれなりに落ちるし、この間二人で売った【忍び足】のスクロール、実は俺も拾ってスキル覚えてるんだよね。だから金はたんまり稼げる。換金の問題さえクリアできればだけど」
「そんなに稼いでるのに塩パスタなの……? 」
「塩パスタ作るの簡単だしさ。それに睡眠時間はできるだけ確保しておきたいから、朝は本当に簡単な物しか作らない。その分夕食に手間暇をかけてるってところかな」
「なるほど。幹也の食生活の秘密を少し握ったわ」
彩花がしきりに感心している。実際専業主婦でもなければ朝早くから起きて本格的な朝食を作る、なんてことは難しい。トーストとバターと目玉焼き、ぐらいはできそうなもんだけど、それでも塩パスタの時間効率にはなかなかかなわないし、今部屋にオーブントースターがないから諦めている。
ゴブリンをまた十匹ぐらい倒したところで、彩花が振り向き手を挙げた。
「またレベル上がったみたい……なんかあっけなくて実感がないんだけど、こんなに簡単にレベルって上がるものなの? 」
「このダンジョンではそうなってる。だから、悪いと思うならアカネに精一杯お祈りすればいいと思うよ。それで神力が溜まってアカネも成長するらしい」
「その内私よりいい女になるかもしれないってこと? それはちょっと妬けるわね」
「そこまで行くのにどれぐらいかかるかわからないけど……とりあえず、初めてあった時よりも十センチぐらいは身長は伸びてるかな。後おかっぱだった髪もああなってるから、成長するのは間違いないらしい」
肩から背中へ伸びようとしているアカネの髪をみて、彩花が不思議そうな顔をしている。
「とりあえず信心が大事なのはわかったわ。で、レベルが上がった影響でまた体の調子が悪くなりそうなんだけど」
「いったん戻って、スライム辺りで力の入れ加減を微調整しながら戻ろうか。時間も時間だし、あんまり遅くなると困るだろ? 」
「もうそんな時間なのね。忘れちゃいそうになってたわ。でもここ、いいわね。今後は平日のダンジョンは幹也にお世話になろうかしら」
「毎回熱烈なキスをお見舞いすることになるけど……そっちはいいのかな」
「慣れればいいだけよ……それに、気持ちよかったし」
顔を赤らめながら言う彩花に俺も顔が赤くなる。そのままもじもじと照れながら、出口に向かっていく。出口付近のスライム数匹で上がったレベル分の身体の調子を整えてもらい、変につんのめったりしないよう体の動かし方や最大限の身体を動かし方を意識したらどこまで動かすことができるのか、等を調節した後、ダンジョンを出ようとした。
「あれ、なんかまた私ダンジョンから出られないんだけど」
「出入りに必要ってこと……なのか? 」
「そう、かも」
「じゃあ、もう一回……しないと出れないからな。仕方ないな」
「そうね、仕方ないわね」
再び彩花と抱擁する。抱きしめた瞬間、彩花の体温が胸に伝わる。そして、甘く長い口づけを交わす。キスの時間が終わると、二人の口元の間に唾液が糸を引いていた。これはいかん、完全にエロスな雰囲気だ。
先ほどのキスの余韻がまだ唇に残っていて、鼓動が異常に早くなるのを感じた。
「……これで、どう、かな」
「試してみるね」
試したところ、今度は潜り抜けることが出来た。ダンジョンに出たり入ったりする際に、俺達は熱い口づけをしなければならないらしい。嬉しい……嬉しいが、それ以上の関係になりたいとも思ってしまうのが難点だな。俺の分身がザワザワと騒ぎ出して下半身に血液が集まる音がする。これはいかんな。
「ちーなーみーにー。今私と契約して信者になってくれれば、毎回熱烈なキスをしなくてもダンジョンに入れるお得なセットがあるけど、結城さんもどう? 安くしとくわよ? 」
アカネが雰囲気をぶち壊しにやってきた。
「じゃあ、さっきのキスは? しなくてもよかったんじゃないわけ? 」
彩花から猛抗議が飛び出す。そりゃそう思うよな。
「出るためには仕方なかったでしょ。それに契約はダンジョンの中では行えないしね」
「最初の舌……じゃない、ダンジョンに入る前のキスは? 」
「どこまで体液を交換すればダンジョンに入れるかどうか、私もデータが欲しかったのよね。だからその為には必要な儀式だったのよ」
やられた。完全にアカネの手のひらの上で踊らされていた。彩花も顔を赤くしてアカネに抗議をするかどうか爆発寸前だ。
「ちなみに……なんだけど。ダンジョンには入れるかどうかはさておき、俺とこういう関係……になるのは嫌だったかな? 」
彩花に確認しておく。もし流れだけであれだけの濃厚なキスをしてしまったのなら落ち度は完全に俺にある。いわば無理矢理そういう関係になるようにアカネがいたずら心を働かせたとはいえ、流れでそうなってしまったのではないかという確認だ。
「それ……は……」
彩花がたじろぐ。顔が更に赤くなって、リンゴのようになってしまっている。彩花としても手順を踏んで俺とお付き合いがしたかったかもしれない。その点はどうなんだろう。
「多分……いずれはこうなってた……と思う。ただ、今日じゃなかったかも」
口元を袖で隠しながら、ものすごく照れ臭そうに言うので、こっちまで照れてしまう。
「とにかく! キスしなくても使えるようになるならその契約受けるわ。条件は何? 」
落ち着いたのか、顔の赤さも元に戻りだした彩花がアカネに詰め寄る。
「条件は簡単よ。一つ、私と幹也の関係や専用ダンジョンについて、誰にも口外しないこと。二つ、幹也を裏切らないこと。この二つを守ってくれれば契約するわ」
「裏切らない……浮気、とかそういう話? 」
「うーん、浮気はちょっと違うわね。より良い男を見つけてそっちの方がいい男だと思うことは浮気に入らないもの。現代には妄想の自由があるんでしょ? 」
「正確には思想、信教の自由ね。憲法条文にそうあるわ」
「そこまで強制するつもりはないわ。ただ、幹也が今後どうしていきたいか、どうなっていくのか、というのを見定めてやってほしいのよ。この通り、横から茶々入れてやらないと毎日塩パスタで倒れそうな生活をしているし、私が背中を押すまで女の子にも指一本触れたりできなかったわけだし」
「確かに……そうかもしれないわね」
「おい、言いすぎだろ」
アカネと彩花が二人して頷いているのに思わず突っ込みを入れてしまった。
「だから、そういう含みを込めた意味で、幹也を見ていてやってほしい、というのが私からの条件。難しいかしら? 」
彩花は頭の中で色々考えた後、一つの結論を出した。
「ダンジョンの話は墓まで持っていく。少なくとも幹也と付き合ってる間は幹也を信用する。もしこの後何かいざこざやどうしようもないことがあって恋愛関係が消滅することになっても誰にも言わない。そういうことでいいのね? 」
「良いわよ。ついでに私のことも黙っておいてくれるのも追加してほしいところだけど、幹也に被害が及ばないならそれでよしとしておきましょう。契約は成立ね。今後ともよろしく、結城さん。彩花ちゃんのほうがいいかしら? 」
「なんか上から目線がむかつくから結城さんのままでいいわ。ともかくこれからよろしく」
「では……ここに契約は為された! 」
アカネが青白く光り、その光が彩花にもまとわりつく。しばらく発光した後元に戻る。ぱっと見で変わったようなところは……何もないな。いや、アカネがまた大きくなっているか。信者を得てまた一センチぐらい背が伸びた気がする。この調子で信者を増やしたりお供え物をしたりすれば、アカネも美少女になっていくんだろう。
「これで、ダンジョンに好きに出入りできるようになってるはずよ。一応確かめてみて」
「わかったわ……うん、出入りできるわね。これで私も幹也のダンジョン使い放題ってことでいいのかしら? 」
「おはようからおやすみまで好きに使っていいわよ。ただ、あんまり幹也に心配かけないことと、私も巡回してるわけじゃないから、ピンチになっても何も手出しできないことだけは覚えておいてね」
俺と同じ説明を受けると、とりあえずベッドの下から魔石入れにしている小箱を取り出し、手に入れた魔石を入れていく。
「ベッドの下、魔石入れだったのね。エロ本でも入ってるかと思ったわ」
「そういうのは別のところに置いてある。アカネが居るし、健全な成長にはよろしくないから隠したままなんだよね」
「知ってるわよ、勉強机の三段目よね。頭の中を読んだからわかるわ」
「わからんでいい。とりあえず次にダンジョンに行くときにここから持ち出す感じでいこう。オークチーフの……ああ、このダンジョンの中ボスの魔石は換金できないからまだここに置いたままで、リザードマンやオーク、今日のゴブリンの戦果ぐらいは次のデートで持ち出して換金できると思う」
箱の中からひときわ大きい魔石を説明して、これは今の所換金できないものとして説明しておく。
「数が多いことについては、二人で長い時間巡って大量のドロップならまだ説明はつくものね。今後はそういう形でやっていきましょう。私も平日ダンジョン潜るの止めるわ。こっちで潜ってレベル上げて、その上がったレベルで勉強した方が効率良さそうだし」
「今日は勉強どころじゃなくなっちゃったな。明日にしようか」
「明日午前中潜って探索して、午後から勉強会? 良いわね、自分の地頭がよくなってるかどうか確かめるにもちょうどいいわ」
荷物を片付け、玄関先まで見送る。
「じゃあ、今日は色々あったけど……今後ともよろしく、彩花」
「ええ、よろしくね、幹也」
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